昨年から開催されている新しいモーターショー
6月16日~19日にMIMO(ミラノ・モンツァ・モーターショー)が開催された。これはミラノの中心部であるドゥオーモ広場と、モンツァ・サーキットで行われるオープンエア モーターショーだ。街中には仰々しいモーターショー形式でなく、気軽に眺めて回れるように街中に車たちが並び、それを様々なスタイルで来訪者が楽しむ。スーパーカーのパレードやサーキットランなどもあり、2回目の開催となった今年は、昨年よりも多い動員数を記録した。
筆者ももちろん、開催と同時に会場へと顔を出し、主催者であるアンドレア・レヴィ、発表されたばかりのランボルギーニ ウラカン テクニカのプロモーションのためにやって来たチーフデザイナーのミティア・ボルカルトらと合流して会場を散策した。展示はスーパーカーだけとは限らない。ヨーロッパでも人気のスズキ ジムニーもあれば、バイクも並んでいる。
ボローニャ・モーターショーなき後、イタリアには国際モーターショーは存在しない。そのような中で、スーパーカーファンであり、何台ものコレクションを持つレヴィが始めたカジュアルな当イベントは、昨年以上に注目度が増している。観覧は無料だから気の向いたときに訪れればよい気楽さがあり、出展者にとっては豪華なスタンドなどの設営は不要だから、比較的ローコストで参加が可能となる。このような点が評価されたようだ。そして何よりもミラノの中心部に並ぶ車たちは無条件に絵になる。
そんな中で人気なのが、パガーニの限定モデルたちであった。
新しい時代に対応した、パガーニのブランド戦略
さて、ここから前回の続きに進ませていただきたい。万全の状態で完成したパガーニ アウトモビリ第1号車となるゾンダC12は、スペック的に言っても文句なかった。6LのV12気筒エンジンはAMGがパガーニのために特別なチューニングを施したもので、400psあまりのハイパワーを誇る。それが1280kgと称された軽量ボディを組み合わされることで、縦横無尽に走らせることができた。そして、カウンタックやブガッティ EB110などの開発ドライバーを務めたロリス・ビコッキによってネガティブなポイントをどんどん潰していったというから、乗り味も熟成されていった。
モデナでは、経済状況が上向きになると自分のスポーツカーを作り、ひと山当てたいという輩がこれまで幾度となくはい出てきた。しかし、結果として成功者はごくわずか。ランボルギーニとパガーニくらいしかない。その事実をよく理解したオラチオ・パガーニは、ライバルだけでなくターゲットとなる顧客層のマーケティングへの余念がなかった。
すでに荒削りのスーパーカーがもてはやされる時代は終り、速いだけでなく、ラグジュアリーであり、かつユニークさが求められていることを彼は理解していた。例えば、少量生産スポーツカーは様々なところで量産車のコンポーネントを流用していた。後期のランボルギーニ ディアブロのヘッドライトユニットに日産某モデルのものが流用されたことは、マニアにはよく知られている。オラチオはこの「流用」を徹底して排除したのだ。
ネジ1本からオリジナルにこだわる。彼はモデナの機械加工会社と提携し、パガーニが発注するとあらかじめ預けておいたデータを元に、あらゆるパーツを削り出し、速やかに納品されるルートを作っていた。だからお得意のカーボンファイバー成形ともども、少量生産メーカーならではの複雑な造形に加えて、クオリティの高さを実現することができたわけだ。オラチオ・パガーニのすごいところは、もともと経験豊富で奥が深いモデナのサプライヤー網をただ利用するのではなく、ともに新しい取り組みを行ったということなのだ。
やっぱり難しく、奥が深いスーパーカービジネス
さて、ここまでモデナを知り尽くしたオラチオが作ったゾンダだが、実は当初まったく売れなかった。ターゲットの顧客達はゾンダを高く評価したのだが、注文書にサインするには至らなかったのだ。いかんせんとんでもなくそれは高価だったからだ。キング・オブ・スーパーカーであるフェラーリより高価で、生まれたばかりの小さな工房の作る車がこれからマーケットでどう評価されるかは誰もわからない。彼らは二の足を踏んだのだ。そう、ブランド・パワーの壁は厚かった……。
そんなときに、パガーニの可能性を高く買っていた香港のエージェントから、限定モデルの提案があった。「世界で5台だけしかないゾンダを作ろう。これはどんなに引き合いが来てもそれ以上は絶対に作ってはいけない」と。
そんなコンセプトで生まれたのが、ゾンダ・チンクエ(イタリア語で5を意味する)であった。果たしてこの5台はあっという間に完売し、それから生まれるパガーニ旋風の序章となったのだ。「希少性」というブランド確立のための重要な要素を最大限に強調し、コアなターゲットを捕まえるというその戦略は大成功を収めた。
しかし、スーパーカー作りに関する多くの経験を積み、万全のプロセスを持って理想の1台を作るという目標に向かって突き進んできたオラチオにとっても、このスーパーカー・ワールドはたやすく“落とせる”ものではなかった。この世界は実に奥深く、強固な世界なのである。 文/越湖信一、写真/越湖信一
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みんなのコメント
ケーニグセグやリマックの方が凄いよ。