2021年10月、ホンダは、2030年以降中国に新たに投入するモデルをすべてハイブリッドカーやEVといった電動車とすることと、EVブランドとなるe:Nシリーズの展開をはじめとした中国でのEV戦略を発表した。
この発表では2022年春に中国で発売されるEVの東風ホンダe:NS1と広州ホンダe:NP1、今後5年以内の市販化を目指す新型車のコンセプトカーとなるe:N SUVコンセプト、e:N GTコンセプト、e:Nクーペコンセプトも公開された。
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ここではホンダの中国におけるEV戦略を解説し、ホンダが日本市場より中国市場に注力している理由も考えてみた。
文/永田恵一、写真/HONDA
[gallink]
ホンダは中国でどうEVを展開するのか?
e:Nシリーズのラインアップ。EVの市販予定モデル2車種とコンセプトモデル3車種
はじめに市販車の生産、販売といったホンダ中国での具体的なEV戦略を挙げていく。
e:NS1、e:NP1の販売にあわせて、中国に約1200拠点あるホンダディーラーにe:Nシリーズコーナーを設ける。主要都市では、将来的にe:Nシリーズ専売ディーラーの展開も予定。e:Nシリーズ体験イベントの展開も計画しているという。
広州ホンダ、東風ホンダそれぞれで2024年の稼働開始を目指した、高効率で環境負荷の少ない新しいEV工場を建設する。バッテリーの調達に関しては戦略パートナーとなる中国CATLとの協力を深め、供給体制を強化することを発表した。中国で生産されるe:Nシリーズは海外への輸出も予定されている。
発表された内容を見ると、ホンダの中国でのEV戦略はじっくりと腰を据えた、長期的なものなのが分かる。
※中国では以前輸入車に多額の関税が課せられていたこともあり、海外メーカーは中国現地での生産が基本となる。また海外メーカーが中国で現地生産をするためにはパートナーとなる中国メーカーとの合弁会社の設立が条件だ。
ホンダは中国でのパートナーが広州汽車と東風汽車となるため、中国には広州ホンダと東風ホンダがある。広州ホンダと東風ホンダそれぞれで販売されるモデルはほとんど同じだが、意味合いはかなり違う。日本人ならかつてホンダクリオ店、ホンダベルノ店、ホンダプリモ店があったディーラー系列のようなものと認識すると分かりやすい。
e:Nシリーズ最新EVの魅力
クルマそのものの前に、e:Nシリーズは動、知、美というコンセプトを持つ。開発コンセプトの概要は以下のとおりである。
・動:ホンダらしい人車一体感あるスポーティで爽快な走り
・知:安全装備パッケージのホンダセンシング、ホンダコネクト、スマートなデジタルコックピットを通じた安全、快適でスマートな移動空間を提供
・美:EVならではのデザインコンセプトとなるe:Nデザインによる、未来を感じられる世界観
e:Nシリーズのプラットホームは、EV専用となるe:Nアーティテクチャーというものを採用。小型・中型車用のフロントモーターのFFとなるe:NアーティテクチャーFと、中・大型車用となるリアモーターのリア駆動と前後モーターのAWDとなるe:NアーティテクチャーWの2つとなる。
広州Hondaから2022年春に発売予定のe:NP1
この点を踏まえて2022年春に中国で発売されるe:NS1とe:NP1から紹介していこう。詳細なスペックの発表はないが、エクステリアから、現行ヴェゼルのEV仕様か? と想像できる。
中国で販売された先代ヴェゼルのEV仕様には、2018年の中国初の量産EVとなる理念VE-1(理念は広州ホンダの独自ブランド)、2020年の東風ホンダのM-NVがある。日本ではあまり知られていないが、ホンダはヴェゼルのEV仕様を通して、中国でのEV進出の種まきを行っていた。
このような背景と2021年ヴェゼルのフルモデルチェンジがあったこともあり、e:NS1とe:NP1は初代ヴェゼルベースのEVの発展版と思われる。
