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空港で鳴った不吉の前兆。アウディへの失望と“先輩の後押し”あったプジョー加入の裏側をニコ・ミューラーに聞く

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空港で鳴った不吉の前兆。アウディへの失望と“先輩の後押し”あったプジョー加入の裏側をニコ・ミューラーに聞く

 2014年からアウディスポーツに所属し、DTMドイツ・ツーリングカー選手権を中心にさまざまでカテゴリーで活躍してきたニコ・ミューラー。9月14日には今季限りでアウディスポーツを離れることがプレスリリースと本人のSNSで発表され、その翌日にはプジョー・スポール加入が公式発表と、大きく世間を賑わせた。

 今季の活動やアウディとの契約終了について、そしてプジョーへの移籍の裏側や今後の目標などを、現在30歳のミューラーにじっくりと聞いた。

アウディ離脱のニコ・ミューラーがプジョーへ。2023年WECでのレギュラーシートを獲得

──今季のDTMは開幕戦優勝という幸先の良いスタートでしたが、途中リタイアが続くなど、苦しい展開が続いていますね。

ニコ・ミューラー:去年はクラス1からGT3マシンにスイッチし、初年度は手探りの状態で参加チームも少なかったが、今年は強豪チームが集まり台数もぐっと増えた。そのうえ、ドライバーのレベルもこれまで以上に上がり、昨年とは比べ物にならないくらいにフィールドは大きく成長した。

 とく今季のDTMはBoP(性能調整)を可能な限り平等にしたせいか、ものすごい接戦状態になっているし、サーキットによってメーカーのパフォーマンスが発揮しやすい・しづらいという特徴が顕著に見える。それだけに前方に立つということがどれだけ難しいか、身をもって思い知っている。さまざなGT3レースに参戦してきたけど、恐らく今季のDTMは、どのGT3シリーズよりもレベルが高く激しいのではないかと感じている。

──レネ・ラスト、ミルコ・ボルトロッティ、マルコ・ウィットマン、マーロ・エンゲル、マキシミリアン・ゲーツ、ファン・デル・リンデ兄弟、トーマス・プライニングをはじめ、ヨーロッパのトップGTドライバーがそろっていますが、この激しい毎戦をエンジョイしていますか?

NM:間違いないね! ときとして過度なバトルを仕掛けてきたり、アドレナリンが出過ぎるドライバーもいて、ムカつくこともあるけど、めちゃくちゃエンジョイしているのは間違いない。だから、リタイアせずにポイントを獲得すること、セッションを終えてマシンにダメージを極力ない状態でピットに戻すことが、どれだけホッとすることか(苦笑)。

──アウディ在籍中にはS1でラリークロス、RS5でDTMクラス1、フォーミュラE、GT3とあなたほど多様なマシンを駆りレースに出たドライバーはいなかったと思いますが、どのマシンが印象に残っていますか?

NM:もちろん、クラス1のDTMは特別だった。マシンのポテンシャルも最高だったし、競技規則もドライバーとしては良かった。スーパーGTとの将来も僕たちDTMはとても楽しみにしていたし、あのときは日独の素晴らしい未来を信じて止まなかった。

 マラケシュで行われたフォーミュラEのルーキーテストでは、自分のポテンシャルを発揮できて忘れられない日となったし、初めて乗ったラリークロスではクワトロでオフロードのガチンコ勝負での激しさにビックリしたし、生まれてはじめて自分の限界まで攻めたよ(笑)。

 フォーミュラしか知らずにアウディのワークスドライバーになった僕に、アウディがこんなにさまざまなマシンで数多くのレースに挑戦させてくれたお陰で、キャラクターの違うメカニズムやドライビングスタイルを数多く学び、ドライバーとして成長し、引き出しを多く作ることができた。本当に感謝しかないね。ひとつのカテゴリーに留まることなく、これらのチャレンジは今後もずっと続けるつもりだ。来季はフォーミュラEとWECというまったく違うカテゴリーに平行して参戦できることも楽しみで仕方がない。

──今季はGTワールドチャレンジ・ヨーロッパのエンデュランス・カップで、WRTから参戦する元MotoGPライダーのバレンティーノ・ロッシのチームメイトでもありましたね。

NM:バレンティーノはとても素晴らしい人柄で、クールガイだよ。カテゴリーが二輪から四輪に変わったと言えども、彼の学びに対する貪欲な姿勢やその成長、吸収力はすさまじく、そんな彼と組んでGTワールドチャレンジやスパ24時間レースに挑戦できたことはとても栄誉なことだったし、彼とのレースを心から楽しんだよ。

 できることなら、彼の四輪レースキャリアをこのまま一緒にタッグを組んで戦いたかったけれど、来年はもう一緒にレースができないと思うととても残念だ。GTワールドチャレンジの最終戦のバルセロナでは、彼との時間を心から楽しもうと思う。

■アウディのLMDh中止に「目の前が真っ暗になった」
──アウディがLMDh車両の開発を完全に中止しましたが、どのようにあなたはその知らせをアウディから受けたのですか?

NM:確か、レネ・ラストと何かのレースかテストのために移動をしている最中で、空港にいたときだった。アウディからスマートフォンに送られてきたメールに、ミーティングへの招集が記載されていたんだ。レネと一緒に隣同士に空港の椅子に座っていて、ふたりが同時に同じ内容のメールを受信し、思わず顔を見合わせて、この感じだとものすごく良いことかものすごく悪いことしかないだろうな、と言い合い、なんとなく悪い予感がした。

 僕とレネはLMDhの開発ドライバーもしている中で、何となく正確な方向へ行っていないのではないかと感じていたからね。

──ミーティングに参加し、アウディ幹部からLMDhの開発中止を言い渡された時、どんな心境でしたか?

