マツダは2020年7月31日、幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催された自動車イベント「オートモビルカウンシル2020」で、MX-30のマイルドハイブリッドモデルを発表。
しかし気になるのは、EVモデルを投入するということで、国内でも注目されていたのだが、ここにきて主力をマイルドハイブリッドとして、EVはリース販売にとどめると正式アナウンスを出したことだ。
さらに気になるのが、国内にCX-3、CX-30とすでに似たようなサイズのSUVラインナップがあるマツダ。ただでさえ、CX-3がCX-30との差別化に一時失敗し、そのパイを奪われたのに、なぜまた似たようなガソリンモデルを投入するのか?
差別化を図るのであれば、MX-30はEV専用車として登場させるべきだったのではないだろうか? マツダがなぜこのような戦略をとったのか、今後のマツダに求められる変化とともに考察していく。
文/渡辺陽一郎
写真/MAZDA、編集部
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■EVはあくまで欧州用!? なぜ似たようなサイズ感ばかり? マツダの戦略の不安
マツダは東京モーターショー2019で、「MX-30」を世界初公開した。「マツダ初の量産電気自動車」と紹介され、欧州ではすでに正式発表されている。
欧州向けのファーストエディションは、35.5kWhの駆動用リチウムイオン電池を搭載した電気自動車で、1回の充電により約200kmの走行が可能だ。価格はイギリス仕様を日本円に換算して約382万円になる。
この価格は、40kWhのリチウムイオン電池を搭載した日産「リーフX」(381万9200円)と同等だ。1回の充電で走れる距離は、リーフがWLTCモードで322km、MX-30は約200kmと短いが、外観はSUVスタイルだ。中央のピラー(柱)をドアに内蔵させた観音開きとするなど、MX-30はリーフとは違う特徴を備える。
オートモービルカウンシルの会場で公開されたMX-30「e-SKYAVTIV G」。全体のフォルムはCX-30にも近い印象となっている
RX-8と同様の観音開きドアを採用したMX-30。基本的な部分は先行公開されたEV仕様と同様だ
そこで日本でも電気自動車のMX-30が発売されると思われたが、2020年の秋に登場するのはマイルドハイブリッド仕様だ。直列4気筒2Lガソリンエンジン(スカイアクティブG)に、スカイアクティブXなどと同様のマイルドハイブリッド(Mハイブリッド)を組み合わせる。電気自動車仕様も登場するが、「2020年度中(2020年3月末まで)にリース販売を開始する予定」とされ、主力はマイルドハイブリッドになる。
MX-30のボディサイズは、全長4395×全幅1795×全高1550mm(電気自動車仕様は1555mm)、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は2655mmとされ、既存のマツダCX-30と比べると、全長/全幅/ホイールベースは同じ数値だ。全高もCX-30が1540mmだから、MX-30はわずか10mm高いに留まる。
マツダにはCX-3も用意され、このサイズは全長4275mm、全幅1765mmだ。MX-30やCX-30に比べて少し小さいが、いずれも全長は4400mm以下。つまりマツダには、MX-30、CX-30、CX-3と3車種のコンパクトSUVがそろう。
これらのうち、CX-30とCX-3は、ボディサイズが少し違うもののメカニズムに共通点が多い。2Lガソリンエンジンと1.8Lクリーンディーゼルターボは、両車ともに搭載する。
1.5Lガソリンモデル投入で、CX-30との差別化に成功した「CX-3」
販売好調の「CX-30」。ディーゼルやSKYACTIV-Xを主軸に据えたミドルサイズクロスオーバーだが、販売サイドとしては似たようなモデルが増え、売り方に苦心しそうだ
そしてCX-30は2019年に登場したので、2015年に発売されたCX-3の後継車種に見えてしまう。次期CX-3は、CX-30との違いを明確にするようだが、少なくとも現時点では、魂動デザインとプラットフォームを刷新したCX-30が新型、CX-3は先代型に位置付けられる。
そこにマイルドハイブリッドのMX-30まで加わるとわかりにくい。マイルドハイブリッドは、今ではガソリンエンジンの付加機能になり、特別なメカニズムではない。マイルドハイブリッドをノーマルエンジンと比べた時の燃費上昇率も、一般的には6~12%程度だ。
新パワートレインの名は「e-SKYACTIV G(イースカイアクティブジー)」。直噴ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.0」に、独自のマイルドハイブリッドシステム「M-HYBRID(エムハイブリッド)」を組み合わせた
従ってMX-30をエコロジーを重視した新しい価値観のSUVとするなら、マイルドハイブリッドでは弱い。せっかく観音開きを備えたボディ、コルクを使った開放感の伴う内装など特徴を備えるのだから、電気自動車のみの設定にした方が世界観を表現しやすい。
■販売店も悩む差別化 どのように個性を感じさせるのか
そこで販売店にMX-30について尋ねると、以下のような返答だった。
「MX-30に関して、2020年8月上旬時点で詳細な内容をメーカーから聞いていない。発売時期も2020年秋という漠然としたものだ。MX-30のボディサイズはCX-30と同等で、エンジンも2Lマイルドハイブリッドが中心になる。売り分けるのは難しいが、従来の魂動デザインには独特の個性がある」
