ヤリスの作り手のトップが自ら参戦
2021年6月5日、富士スピードウェイでついにヤリスのワンメイクレース、ヤリスカップの記念すべきオープニングレースが行われた。2000年から歴史をつないで来たヴィッツレースからバトンを受け継ぎ、日本のモータースポーツの入門用レースが更新されたことになる。
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ヴィッツからヤリスへ、という変化はモデルチェンジとともに名前が変わっただけなので大きな意味はない。しかし、ネッツ店専売のヴィッツからトヨタ全店での扱いとなったことで、ヤリスカップへの参戦をスタートさせるディーラーは増えていくことだろう。つまり、このワンメイクレースに参戦するための間口はとても広いものになるハズで、ヤリスカップが拡大していくことは間違いない。
土曜日に予選・決勝を行うワンデーレースでの開催となった初戦、パドックは暑い熱気に包まれていた。天候のことではない。ヴィッツレースで腕を磨いてきたベテラン勢から、今回初めてのレース参戦となるニューフェイスまで、さまざまな人たちがこれから始まる新しい歴史への期待感を高めていたからだろう。
エントリー台数は91台。ベースマシンの納車が遅れているという情報もあったのだが、多くのヤリスが集まった。富士スピードウェイのスターティンググリッドは54。それ以上の台数でスタートすることは許されず、通常は予選落ちとなる。
だがヤリスカップではコンソレーションレースという救済処置があり、半分の周回数のレースを経験することができる。このあたりはヴィッツレースのフォーマットを引き継いでいる。
その中に注目される1台があった。それは#45新郷和晃選手。ヤリスを開発したトヨタ・コンパクトカーカンパニーのプレジデントであり、自らステアリングを握りレース初参戦を果たしたのだ。チームもまた自主的に参加した開発メンバーを中心に構成され、レースのスペシャリストは居ない。
その参戦目的は、ヤリスカップを自ら直接経験・体感することで、今後の開発にフィードバックさせたいというものだった。
「今まではレースに出た車両は特別な使われ方なので、何か壊れてお客様が困っておられても情報が入ってこなかったし、保証外なので改善対応もあまり行うことができませんでした。刷新したヤリスを新規にレースというフィールドに投入することが自分ごととなった時に、待っているだけじゃなく積極的にお客様をサポートしたい、レースのお客様だけでなく普通に乗られているお客様にもフィードバックできることがあるんじゃないかって気づいたんです。私はレースをしているというよりは、お客様と同じ思い、体験を直に肌で感じさせて頂いているのです」
しかし、初参戦となったレースでは手続きや準備も含めてさまざまな手間がかかり、サーキットでは忙殺されていたようだ。
「今回のレースは、エンジニア中心のメンバーでヤリスカップに参戦となります。レースを熟知している人間はいません。こういうカタチでいちエントラントとして参加するのは初めての形になります。本当は富士に入ってからはみなさんの意見などを伺いながら、と思っていたんですけど、自分たちのことで精一杯でなかなか余裕がなかったですね(笑)」
ヴィッツに比べるとブレーキが足りない
今回WEB CARTOPではヴィッツレースでチャンピオン経験もあり、ネッツトヨタ中部の社内レーシングチーム、ミッドレスのドライバーで、GRガレージ・ミッドレス豊田のGRコンサルタントでもある神谷裕幸選手との対談をセッティングしてみた。決勝レース直前だったため短い時間になってしまったのは、少し残念だった。
神谷:ボクは初代のヴィッツレースから出場してきたんですけど、やっぱりヴィッツレースがあったからレースを始めることができた人も居ましたし、今でも参戦を続けている人も居ます。ファンも多いですし、他のカテゴリーにステップアップしても、また戻ってくる人も居ます。そういう意味でヴィッツレースというのは、凄いレースだったなと思いますね。それが今シーズンからヤリスへ変わって、今までヴィッツレースをやって来た人も居ますけど、新しく参戦を始めた人たちも少なくないので、これまで以上の盛り上がりになっていくんじゃないかなと、思っています。
新郷:プラットフォームやパワートレインを一新してヤリスになったわけですけど新型ヤリスにはどんな印象を持ちましたか?
神谷:やっぱりプラットフォームが一新されたこともあって、ヴィッツから確実に進化してますよね。最初に乗った印象からすごく良くて、乗り心地もいいし、トルクもある。今回のマシンの慣らしもやったんですけど、長時間乗っていても疲れないですよね。クルマとしてすごくいいなと思いますよね。
新郷:レースマシンとして見ると、どうですか?
