現在位置: carview! > ニュース > スポーツ > ビザ・キャッシュアップRB、略して読むか? フルネームで読むか? 新名称の裏側にあるレッドブルの戦略

ここから本文です

ビザ・キャッシュアップRB、略して読むか? フルネームで読むか? 新名称の裏側にあるレッドブルの戦略

掲載
ビザ・キャッシュアップRB、略して読むか? フルネームで読むか? 新名称の裏側にあるレッドブルの戦略

 これまでスクーデリア・アルファタウリと呼ばれていたレッドブル傘下のイタリアンチームは、2024年シーズンのF1に「ビザ・キャッシュアップRB」として参戦することになった。正式名称が発表されて以来このチーム名称が大きな反響を呼んでいるが、この新名称の裏にある戦略は、F1では目新しいモノではない。

 この記事のタイトルを読んで「そのまま読めばいいじゃないか」と思う読者もいるだろう。それはその通りなのだが、そこにロジックがあるのだ。

■角田裕毅、新シーズンに向けてF1テスト実施。極寒のイモラで2022年のAT03走らせる

 アルファタウリからビザ・キャッシュアップRBへの名称変更は、チームのSNSでの“勇み足”によって正式発表前から既に周知のことだったが、タイトルスポンサーを務めるビザとキャッシュアップを全面に押し出した正式名称が公のモノとなってからは賛否両論が寄せられている。

 名称に対する美的感覚や価値観については、人それぞれの意見があるだろうし、あまり重要なことではない。実際、誰がどう思おうと、この名称に慣れてしまえば話題として取り上げられることもなくなるだろう。

 ただ、ビザ・キャッシュアップRBのようなチーム名称に対する否定的な意見の中には、スポーツが変容し、ビジネスやマーケティング的な利害が露骨に表れているというモノもある。しかし、F1は変わったのだろうか?

 チーム名にスポンサーを入れること、あるいは単にチーム名/メーカー名を正式名称にしないことは今に始まったことではない。1968年の「ゴールドリーフ・チーム・ロータス」に始まり、1974年の「マルボロ・チーム・テキサコ(マクラーレン)」や1983年の「フィラ・スポーツ(ブラバム)」、2018年までの「アストンマーティン・レッドブル・レーシング」など例に事欠かない。

 F1エントリーリストにはこうしたマーケティング戦略が満載だ。その変遷を見てみると、2020年代のF1では特に変化が起きているように見えるが、その根本は変わっていない。

 基本的にアイデンティティの重要性は不変であり、上記にあるチーム名がその好例と言える。これらのスポンサーがどれほど重要だったとしても、今日残っているのは歴史的なコンストラクターの名前だけなのだ。

レッドブルの優れた戦略

 レッドブルが打ち出したセカンドチームの名称は実に賢明だ。チームは長らく噂されてきた“レーシングブルズ”と名乗ることもできたはずだが、単なる“RB”としたことで、メディアではスポンサー名も入れて言及せざるを得ない、スポンサーとしては喜ばしい状況を作り出すことができたのだ。

 このチームをアルファタウリと呼び続けることも、かつてのトロロッソ(あるいはミナルディ)と呼ぶことは正しくない。そしてレーシングブルズと呼ぶのは、F1チームではなくその背後にいる会社を指すこととなる。これはザウバーがステークF1(2023年までのアルファロメオ)の背後にいる会社であり、2015年にマルシャF1の後ろにマノーがいたのと同じだ。

 ただRBと呼ぶのはあまりに薄っぺらで、なによりレッドブル・レーシングと混同してしまう危険性がある。という訳で、ビザ・キャッシュアップRBと呼ぶことが、事実を捻じ曲げること無く、混乱を招く可能性が最も低い呼び方だと思われる(そう呼ばざるを得ないのかもしれないが……)。

 結局のところ、シーズンが開幕していない現段階から、今後どのような名称が広く定着するのかを考えるのは難しい。おそらく一般のファンに定着するのは、スポンサー名を全て含む名称を呼ぶことに対抗してレーシングブルズと呼ぶか、RBと呼ぶかのどちらかだ。中には頭文字を取って「VCARB(ヴィカーブと発音)」と呼ぶことを提唱する人々もいるが、これは実況解説者泣かせの選択だろう。

