ふたつの最強、「サーキットパッケージ」と「ラリーパッケージ」
2022年1月14日に東京オートサロン2022で発表された、GRヤリスのフルチューンモデル「GRMNヤリス」。その直後には筑波サーキットでプロトタイプに試乗したが、今回は足まわりのセッティングをブラッシュアップし、さらに生産技術向上でボディ剛性も強化された、より市販に近い仕様で袖ヶ浦フォレストレースウェイへ。そしてラリーパッケージも初めて試すことができた。
ある意味GRヤリスより面白い! 「ヤリスカップカー」に乗ってみたら安ウマで最高だった
(初出:CARトップ2022年8月号)
ベース車とは完全に別物のGT3マシンのような仕上がり
GRヤリスのフルチューンモデル「GRMNヤリス」に試乗した。結論を先に言うと、自分でもビックリな現象に遭遇し、ヤバイぐらい欲しくなってしまった(笑)。
今回はベースグレードに舗装路での速さを突き詰めるためのパーツで武装をする「サーキット・パッケージ」と、未舗装路での走りも念頭に置いた「ラリー・パッケージ」のふたつの仕様を試す。GRMNヤリスは基本2シーター化され、フロントはサイドエアバッグ付きのレカロ製フルバケットシートを装着する。
従来のGRヤリスに対してスポット溶接打点が545点も増やされるなど、ホワイトボディから完全に別物だ。テールゲートを開けるだけでも溶接打点の多さがすぐにわかるが、リヤシートを撤去した跡が綺麗に処理されているなど、細かいところまでしっかり作り込まれている。ステアリングとシフトノブはウルトラスエード巻きで、ポルシェ911GT3のようなドライバーを奮い立たせる質感の高さもあり、800万円以上するだけのことはあると感じた。
スポーツ4WDとしての完成度は極めて高い
サーキット・パッケージを試乗したのは袖ヶ浦フォレストレースウェイ。取材当日は真夏のように暑く、そんな日に袖ヶ浦をアタックすると左フロントタイヤのショルダーがすぐに終わってしまうので、最初はアンダーステアを強めに感じたが、コンディションの良いタイヤで走ると舵の利きはすこぶる良く、ステアリングを切り足した際の反応も鋭い。トラックモードの前後駆動力配分は前45:後55とGRヤリスよりもわずかに後輪寄りとなるが安定性は高く、総じてスポーツ4WDとしての完成度は極めて高い。
最大の課題はABSの弱さだ。タイヤがロックするとブレーキを減圧し、グリップが回復したらふたたび加圧するのだが、加圧アクチュエーターのポンプが弱く、一度減圧するとそのまま制動力が出ない状態が続いてしまう。この悪癖がGRMNでも見られた。制動力自体は強力なだけに惜しい。これはレクサスも含めたトヨタ車のすべてに該当する課題と言える。
さらに言えば、もう少し攻めたセッティングでも良いと思えた。ステアリングを切ったときのノーズの動きやヨーモーメントの出方、応答性はさらに鋭敏化しても、このボディなら挙動が破綻することはないはず。そうすればMINIのJCW(ジョンクーパーワークス)を超えるホットさやダイレクト感が味わえるだろう。
グラベルでは愉しさ全開! 思わず昔のテクニックが……
そんな不満も、ラリー・パッケージでグラベルを走るとすべて吹き飛ぶコントロール性の高さに感動した。今の若者はグラベルで四駆を曲げるのにサイドブレーキを使いたがるが、GRMNヤリスにその必要はない。コーナーの手前で軽くフェイントをかけ、左足ブレーキで前後荷重移動をすると気持ち良くテールが流れて、思うがままに曲げられる。これはアンダーステアの強さで有名な往年のラリー車「スバル・レオーネ」をねじ伏せて曲げるため身についた技で、まさかの35年ぶりの再現だ。
スポーツ4WDに乗ると前後の駆動力配分を気にする人が多いが、砂利道の限界領域での基本は荷重移動と車両姿勢を支配することにあり、電子制御の駆動力配分など、象の背中に蚊がとまった程度の細事にすぎないと、昭和のラリー屋は感じている(笑)。
エンジンパワーに頼らず、車体と足の良さでコーナリング性能を極めたGRMNヤリスなら、ドライバーはグラベルにおけるスポーツAWD運転の基本が学べ、砂利や雪道の面白さ、コンペティションなクルマの楽しさに目覚めることだろう。砂利道の走りをマスターすれば、サーキットで欧州のスーパースポーツにひと泡吹かせる痛快さ、“柔よく剛を制す”醍醐味が味わえる。逆に欧州スポーツ車のユーザーにも試してほしいものだ。
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