2023年5月24日、ホンダが2026年よりアストンマーティンにパワーユニットを供給する形でF1に復帰することを発表した。本来であれば歓喜の嵐……となるはずだが、復帰に対して素直に喜べない、疑問を感じている声も多く聞こえてくる。一体、このモヤモヤの要因はどこにあるのだろうか?
文/段純恵、写真/ホンダ、ポルシェ
ホンダが好きだからこそ言わせて!! 企業としての軸はどこへ……ホンダ5度目のF1参戦発表がモヤモヤする理由
■ホンダのF1復帰がモヤモヤするワケ
2023年5月24日、ホンダは2026年よりF1に参戦、アストンマーティンにパワーユニット供給を行うと発表
ついに正式発表されましたね、ホンダ5度目のF1参戦計画。
2020年10月に八郷隆弘前社長が「もうF1に戻ることはない」と十数年で二度目の宣言をし(一度目は2008年12月当時の福井威夫社長ね)ホンダF1ファンの涙をチョチョ切らせてから2年あまり。
前の社長がやったことは存じあげませんとばかりに三部敏宏社長以下、現在のホンダ首脳陣が新しい挑戦に舵を切ったのは、モータースポーツ界にとっても喜ばしい決断です。
なのに、なーんかモヤモヤする。ZOOMで参加した発表会で聞いた、三部社長による、朝令暮改を臆さないホンダの伝統に則った5度目の参戦の理由をまとめると……。
1. ホンダは世界的レースに挑戦、勝利することで成長し、技術が人を育てることを学んだ。特に二輪のモトGPと四輪のF1は技術者を鍛える最高の場である。
2. レースという「走る実験室」の現場で得た技術が量産車にフィードバックされ、ホンダらしい高性能な商品を生み出してきた。
3. 2026年からF1が目指すカーボンニュートラルはホンダが目指す方向性と合致する。F1での電動化技術の促進は、ホンダの今後の電動フラッグシップスポーツほか量産電動車の競争力に直結する可能性がある。
4. F1における合成燃料の開発、技術のノウハウも次世代燃料技術に通じており、サウジアラビアの国営石油会社アラムコと協業は、EVや小型ジェット機などの事業との多角的な相乗効果が期待できる。
となりますか。しかし、う~ん、この説明で「ホンダ頑張れッ!」と素直に思える人、何割くらいいたのかなぁ。私なんて、
a. 最高の場で鍛えた技術や人による高性能な商品ってN-BOXのこと?
b. 2年前の撤退発表時、すでに26年F1技術規則の方向性は固まってたよね?
c. 現状『富豪価格』の合成燃料、F1での開発を通じてプライスダウンできますの?
d. 合成燃料の開発プラントは燃料屋の担当だと思うけど、バジェットキャップ外(のはず)のプラントにホンダも出資するの?
e. 痺れを切らしたレッドブルが他メーカーに心変わりするのを止められなかったの?
そして、
f. 社長が替われば方針も変わるって体質、そこにモータースポーツへの愛はあるんか?
などなど、ZOOMのこちら側で質問が湧いていたのですが、会場現場は祝賀ムードだったそうで、私のような根性悪い質問を放つ記者はおりませんでした。
■復帰の理由はアメリカで流行中だから!?
NetflixのF1ドキュメンタリーが大ヒットし、F1が流行中のアメリカ(写真は2021年のアメリカGP)
でも今回のホンダの再々再々再復帰って、これが個人の主張なら「コイツの言うこと真に受けたらこっちが馬鹿をみるなぁ」ってレベルの話だと思いません?