 チームの最高経営責任者(CEO)を務めるピーター・バイエルが2023年末に「ジェネリック」なアイデンティティになると語った時、彼はこれを暗示していたのだ。

トロロッソ、アルファタウリ、そしてRB:白紙だからこそできるマーケティング戦略

 そうすると、ビザ・キャッシュアップRBというチーム名称が何も意味を成さないことが見えてくる。名称からアイデンティティをここまで消すことができるのなら、このチームにとってアイデンティティの有無は問題ではないということだ。

 実際、イタリア・ファエンツァに本拠地を置くこのチームは、レッドブルのセカンドチームになって以来、独自のアイデンティティを持ったことがない。トロロッソは単にレッドブルのイタリア語訳であり、アルファタウリも単なるレッドブルのアパレルブランドの名前だ。RBやレーシングブルズはレッドブルを連想させるモノにすぎない。

 またトロロッソとアルファタウリの時代には、イタリア語で馬小屋やチームを指すスクーデリアが名称に入れられていた。今回の名称はイタリアへの関連性がないが、それがあったからといって、このチームにアイデンティティが生まれるという訳でもない。それはファクトリーのアイデンティティであり、チームそのものではない。

 レッドブルは傘下の2チームで完璧な“駆け引き”を演じていると言える。まずレッドブル・レーシングはF1界のリーダー的存在であり、ブランドのアイデンティティを体現している。一方でセカンドチームは真っ白なキャンバスであり、そのままマーケティング活動に利用できるのだ。

 もちろんその他のチームでは、メルセデスAMGペトロナスはメルセデス、アストンマーティン・アラムコはアストンマーティン、BWTアルピーヌはアルピーヌといった具合に、自分たちが何者であるかが明確に示されている。

 シャシー製作でダラーラと提携を結び、フェラーリから最大限パーツを購入する、おそらく“コンストラクター”からは最もかけ離れたモデルケースであるハースでさえ、アイデンティティを捨てることはできない。

 そしてプライベーターであるウイリアムズは、このリストの中で最も本質的なケースだろう。本家の手を離れた今、将来を予測することはできないとしても、その名前は依然として大きな歴史と意味を持っている。

 では、ザウバーはどうだろうか? ペーター・ザウバーが起こしたコンストラクターとしてメルセデスと共に1989年のル・マンを制するなど成功を収め、独自のアイデンティティを築いた。

 しかしメルセデスの尖兵としてF1に出場して以降、時にBMWに買収されたりアルファロメオにネーミングライツを売却したりと、ザウバーという名前が表に出てこない時期も長い。アルファロメオが2023年末で離れても、ザウバーは2024年と2025年にステークというスポンサー名でF1に参戦。2026年からはザウバーを買収するアウディのワークスチームとしてグリッドに並ぶこととなる。

 このようにザウバーは、F1チームを運営しながらも“裏方”に徹するスタイルのコンストラクターだ。聖書にもある通り、太陽の下に新しいモノは何ひとつない。かつて起こったことは、これからも起こりうるのだ。ある意味、レーシングブルズもこのスタイルを踏襲していると言える。

 F1への関心が高まり、スポンサー活動が活発化し、チームも最大限その波に乗ろうと動いている。誰もがF1での露出を利用したいと考えており、チームはパートナー企業をアピールする最良の方法を模索している。言及せざるを得ないタイトルスポンサー枠の誕生は、スポーツとしての成功の代償でもある。

