スバルはアメリカをメイン市場としてきたメーカーだ。2018年上半期は32万台を販売している。1986年の「レオーネ」と「XT(日本名:アルシオーネ)」から輸出が大きく伸び、1990年代中盤にレオーネが廃止されたときの販売減を除けば、リーマンショックもものともせず、好調に実績をあげてきている。
ホンダほどアメリカナイズされたデザインではないのに、アメリカでも日本でもセールスが好調なのが、スバルである。グローバルカーとしてのポジションをずっと堅持しているのだ。
なぜスバルは4WDにこだわるのか?──冬の山形でスバル フォレスターに乗って考えた
アメリカ市場における主力モデルのひとつはSUVの「フォレスター」である。ちなみに、現行モデルの初お披露目は、日本よりいち早く2018年3月のニューヨーク自動車ショーでおこなわれた。日本並み、いやそれ以上にアメリカでも注目を集めているモデルなのである。
フォレスターを含むスバルの現行モデルのうち、アメリカ販売分の半数は日本で生産したクルマだ。したがって、船積みされて輸出される。この船積みがまた見ものである。今回、スバルは特別にその様子を公開した。私は以前にも船積みの様子を見たが、あらためて感心したのは緻密さと驚異的な速さだった。
スバルはいくつかの船会社をパートナーに選んでいる。今回、見学したのは商船三井の自動車専用船だ。英語だとPCC(Pure Car Carrier)と呼ばれる場合もある。「立体駐車場が海に浮かんでいるようなイメージ」と、アテンドしてくれた商船三井の広報担当者が表現した。
PCCの高さはだいたい50mあり、デッキは11層だ。積載する車両に応じ、天井髙を変えられるデッキも2層ぶんあるという。船内に駐車可能なクルマの台数は5000台超であるが、車両サイズによって変わる。ちなみに、フォレスターは約3000台しか入らないという。
埠頭には多くのスバル車が駐まっている。PCCが港に入ってくるタイミングを見計らい、並べられるという。「あまりはやく並べると、水害にあったりするので、なるべくぎりぎりのタイミングで並べます」と、スバルの担当者が教えてくれた。
船がランプウェイ(車両用のスロープ)を下ろすと、自走で船内へに入っていく。専門用語で「荷役をおこなう」と言うそうだ。そのあと、デッキに並べていくが、この様子が前述のとおりの“神業”であった。
「ギャング」と呼ぶ、荷役作業をおこなうチームが勢揃いしたかと思うと瞬時に各人が持ち場について作業を始める。監督者のホイッスルに合わせ、ベテランドライバーが、壁側からクルマを順々に駐めていく。
シグナルマンは車両が接触しないよう注意しており、指定の位置に駐まったら、固縛員がラッシングベルトを使い、車両が動かないようフロアに固定する。その時間は5分ぐらいほど。
左ハンドルの車両は右側の壁から寄せていく。ドライバーが、さっと降りやすくするためだ。見ると、駐車方法はバラバラだ。
「ギャング」のひとりに質問したところ「荷下ろし役の技術レベルで決めますが、バックで下がるより、前から入れていくほうがぶつける危険性が低いですよね」と、教えてくれた。
クルマとクルマの間隔は前後が約30cm、左右が約10cmである。この間隔を絶対に守り、かつ速いペースで駐めていくのだから、ある種のクラフツマンシップかもしれない。聞くところによると、世界における日本の荷役技術は突出して高いという。
PCCは13日かけてアメリカ・ワシントン州のバンクーバー(カナダではない)へ寄港し、そのあとカリフォルニア州のリッチモンドが最終の陸揚げ港である。ちなみに今回見学した船のクルーは、フィリピン人が半数以上だったせいか、食堂ではスパイシーなエスニック料理のいい香りが漂っていた。
輸出が好調なスバルとはいえ、船積みには課題もある。たとえば、ハイブリッドモデルや電気自動車の輸出が今後増えると、重量増や充電などにも対応していかなくてはならない。また、完全自動運転になってしまうと「逆に荷役の時間が大幅に長くなる可能性があります。人間のほうがこういうことはスピーディですから」と、商船三井のひとは話す。
自動車専用船の設計は、人間の技術力を活かしつつ(幸いというべきか人手不足はないそうだ)、世の中のトレンドにも細かく合わせなくてはいけない。ただクルマを船に積んで運べばいいというわけではないのだ。あらためて、「クルマを売るのは大変だなぁ……」と、しみじみ思うのであった。
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