NM:突然目の前が真っ暗になった。自分の次のキャリアやステップアップに希望を抱き、そして自分の次の目標を描き、それに向かって邁進している最中に、突然幕を下ろされるなんて、誰が想像していただろう。それによって、ものすごくフラストレーションが溜まった。

 それも、このLMDhプロジェクトはここ数カ月で始まったのではなく、何年も前からこつこつと日々開発を続けていたし、僕たち開発ドライバーもどれだけの情熱をもって、ル・マンを夢見て頑張ってきたか……。

 アウディのLMDhの完全撤廃は、世間のみんなが知っているようにF1の新レギュレーションが決定した直前だった。組織的に見るとF1とLMDh、そしてダカール等の大きなプロジェクトを同時に行うのが非常に難しいことは理解できるが、もっとその中にいる人間のことも考えて欲しかったと思う。これで僕のアウディのキャリアは絶たれたことに間違いないから。

──あなたはおそらく、シミュレーターのドライブは数多くこなしていましたよね?

NM:シミュレーションはもちろんのこと、何度もアウディスポーツへ通い、エンジニアらとLMDhのマシン作りに多くの時間を割いて、よりよいマシン作りをしようとみんなで一丸となっていた。僕ひとりではなく、LMDhのプロジェクトに所属しいていた全員が、突然何もすることがなくなる、この先の目標を失うなんて、本当に信じられなかった。

──LMDhの中止がなければ、アウディに留まっていましたか?

NM:もちろん! アウディファミリーの一員となって約9年、自分としてはアウディワークスの仲間たちとは調和が取れて、よい関係が続いていたと思う。彼らと一緒によいクルマを作り、彼らと一緒に勝利を遂げたいといつも思っていた。だからこそ、この先の契約書にもサインは既に済ましていたんだ。それだけに、本当にショックで残念でならなかった。

──では、どういった経緯でプジョーへ加入することになったのですか?

NM:プジョーのLMHプロジェクトの幹部には、元アウディワークスのLMP1出身者が何名もいて、以前からよく一緒に仕事をしていた仲だったし、彼らがアウディから離れても交流は続いていたので、彼らを通して少しずつプジョーとの関係性を築いていった。

■ル・マンでのセバスチャン・ブルデーの高評価
NM:今季、(アウディのLMDhプロジェクトの一環として)初めてル・マン24時間レースへLMP2をドライブして参戦したんだけれど、チームメイトのひとりがセバスチャン・ブルデーだった。残念ながら僕らのマシン(ベクター・スポーツ10号車)はピットに留まっていることが多かったんだけれど、ル・マンの経験豊富な先輩ドライバーのセバスチャンが、僕の走りについてかなり高評価をしてくれたことも、プジョー入りに大きく結びついたひとつだった。

 今年のル・マンに来ていたプジョー関係者も僕の走りを陰ながらチェックをしていてくれたらしく、その後プジョー幹部らからミーティングに招待され、長い時間をかけてその日はお互いを理解する機会に恵まれた。それからも少しずつ時間をかけて、今後どのように一緒に仕事ができるだろうか、と数多く話し合いを重ねてきた。

 僕のプロレーシングドライバーとしての目標と新しい章は、プジョーとだったら成し遂げられるのではないか、そう確信したので思い切って移籍することにしたんだ。

──初参戦だった今年のル・マン24時間レースはいかがでしたか?

NM:コースレイアウトは唯一無二だし、レーシングドライバーならば誰もが憧れ、目標とする伝統的な世界最高峰の24時間レースに参戦することは、この上ない光栄だった。今年のLMP2クラスからの参戦はアウディLMDhへ向けての経験を積むための参戦ではあったけど、実戦を通して数多くのことを学べたし、何がなんでもトップカテゴリーで戦いたいと強く思った。

 マシントラブルなどで、かなり長い時間をピットで過ごすことになったものの、その短い時間内でマシンのパフォーマンスを最大限に引き出すことができたし、実質的にはプジョーのシートをつかむきっかけのひとつになった。

 100周年大会という歴史的なレースにプジョーの一員として、あのル・マンのスターティンググリッドに立てる日をいまから待ち遠しく思っているし、目標はもちろん総合優勝だ。僕のレーシングドライバーとしての次の目標を達成するために、努力は惜しまない。

──すでにプジョー9X8には乗りましたか?

NM:まだ乗っていないが、これからシート合わせをしたり、じっくりマシンのことを学べるのを楽しみにしている。

──プジョーではあなたの旧知のDTMドライバーのロイック・デュバル、ポール・ディ・レスタがいますね。

NM:ロイックはアウディで長く一緒にやってきているので良く知っているし、互いの移籍先も同じなので嬉しい。すでにロイックはマシンをドライブしていることもあり、いろいろとレクチャーしてくれている。ポールは同じくDTMでずっと一緒だったし、顔見知りではあるけれど実はほとんど話したこともないし、良く知らないんだ。プジョーでチームメイトとなったので、今後ちゃんとお互いを知ることを楽しみにしているよ。

──9月に久々に富士で開催されたWECでは、プジョーのマシンは大きく話題に上がり、関係者やファンが新たなマシンの登場を喜びました。

NM:とくにプジョーのハイパーカーのデザインは一種独特で、他のマシンとは違って目を引くね。日本の多くのファンが興味を示してくれてとても嬉しいし、来年には僕もプジョーの一員として富士へ行けることをとても楽しみにしている。2023年、2024年には一気にハイパーカークラスが賑わうので、ハイレベルな戦いが待ち遠しくて仕方がないよ。

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