神谷:レースという面から見ると、フロントのディスクブレーキのサイズが小さくなっていたり、リヤがドラムブレーキになってしまっているのは、少し心配ですね。じつはブレーキについては、テストから苦労した部分でしたね。
新郷:ブレーキが足りないというのは、具体的にはどういうことなんですか? ボクは今回初めてレースに参戦しているんですが、最高速からフルブレーキングするとフラフラして不安定になるんだけど、それはホイールベースが短いからなのかな、と思っていたんですけど。
神谷:熱の問題ですね。3種類のブレーキパッドを試したんですが、硬いパッドだとブレーキが利かないし、利きを上げていくと熱がすごくなってしまってローターが600℃を超えてしまうんですね。そうするとブレーキだけじゃなくて、ハブベアリングなどにも熱害が出てしまうと思うんです。そのあたりはディスクローターが1インチ小さくなって、しかも厚さも薄くなってしまっているので、厳しいですよね。
新郷:ほかに不安材料というか、懸念されている問題はありますか?
神谷:ヴィッツはすでに熟成が進んでいたので、トラブルなどはなかったんですけど、構造的にも軽い接触などでボディパネルが損傷したような場合でも、ボルトで外せるような構造だったので、楽でしたね。それがヤリスになって一部で樹脂が使われていますが、どうなるのか少し不安ですね。
新郷:樹脂というと具体的にはどの部分ですか?
神谷:バンパー内側の取り付け部分ですね。レースでは前後のマシンと軽く接触してしまうようなこともあるんですけど、ヴィッツの時はボルトで外してパーツ交換すればバンパーが元どおりになったんですけど、ヤリスは樹脂になったのでちょっと変わってくるのかな、と思っています。
新郷:なるほど。ところで神谷さんは、ヴィッツレースから86レースへステップアップしてきましたが、ヤリスカップ参戦はどういう理由ですか?
速く走るためにはタイヤの使い方が鍵
神谷:ミッドレスからヤリスカップに参戦するお客さんがたくさんいるんですね。後輩のドライバーも居るんですけど、初めてのヤリスをゼロから開発していくにはまだ経験が足りなくて。それでボクがセットアップやブレーキや空気圧などの基本的なデータを作って、お客様に提供しています。
新郷:あれだけたくさんのお客様がいらっしゃって、ミッドレスって凄いお店だな、って改めて思いました。レースが好きなお客様がたくさん集まってくるんですね。
神谷:お客様に恵まれている部分もあって、みんな仲もいいし、練習に行く時もみんなで連絡とりあったりしています。
新郷:トップドライバーの感じていることを直接聞かせてもらえるのは大変参考になります。ヤリスカップで速く走るためには、何が必要ですか?
神谷:速く走ろうとすると、タイヤをいかに使うかということに尽きるんですね。タイヤ以上のことはできないので。最初は、自分より少し速い人について行くことだと思います。富士スピードウェイのような国際サーキットはコースも広いし、どこを走ればいいのか判らないと思うんです。目線も近すぎると思うので、前のクルマを追っかけていれば自然と遠くを見ることができますね。ドライビングポジションをしっかり決めて、目線をできるだけ遠くに、というのを意識して、前のクルマに着いていくというのがいいと思いますね。
新郷:競技はしたことはないですけど、社内で運転訓練はときどきやっているんですね。その時に86だったりすると限界も高いので、それなりにやれてる気はするんだけど、ヤリスの細いタイヤだとそのなかでやらないといけなくて、アンダーステアが出てアンダーのままで走ってしまうこともあるんです。基本に帰らないとダメだと思わせてくれますよね。
短い時間の対談は、あっという間に終わってしまった。最後に新郷さんに、今回のヤリスカップ参戦を含めて、まとめてもらった。
「ヤリスはコンパクトカーなので、みなさんに安く便利に使ってもらえるのが大切である一方、トヨタのモータースポーツのエントリーでもあります。普段使いとこうしたレースのような過酷な状況で使われる。それを両立させていきたいな、と思います。
今回サーキットに来てレースを体験したことで、私に上げられてくるリポートを読むだけとはまったく印象が違う。実際に自分の目で見たことで、リアルな体験として今後に反映させていけると思います。
ヤリスが日本のモータースポーツの入り口になっていると思いますので、今後もより多くの皆さんが安全に安価にモータースポーツを楽しめるように、進化させていきたいですね。
じつはもう、いいアイディアをひとつふたつ思いついているんです。もっといいクルマ、楽しいクルマになりそうですし、お客様以上に自分が一番ワクワクしているのかもしれません。早くお客様にお届けしたいからです! ボク自身も開発者としてだけではなく、ひとりのユーザーとして、ひとりの参加者として、進化に期待したい部分もありますね」
ミイラ取りがミイラになる? ヤリスカップがまたひとり、モータースポーツフリークを作ってしまったようだ。 ※トヨタのカンパニー制度
トヨタ自動車は2016年4月から、社内に7つのカンパニーを設けて、製品群ごとに商品計画や製品開発を行っている。それぞれのカンパニーが独立した会社であるかのように意思決定することが可能で、素早い決済やコスト管理など、効率的な経営・運営を目的としている。コンパクトカーカンパニーはそのひとつで、トヨタでもっとも小さいヤリスやアクア、ジャパンタクシーなどのBセグメントと、カローラ、プリウス、C-HRなどのCセグメントを担当している。
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