現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > リアドアはなぜ全部スライドドアにならないのか? スライドドアの功罪

ここから本文です

リアドアはなぜ全部スライドドアにならないのか? スライドドアの功罪

掲載 23
リアドアはなぜ全部スライドドアにならないのか? スライドドアの功罪

 昨今人気があるクルマ、といえば、軽のスーパーハイトワゴン、そして、SUVやミニバンだろう。軽スーパーハイトワゴンとミニバンの魅力は、広々とした車室内もあるが、何といっても後席のスライドドアの利便性だ。

 一方、いま大人気のSUVは、最低地上高が高いことによる悪路走破性の高さが魅力のひとつではあるが、おそらく多くの人が「SUVの見た目のかっこよさ」で、選んでいると思われる。そのため、「ほんとうはSUVがほしいけど、スライドドアの利便性は捨てがたい…」と、泣く泣くミニバンを選んでいるケースも多いのではないだろうか。

リアドアはなぜ全部スライドドアにならないのか? スライドドアの功罪

 それならば、SUVやセダン、コンパクトカーなど、全てのクルマの後席ドアをスライドドアにすれば万事解決、大ヒット間違いなしで、多くの人が選んでくれるはずだが、現時点ではそうなってはいない。すべてのクルマの後席ドアを、スライドドアにすることはできないのだろうか。

文:吉川賢一
写真:TOYOTA、HONDA、NISSAN、SUZUKI、DAIHATSU、ベストカー編集部

レールを設置しようとすると、ボディ形状が変わる

 スライドドアは開口部が広いので、荷物を持ったままでも、乗り降りがしやすい。また、ドアがボディに沿って開くので、駐車場などで隣のクルマとの隙間が少なくてもラクに乗り降りができるし、ドアを開けたままでもジャマにならないので、乳幼児や子供の世話なども容易にできる。これらは、スライドドア車のみが持つメリットであり、SUVをはじめとしてセダンやハッチバックなどのヒンジドア車では出来ないことだ。

 ただ、「SUV+スライドドア」の組み合わせたクルマは無いわけではない。その筆頭がデリカD:5だが、上屋のかたちは7人乗りのミニバンに近いので、いま我々が考えているような、「スライドドアのSUV」像とは違なる。もうちょっと、スライドドアを付ける方法を、具体的に考えていこう。

 スライドドアを設置するには、ボディと平行にドアが移動するよう、上側と下側にレールを設置しないとならないが、リアガラスが緩く傾斜しているSUVやセダン、クーペ、全長が短いハッチバックには、上側のレール自体を設置する場所がない(下側はサイドシル下側に仕込むことは可能)。設置のためには、レールを延長する分だけルーフを伸ばす必要があり、伸ばしてしまうと当然、それぞれのボディ形状は変わり、SUVもセダンもクーペもハッチバックも、ステーションワゴンや大型SUVに近い形状となってしまう。

利便性が高いスライドドアだが、デメリットも多い

 すべてのクルマがスライドドアにならない理由は他にもある。例えば、上記で触れたレールの設置という課題が解決され、「スライドドアのSUV」が実現できるとなったとしよう。このスライドドアのSUVが、ヒンジドアでつくられた場合よりも悪化(低下)することは、価格が高くなること以外に2つある。

 ひとつは重量増加による燃費悪化だ。スライドドアはスライド機構を持つために重量がかさむうえ、自らの重さでドアが撓まないよう、内部に補強が必要となる。また両側パワースライドともなれば、さらに重量が増し、車体側にも補強が必要となる。重量増加は燃費悪化につながり、商品力としては大きなデメリットとなる。高い次元の環境性能が求められる現代において、このデメリットのインパクトは大きい。

 もうひとつが、運動性能の低下だ。スライドドアは、従来のヒンジドア車と比べて、車両重心が上がるため、これまでのようなハンドリングや高速直進性は望めなくなり、SUVやセダン、ハッチバックの持つ「走りの良さ」は台無しとなってしまう。さらには開口部が大きくなったことで、こもり音のようなノイズが発生しやしくなる。その分、余計に音振対策が必要となり、コスト、重量に跳ね返るという堂々巡りとなる。

 もちろん、「それよりもスライドドアによる利便性がほしい」と考える人もいるだろうが、ボディサイズが大型化して燃費も悪化し、走りのよさもスポイルされてまでもスライドドア車がほしいと考える人は、既存のスライドドア車を選んでいるだろう。もちろん開発するメーカーの努力次第ではあるが、SUVであればSUVのいいところを伸ばす方が、失敗する可能性も少なく、物理的に不可能ということ併せて、現時点はそういう方向で、スライドドア車が限られているものだと思われる。

ダイハツ「タント」のミラクルオープンドア。助手席側はBピラーがないため、前席ドアと後席スライドドアを開けると大開口となる

ブレークスルーに期待!!