「お客様によって好き嫌いが分かれるが、MX-30の外観は、CX-30とは印象がかなり違う。観音開きのドアも備わり、CX-30やCX-3が馴染みにくいお客様に適するかも知れない」
今後の展開として、マツダはMX-30を皮切りに、新しいシリーズを構築するのだろう。今のマツダ車は、先代CX-5以降、外観がどれも似ている。マツダのホームページにアクセスして「カーラインナップ」の一覧を見ると、CX-3/CX-30/CX-5/CX-8の外観はどれもソックリだ。
ここまでクルマ造りが硬直化すると、マツダファンはすべてのマツダ車を受け入れても、そうでない人には全部拒絶されてしまう。その結果、今のマツダの国内販売は伸び悩み「魂動デザイン+スカイアクティブ技術」の採用を開始した2012年以前の台数に届いていない。マツダは走行関連から安全面まで、優れた技術力を備えるのに、主にコンセプトとデザインに基づいて好調な売れ行きに結び付いていない。
「魂動デザイン」を初めて採用し、2010年に発表されたコンセプトカー「マツダ 靭(SHINARI)」
この問題を解決するには、もうひとつの新しいシリーズを用意するのが効果的だ。その出発点がMX-30になる。2012年の時点で2つのシリーズをそろえたら、マツダのイメージが曖昧になったが、魂動デザインが浸透した今なら両立できる。
現在用意されるマツダ2/3/6と、SUVのCXシリーズ、ロードスターは、すべて従来の魂動デザインに基づく。チーターなどの野性動物が獲物を追いかける時の生命感、躍動感がモチーフで、サイドウィンドウの下端を後ろ側に向けて持ち上げた。前輪駆動車でも後ろ足を蹴り上げるイメージで、ドライバーとの一体感に重点を置いた走りも表現されている。
こちらが魂動デザインを表現したデザインモチーフ。チーターなどの野性動物が獲物を追いかける時の躍動感と言われると、そう見える
■将来的にはコンパクトカー構想も… 今後どう変わるか? マツダのデザイン戦略
設計の新しいマツダ3やCX-30は、ドアパネルに周囲の風景がダイナミックに映り込んでインパクトも強いが、先に述べた通り見る人によって好き嫌いが激しい。特にフォルクスワーゲンパサートのような控え目な外観が好きな人にとって、魂動デザインの「俺のクルマ凄いだろ!」といわんばかりの表現は鼻に付く。
そして今のマツダが「プレマシー」のようなミニバン、「ベリーサ」のような背の高いコンパクトカーを手掛けないことから分かるように、魂動デザインは背の高いクルマとは相性が悪い。SUVが限界で、開発できる車種のカテゴリーも限られる。実際、今のマツダ車では、8車種中4車種がSUVだ。ほかは背の低いセダン/ワゴン/5ドアハッチバック/クーペで構成される。
1999~2018年に販売されていたマツダ最後のミニバン「プレマシー」(写真は3代目)。その出来に対する評価は高かったが、SUVにモデルを集中するというマツダのモデル戦略により消滅。日産にも「ラフェスタ」としてOEM供給されていた
マツダが日本において販売していたセミトールワゴン型のコンパクトカー「ベリーサ」。デミオと同じプラットフォームを採用していた
そこでマツダの開発者やデザイナーに尋ねると、観点の違い話を聞けた。
「今のマツダ車にミニバンやハイトワゴン(背の高いコンパクトカー)は用意されないが、後者は検討を行っている。新しい(魂動デザインとは違う)造形についても同様だ」
MX-30の外観は、ボディサイズがほぼ同じCX-30と比べて、水平基調に仕上げた。ボンネットを長く見せる意図はCX-30ほど強くない。ボディ側面のウネリや映り込みも抑えた。一度CX-30のような造形に踏み込んだ上で、抑制を利かせて一歩引いたのがMX-30だ。
そのためにMX-30は、CX-30に比べてシンプルなのに、退屈には感じない。CX-30は人に例えれば元気の良い若年層で、経験を積んで落ち着いた世代がMX-30とも表現できる。
現時点では魂動デザインのCXシリーズにMX-30が加わったように見えて中途半端だが、今後はMXが独立したシリーズに発展するだろう。そこには従来の魂動デザインでは実現できなかった背の高いコンパクトカーなど、空間効率の優れた車種も含まれる。シート表皮などにも、柔軟で伸縮性の優れた素材が使われ、従来の魂動デザインとは異なるリラックスできる雰囲気を身に付ける。
2002年に発売された2代目デミオには、「スーパーコージー」と呼ばれるグレードがあった。明るいベージュの内装にホワイトウッド調ステアリングホイールを備え、オプションのホワイトキャンバストップを装着する。トップを閉じても、適度に明るい光が車内に入った。
「心地よい空間だから、ゆっくりと走り、目的地までの時間を長く満喫したい」。デミオのスーパーコージーは、このような気持ちにさせるクルマだった。速さを重視する魂動デザインの対極ともいえるだろう。
MX-30を出発点に、このようなラインナップが築かれたら、マツダは新しい世代を迎えるに違いない。不安を感じさせるコロナ禍やあおり運転が問題になる今、リラックスできる世界観のクルマが求められているからだ。ちなみにマツダの開発者には「実は以前デミオ スーパーコージーに乗っていた」というファンも少なくない。アンチマツダも納得させる、新しいマツダ車が誕生するだろう。
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クロノスの悲劇と表現していたけど似たような雰囲気を感じてしまう。
個個の車は決して悪くないけど、似たような車こんなに要らないだろうと。