こんな記事も読まれています

ついに始まった首都高「新ルート事業」の凄さとは 「箱崎の渋滞」も変わる!? 都心に地下トンネル「新京橋連絡路」爆誕へ
ついに始まった首都高「新ルート事業」の凄さとは 「箱崎の渋滞」も変わる!? 都心に地下トンネル「新京橋連絡路」爆誕へ
くるまのニュース
新型コンパクトSUV『EMZOOM』、世界市場で成功…中国広州汽車
新型コンパクトSUV『EMZOOM』、世界市場で成功…中国広州汽車
レスポンス
日本でまさかの拳銃を使ったタクシー強盗発生! キャッシュレス化で現金をもたない仕組み作りが一番の解決策
日本でまさかの拳銃を使ったタクシー強盗発生! キャッシュレス化で現金をもたない仕組み作りが一番の解決策
WEB CARTOP
本田宗一郎とイーロン・マスクに共通点があった? 稀代の経営者を支える「無知の知」とは何か
本田宗一郎とイーロン・マスクに共通点があった? 稀代の経営者を支える「無知の知」とは何か
Merkmal
全長5m級!トヨタが新たな「ラージSUV」まもなく発売!? 17年ぶり復活! 斬新フェイス&車中泊出来そう空間の「クラウン」 発売はどうなった?
全長5m級!トヨタが新たな「ラージSUV」まもなく発売!? 17年ぶり復活! 斬新フェイス&車中泊出来そう空間の「クラウン」 発売はどうなった?
くるまのニュース
伝統を継承するマッスルクルーザー! スズキが米北米市場で2025年型「ブルバードM109R」を発売
伝統を継承するマッスルクルーザー! スズキが米北米市場で2025年型「ブルバードM109R」を発売
バイクのニュース
フレキシブルウイング巡る論争が再燃。メルセデスに注目集まるも、今のところFIAは介入せず
フレキシブルウイング巡る論争が再燃。メルセデスに注目集まるも、今のところFIAは介入せず
motorsport.com 日本版
驚異のパフォーマンス向上! 最新スパークプラグの技術とその効果~カスタムHOW TO~
驚異のパフォーマンス向上! 最新スパークプラグの技術とその効果~カスタムHOW TO~
レスポンス
シボレー コルベット【1分で読めるスーパーカー解説/2024年最新版】
シボレー コルベット【1分で読めるスーパーカー解説/2024年最新版】
Webモーターマガジン
『ぽんこつジムニー』ハコ替え計画26-1「JB64のシートを移植しよう」
『ぽんこつジムニー』ハコ替え計画26-1「JB64のシートを移植しよう」
グーネット
【新車価格情報】軽自動車 デビュー&改良情報(ダイジェスト)※2024年6月20日時点
【新車価格情報】軽自動車 デビュー&改良情報(ダイジェスト)※2024年6月20日時点
カー・アンド・ドライバー
日産が新型「流麗セダン」初公開! “キラキラ”大型グリル&精悍ホイール! 最新機能モリモリの小型セダン「セントラ」ブラジルで発売!
日産が新型「流麗セダン」初公開! “キラキラ”大型グリル&精悍ホイール! 最新機能モリモリの小型セダン「セントラ」ブラジルで発売!
くるまのニュース
日本上陸が待ち遠しい! ジープ最小コンパクトSUV 新型「アベンジャー」の欧州での受注が早くも10万台突破 愛される理由とは
日本上陸が待ち遠しい! ジープ最小コンパクトSUV 新型「アベンジャー」の欧州での受注が早くも10万台突破 愛される理由とは
VAGUE
ケータハムが70~80年代の人気モデルに現代風のアレンジを加えた「スーパーセブン600」と「スーパーセブン2000」を発売
ケータハムが70~80年代の人気モデルに現代風のアレンジを加えた「スーパーセブン600」と「スーパーセブン2000」を発売
@DIME
【おもちのビート】レンタカーのS30Zで峠と高速道路を運転したら色々とヤバかった
【おもちのビート】レンタカーのS30Zで峠と高速道路を運転したら色々とヤバかった
月刊自家用車WEB
トヨタ 新「プリウス”スポーツカー”」に大反響! “GT風”バンパー&重低音マフラー採用! ド迫力エアロの「ハイブリッドスポーツカー」7月発売へ
トヨタ 新「プリウス”スポーツカー”」に大反響! “GT風”バンパー&重低音マフラー採用! ド迫力エアロの「ハイブリッドスポーツカー」7月発売へ
くるまのニュース
ランドローバーが日本文化からインスピレーションを得てデザインされた「レンジローバーSV ビスポーク1858エディション」が登場
ランドローバーが日本文化からインスピレーションを得てデザインされた「レンジローバーSV ビスポーク1858エディション」が登場
@DIME
イタルジェット「ドラッグスター125」【1分で読める 原付二種紹介 2024年現行モデル】
イタルジェット「ドラッグスター125」【1分で読める 原付二種紹介 2024年現行モデル】
webオートバイ

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村