e:NS1とe:NP1はe:NアーティテクチャーFを使うFF車で、前述の動・知・美のコンセプトの概要は以下のとおりである。
・動:軽快、リニア、スポーツカーのようといった、ホンダ走りのDNAはEVになっても継承。高出力モーターの搭載により0-100km/h加速は8秒を切る速さを誇り、大容量バッテリーの搭載により航続距離は500kmを超える(先代モデルとなるM-NVのモーターは163馬力、61.3kWhのバッテリーを搭載し、航続距離は480kmだった)。
また、EVならではのボディ剛性は強固で、F1をはじめとしたホンダのモータースポーツ活動からフィードバックされた高い空力性能を持ち、スポーツモード選択時にはエンジン車のようなサウンドも楽しめる。快適性についてはロードノイズの低減により上級車並みの静粛性を実現しているという。
・知:ダッシュボードは10.25インチの液晶メーター、15.2インチという大きなセンターディスプレイを採用した、デジタルコックピットとなる。また、インフォテイメント関係はパソコンのようだが、e:N OSという先進的かつ能動的なOSを使う。
EV専用となるホンダコネクト3.0による豊富な各種情報表示やOTA(スマホのような無線による各種アップデート)への対応、スマホからのドアロック、パワーウィンドウ、エアコンといった操作ができるデジタルキー機能、ドライバーの表情などをカメラが認識し、運転のアドバイスなどを行うDMC(デジタルモニタリングカメラ)も装備される。
・美:現行ヴェゼルベースながら、フロントグリルやバックドアまわりをはじめとした細部の変更によるEVらしい未来感
なお、価格は発表されていないが、先代モデルとなるM-NVは補助金を使うと14万9800元(約267万円から)と安く、e:NS1とe:NP1では生産規模の拡大などにより、さらに安くなることも期待できそうだ。
5年以内の発売を目指して開発されている3つのコンセプトモデル
クーペルックのSUVとなるe:N SUV、4ドアクーペ的なe:N GT、2ドアクーペのe:Nクーペの3台のコンセプトカーは3台の見分けも難しいのに加え、詳細な発表もないためコンセプトカーではボディサイズや車格も不明だ。
分かるのはプレゼンテーション動画からこの順番で登場することくらいで、この3台はテスラなどをターゲットとしたe:NアーティテクチャーWを使ったファミリーとなるのだろう。
なぜホンダは日本市場より中国市場を重視するのか
東風Hondaから2022年春に発売予定のe:NS1
答えは簡単で、人口が日本の10倍以上となる約14億人なのに加え、ここ10数年で庶民へのクルマの普及が急速に進んでいる中国の市場規模が巨大だからである。
具体的にクルマの全体販売台数から見ると、中国は日本の約5倍となる2019年/約2576万台、2020年/約2531万台と、今や中国はアメリカを大幅に上回る世界最大の市場となっている。
それだけにホンダも中国では日本の2倍以上となる2019年/約155万台、2020年/約163万台を販売し、中国での販売台数はホンダ全体の30%以上となる。
中国ではEVシフトに対しても積極的で、前述の先代ヴェゼルベースのEVとなるM-NVの補助金を使った際の価格の安さをはじめ、EVには優遇政策も多い。
もともとホンダは日本メーカーのアメリカにおける現地生産の先駆者だったことからも分かるように、「需要の多いところで生産する」というポリシーを持つだけに、EV関係を含め中国に注力するのもやむを得ない面は大きい。
もちろん、日本人としては商品ラインナップや価格など「もっと日本を見て欲しい」という気持ちは当然だ。
しかし、この中国でのEV戦略を見ていると、e:Nシリーズが中国から日本への輸入という形で日本に導入される可能性も十分ある。このあたりは複雑な心境ながら、今後は「EVを含め、中国のおかげで日本人が買えるホンダ車のラインナップが拡充する」ということになっていくのかもしれない。
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