上質感のあるデザインだが高価で選択肢が限られるのがネックに
クルマのビジネスは難しい。「どうして?」と思う売れ方をすることも多いからだ。トヨタ・アルファードとヴェルファイアの姉妹車では、かつてヴェルファイアが好調に売れたが、フロントマスクの変更で順位が入れ替わった。トヨタの全店が全車を扱う体制になり、瞬く間に売れ行きに10倍の差が開いた。ヴェルファイアは以前の特別仕様車を残して、グレードを廃止している。
ミニバン市場に異変! バカ売れだった「ノアヴォク・セレナ・ステップワゴン」が売れないワケ
トヨタ・ヴォクシー/ノア/エスクァイアの姉妹車も同様だ。2020年度(2020年4月から2021年3月)の登録台数を見ると、ヴォクシー:7万1903台、ノア:4万6755台、エスクァイア:1万9800台だから、大幅な販売格差が生じた。上記の売れ行きを3姉妹車の合計台数に占める比率に換算すると、ヴォクシー:52%、ノア:34%、エスクァイア:14%だ。エスクァイアが目立って少ない。
3姉妹車のうち、エスクァイアだけは発売タイミングが異なる。ヴォクシーとノアは2014年1月に現行型へフルモデルチェンジされたが、エスクァイアは同年10月に新規投入車種として加わった。
当時はヴォクシーがネッツ店、ノアはカローラ店が扱い、トヨタ店ではミドルミニバンとしてアイシスを販売していたが、売れ行きは伸び悩んだ。トヨペット店のミニバンは、アルファードとマークXジオだからボディが大きく価格も高い。
そこでトヨタ店とトヨペット店に、ヴォクシーとノアの姉妹車としてエスクァイアを投入した。この2系列店には上級車種が多いから、エスクァイアは縦方向にスリットを入れた大型メッキグリルを装着して、インパネには合成皮革を使った。
装備も充実しており、ヴォクシー&ノアではスライドドアの電動機能が左側のみに装着されて右側はオプションだが、エスクァイアでは両側に標準装着する。そのためにエスクァイアの価格はヴォクシー&ノアに比べて高く、なおかつエアロパーツを備えた3ナンバーサイズのグレードはない。選択肢も限られた。
メインユーザーである子育て世代の支持を集められなかった
さらにエスクァイアは新規投入車種だから、ヴォクシー&ノアと違って従来型からの乗り替え需要もない。これらの事情で2016年の3姉妹車の販売比率は、ヴォクシー:48%、ノア:29%、エスクァイア:23%であった。
このときに比べると、現在はヴォクシーが4%、ノアは5%増えて、エスクァイアは9%減っている。前述の通り以前から低かったエスクァイアの販売比率が、今はさらに下がった。2020年5月からトヨタの全店で全車を扱う体制になり、トヨペット店やトヨタ店でも、ヴォクシーやノアが堅調に売れ始めたからだ。ちなみにヴォクシーは、同じ店舗がノアも扱うことから標準ボディを廃止して、エアロ仕様のZS系のみになったが売れ行きは下がらない。
エスクァイアの販売下降について、トヨペット店に尋ねると以下のように返答した。
「トヨペット店では、以前はエスクァイアのみを販売していたが、今はヴォクシーが売れ筋だ。ミニバンには子育て世代の比較的若いお客様が多く、エアロパーツを装着したカッコイイ外観が好まれる。このニーズにヴォクシーはピッタリだ。また将来の話だから断言できないが、現時点ではエアロ仕様のヴォクシーは中古車市場でも人気が高く、有利な条件で売却しやすい。これも人気を高めた理由だ。逆にノアは低価格の標準ボディが強みになる。その点でエスクァイアは、質感は高いが、エアロ仕様がなく価格も高めで不利になった」。
今は日産セレナならハイウェイスター、ホンダ・ステップワゴンはスパーダという具合に、ミニバンではエアロパーツを装着したグレードの人気が高い。エスクァイアは5ナンバーサイズの標準ボディに上質な内装を組み合わせて、独特の渋い魅力を感じさせるが、今のトレンドには沿っていない。
エスクァイアの豪華指向のフロントマスクに、エアロパーツを装着して存在感を強める方法もあるが、今のトヨタは姉妹車を減らす方針だ。全店が全車を扱う今になって、エスクァイアのテコ入れをすることは考えにくい。
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