 昨今は、4ドアクーペやクーペSUVなど、新しいジャンルのクルマが多く登場している。凝り固まった車型をブレークスルーしてくれたこうしたクルマの存在には、ワクワクさせられるが、ドア形状に関しては、現時点、ミニバン以外はヒンジドアが大多数であり、スライドドアは不可能だったとしても、ドア形状にはまだ、ブレークスルーの余地があるような気もする。

 観音開きで登場したマツダMX-30のほか、過去には助手席側がスライドドア一枚のトヨタポルテなどもあったが、これらの後を追うようなクルマが登場してくれることを期待したい。

こんな記事も読まれています

カーメイト、新型ワイドリアビューミラー発売…ホンダ WR-V などに対応
カーメイト、新型ワイドリアビューミラー発売…ホンダ WR-V などに対応
レスポンス
ミック・シューマッハー、来季F1復帰の可能性はあるのか?「それが僕の目標だけど……僕がコントロールできることじゃない」
ミック・シューマッハー、来季F1復帰の可能性はあるのか?「それが僕の目標だけど……僕がコントロールできることじゃない」
motorsport.com 日本版
神奈中の赤い「連節バス」ついに横浜へ登場 箱根駅伝ルート経由で駅 団地結ぶ
神奈中の赤い「連節バス」ついに横浜へ登場 箱根駅伝ルート経由で駅 団地結ぶ
乗りものニュース
エンジン車が生き残れる夢の燃料【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】
エンジン車が生き残れる夢の燃料【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】
グーネット
便利な「ベンリイ号」に見るホンダのチャレンジ精神! 1955年にアールズフォーク採用!?
便利な「ベンリイ号」に見るホンダのチャレンジ精神! 1955年にアールズフォーク採用!?
バイクのニュース
雨のル・マンを制したポルシェのリエツ「前にも似たような状況を戦った」自身5度目のGTクラス勝利
雨のル・マンを制したポルシェのリエツ「前にも似たような状況を戦った」自身5度目のGTクラス勝利
AUTOSPORT web
【ホンダ CB650R/CBR650R E-Clutch 試乗】“小さなおじさん”が入ってる!? ガツンと来ない「電光石火の変速」に驚いた…西村直人
【ホンダ CB650R/CBR650R E-Clutch 試乗】“小さなおじさん”が入ってる!? ガツンと来ない「電光石火の変速」に驚いた…西村直人
レスポンス
ロレンソ VS ペドロサのボクシング対決、ガチで実施! 6月20日に激烈ライバル同士の”再戦”が実現
ロレンソ VS ペドロサのボクシング対決、ガチで実施! 6月20日に激烈ライバル同士の”再戦”が実現
motorsport.com 日本版
フィアット『パンダ』がファミリー拡大、『グランデパンダ』発表…新型コンパクトSUV
フィアット『パンダ』がファミリー拡大、『グランデパンダ』発表…新型コンパクトSUV
レスポンス
エンジンは「トヨタ」製!? マツダ新型「“斬新”SUV」発表へ! めちゃカッコイイ「CX-50 HV」米中登場に「日本でも欲しい」の声も
エンジンは「トヨタ」製!? マツダ新型「“斬新”SUV」発表へ! めちゃカッコイイ「CX-50 HV」米中登場に「日本でも欲しい」の声も
くるまのニュース
タフな仕立てのメルセデス・ベンツ「Eクラス」はマルチな才能が魅力的! 街乗りからアウトドアまで活躍!! 新型「オールテレイン」の真価とは
タフな仕立てのメルセデス・ベンツ「Eクラス」はマルチな才能が魅力的! 街乗りからアウトドアまで活躍!! 新型「オールテレイン」の真価とは
VAGUE
ロールス・ロイスのマスコットを最初に車両に掲げた「モンタグ」とはどんな人物?「スピリット・オブ・エクスタシー」のモデルとの公言できない関係とは
ロールス・ロイスのマスコットを最初に車両に掲げた「モンタグ」とはどんな人物?「スピリット・オブ・エクスタシー」のモデルとの公言できない関係とは
Auto Messe Web
ハイパワー競争に合わせて200psまで動力性能アップ!スタイリングも洗練【GTmemories12  A183Aスタリオン ダイジェスト(2)】
ハイパワー競争に合わせて200psまで動力性能アップ!スタイリングも洗練【GTmemories12 A183Aスタリオン ダイジェスト(2)】
Webモーターマガジン
【MotoGP】ジョアン・ミルとホンダ、2026年までの契約延長で合意か。今季も大苦戦中……復活に賭けた?
【MotoGP】ジョアン・ミルとホンダ、2026年までの契約延長で合意か。今季も大苦戦中……復活に賭けた?
motorsport.com 日本版
メルセデスマイバッハ、『S580』特別仕様を発表…専用のツートーンペイントやホイール
メルセデスマイバッハ、『S580』特別仕様を発表…専用のツートーンペイントやホイール
レスポンス
アメリカンマッスルまでEV化かよ……でもじつはローパワーFFなんて世代もあった「ダッジ・チャージャー」の歴史を振り返る
アメリカンマッスルまでEV化かよ……でもじつはローパワーFFなんて世代もあった「ダッジ・チャージャー」の歴史を振り返る
WEB CARTOP
新生9X8はまだやれる……! プジョー、“勝負にならなかった”ル・マン終えても「マシンの方向性は良いと確信」
新生9X8はまだやれる……! プジョー、“勝負にならなかった”ル・マン終えても「マシンの方向性は良いと確信」
motorsport.com 日本版
パジェロ 復活! 次世代SUVの詳細…ベストカーグラフィカ
パジェロ 復活! 次世代SUVの詳細…ベストカーグラフィカ
レスポンス

みんなのコメント

23件
  • 年寄りは隣の車など気にせずドアをバンバン当てるからスライドドアが良いと思います
  • つまるところ、メーカーが様々な事情で、いろいろなタイプを作りたいので、「~だけ」ということにならない。

    この手の話は突き詰めていけば(極論では)、なぜ車は単一メーカーの単一車種にならないのか、ということになる。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

400.2457.7万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

20.8715.9万円

中古車を検索
デリカD:5の車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

400.2457.7万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

20.8715.9万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村