ピットの上からマシンを覗く
2023年9月22日から24日にかけ、三重県の鈴鹿サーキットで「FIA F1世界選手権 第17戦 2023 Lenovo F1日本グランプリ」が開催されました。筆者(武田信晃)は予選が開催された23日に、アストンマーティンのメディアツアーに参加する機会を得たので、VIPなどが利用する「パドッククラブ」からレース会場の様子を紹介したいと思います。
パドックとは元々、競馬場で馬がスタッフにひかれて周回する場所のこと。観客は出走前の馬の状態を観察でき、馬券を検討するうえで大事になります。
モータースポーツにおいては、一般的にピット裏のスペースのことを指します。鈴鹿サーキットには、ヨーロッパのサーキットに設営されるようなモーターホームはありませんが、その代わりに巨大なテントが設営されていて、各チームのドライバーやスタッフが過ごしています。ちなみに一般人がここに入るには観戦チケットを購入する必要があります。今回の値段は78万円でした。
鈴鹿サーキットのパドッククラブはピット上の2階にあり、チームやスポンサーごとに区画が振り分けられています。それぞれのチームは独創的な内装を施し、食事や飲み物などが提供されます。いざマシンが走り出すと、テラスに出てピットの上からマシンを眺めることができます。
パドッククラブ内には大型スクリーンがあるほか、各マシンのラップ(編注:モータースポーツにおいて、周回ごとの走破タイム)を捉えるモニターもあるので、それを見ながら観戦もできます。テラス自体は仕切りがないので、レッドブルやフェラーリなど他社のピットの上に行くことも可能です。アストンマーティンは、パドッククラブのほぼ真下にピットを構えていました。
アクセル全開のコーナリングを体験!
チームによってパドッククラブのサービス内容は異なりますが、アストンマーティンでは、ピット作業の様子を見学できるようにしています。見学エリアには、ラップタイムなどを見られる前出のディスプレイがあるほか、ヘッドホンを使ってスタッフの会話なども聞けます。ドライバーがピットからコースに出る時、スタッフが「Hold, hold」(待機、待機)と声を出しタイミングを見計らっていました。もちろん、ピットの雰囲気には張り詰めたものがあります。
アストンマーティンのマシンは、「ヴァンテージ」がセーフティーカーに、「DBX707」がメディカルカーに採用されています。専属ドライバーが運転し、筆者は助手席に乗ってサーキットのフルコースを全開で1周する「ホットラップ」というイベントを体験しました。同様の企画はメルセデスとアルピーヌのチームでも行われています。
乗車したのはDBX707。メディカルカー担当のカ ール・レインドラー氏は「鈴鹿は本当にドライバーズサーキットですが、一番難しいのはスプーンカーブの出口へのアプローチです。アクセルを早く開けたくなるけど辛抱します。そうでないと、スプーンカーブ出口でスムーズに立ち上がれないからです」と話してくれました。
走行前、筆者は「できるだけ全開で」とお願いしたのですが、130Rでは体がすごい勢いで右に持っていかれそうになりました。2023年7月にDBX707を試乗し、そのすごさを実感していたはずですが、今回はプロのドライバーによるDBX707の実力を体験できました。
ベテランドライバー「同じ状況はひとつとしてない」
予選終了後、セーフティーカーなどのドライバーを20年以上務めているベ ルント・マイレンダー氏が、2つの車両が保管されているピットに招き話を聞かせてくれました。「世界中を回るのでフィジカルコンディションを維持するのも大変です。F1はセーフティーカーよりも圧倒的に速いわけですから、どれくらいのペースで走るのかは気をつけています。同じ状況はひとつとないので集中力も必要です」
ピットウォークの機会では、ピット内には入れないものの、調整をしているメカニック、ピット前に置かれたフロントウイングなどをつぶさに見られました。また、ピット裏のパドックでは突如として、有名ドライバーにも遭遇。アストンマーティンのランス・ストロールやピエール・ガスリー、そして人ごみが向こうから移動してくるなと思ったら、それは角田裕毅が大勢の人を引き連れていました。
また、世界のテレビ局が中継を行っていました。イギリスの放送局「スカイ・スポーツ」は、ジェンソン・バトン、ニコ・ロズベルグ、ダニカ・パトリックなど豪華な解説陣で知られているのですが、筆者が目撃したのは、1996(平成8)年のチャンピオンに輝いたデーモン・ヒルと、インド人として2人目のF1ドライバー、カルン・チャンドックの中継でした。
ツアーに参加した日は快晴で、気温は27度。厳しい残暑がようやく落ち着き、また新型コロナウイルスも5類となり、今年は大勢の観客が詰めかけていたのが印象的でした。「パドッククラブ」での観戦は、客に最高の体験をしてもらうというのがコンセプトなので、マシンを間近で見られるだけでなく、一流の料理なども振る舞われるなど非日常を体験できます。
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