電動化と合成燃料が新ネタとして入ってはいますが、基本的に『前に聞いた話』とあまり変わっていないし、その結果が二度の「F1に戻らない宣言」になったことは説明するまでもないでしょう。
ひとり、私と似た考えらしい記者が、
「いまアメリカでF1がバズっていることが5度目のF1復帰決定に影響しましたか?」
と質問しましたが、三部社長の回答はハッキリ『した』というものではありませんでした。
いやいや、関係ないハズないでしょう。
なにせ従来の一国1GP開催の原則はどこへやら。USAでは今季3GPも開催されるのです。すべてはNetflixで放映されたF1ドキュメンタリー(というには作り込みがスゴい)番組の影響です。
ともあれ、ホンダの『儲け』を生み出しているUSAでF1がバズったおかげで業界全体が潤ってるは、撤退したといっても実際はまだレッドブルにパワーユニット供給をしていてしかも勝ち続けてるは、となればそりゃ経営陣の間で「やめるの、やめません?」って話になっても全然おかしくないです、はい。
ただですね、USAでのホンダバッジのイメージはドイツ車でいえばワーゲン、つまり大衆車であって、高級スポーティのイメージは代々ACURAブランドの受け持ち。シビックやアコードはドイツ車でいうと、間違ってもポルシェじゃないんですよね、実際のところ。
■「走る実験室」という言葉の役割
ポルシェは2023シーズンより、LMDh車両「963」でWECに参戦
そのポルシェが今季からWEC世界耐久選手権の最上位クラスにハイブリッド機能搭載のLMDhマシンでモータースポーツ界の重鎮チーム・ペンスキーとタッグを組んで復帰するのにあたりこう発表しました。
「フル電動はフォーミュラe、効果的かつエモーショナルな内燃エンジンはGTカテゴリーで参戦している。このたびその間を埋め、かつウチが多くの市販車で採用しているパワフルなハイブリッドドライブで総合優勝を争えるLMH参戦プロジェクトは、ウチの市販ラインナップにもバッチリ合ってるし、100%再生可能燃料もすでに使っていてサスティナビリティの観点からもからみてもとても魅力的なんです」。
うん、これなら明快、シャープにしてスマートで、復帰理由として大納得です。
ずいぶん前にホンダOBの技術者から「走る実験室って、株主に説明するのに藤沢武生さんが使った言葉なんだ」って聞いたことがあります。この話の真偽はさておき、少なくともここんとこのホンダF1での『走る実験室』の役割をみると、技術面の効果よりも対株主&世間様へのキーワードとしての役割のほうが大きかったように私には思えます。
まったくのところ、いろは坂や中央道でハイブリッド車の立ち往生(※編註)が頻発してるのに、「走る実験室であるレースの現場で得た技術が量産車にフィードバック」だの「ホンダらしい高性能な商品」だのって、自社製ハイブリッドシステムでWECに挑み続ける王者トヨタの前で言えますのん?って感じです。
※編註:乾式クラッチのi-DCDで発生したトラブル
■モータースポーツへの愛情はどこへ?
インディカーやWEC、WRCなど、最高峰のレースはF1だけではないはず。F1以外のカテゴリーにもリスペクトをし、共にモータースポーツを盛り上げる姿勢が欲しい
キッツいことを書いてきましたが、ホンダのモータースポーツ愛を否定するつもりはございません。北米でのF1開催数が増えればACURAブランドのイメージアップも期待できるし、トヨタのナスカーでの大衆狙いとの差別化もできて、営業的メリットも大きいと思います。
それでもやはり、「ホンダ、そこにモータースポーツへの愛はあるんか?」と問いたい。
ないとは言いません。が、ホンダのモータースポーツ愛って、とどのつまりF1限定なんですよね。今回の会見でも「四輪レースの最高峰F1」って文言を何度も使ってらっしゃいましたが、それって他の世界的カテゴリー、WECや世界ラリー選手権の参戦メーカーやそのファンに失礼じゃありません?
じゃあ米インディカーは最高峰じゃないの? と訊いたら何とお答えになるのでしょう。
ホンダが「世界最高峰のF1」と口にするとき、そこにはF1以外のカテゴリーで地に足着けて、ライバルとも協力しながらレースを盛り上げていこうと努力している人々へのリスペクトが感じられない、というのは私の杞憂でしょうか。
口の悪い私の類友の一人が、今回のホンダの復帰について『F1界の大仁田厚』と評していました。いくらなんでも7回引退なんてことは起きないと思いますが、言い得て妙だなぁと吹き出してしまいました。
そんなおチャメな事態が起きないことを祈りつつ、2026年のホンダ5度目のF1(正式)復帰を暖かい眼で見守っていきたいと思います。
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みんなのコメント
朝令暮改、無節操と言われてもしょうがないよ
軸がブレブレ。