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メルセデスやBMWとは異なる第3の道──新型アウディA8試乗記

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メルセデスやBMWとは異なる第3の道──新型アウディA8試乗記

ビッグマイナーチェンジを受けたアウディ「A8」のトップグレード「A8L 60 TFSI quattro」に、今尾直樹が試乗した。

主たる改良ポイント

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アウディといえば、ストイックな引き算の美学。ミニマリスムと機能主義。美しいプロポーションとシンプルな線と面で構成されたエクステリア・デザインで、それこそがアウディのアイデンティティ、アウデンティティというべきものである──単にダジャレですけど。

今回試乗したアウディA8L 60TFSI クワトロの最新型の広報車はちょっと違っていた。黒塗りのロング・ホイールベース・ボディに、クロームの飾り付きのグリルでゴージャスに装っていたのだ。ニッポンだと紋付き羽織、西洋だと燕尾服に勲章をいっぱいつけている、という感じでしょうか。

それはそうなんである。1988年のアウディ「V8」に始まる、戦後のインゴルシュタット発の高級車も、はや34年の歴史を持っている。アルミニウムのスペースフレームを採用し、A8に改名してから数えても28年。初代A8が登場した頃、20代だった若者のなかにも立身出世を果たした人がいるはずだ。もはやアウディは新興プレミアム・ブランドにあらず。現代のアウディ・オーナーがオーセンティックなショーファー・ドリブンを望んでいたとしても驚くには当たらない。

思い出すなぁ。アウディV8と同クラスの高級車を比較試乗した日のことを。当時のメルセデス・ベンツの「Sクラス」とBMW「7シリーズ」、ジャガー「XJ」もあったのではなかったか。箱根方面でテストしていて、雨が降っていた。土砂降りではなかったけれど、路面は濡れており、とても滑りやすかった。

そういうスリッパリーな状況だと、フルタイム4WDのアウディV8の安定感と安心感はダントツで、後輪駆動のライバルたちとはレベルが違っていた。同じ感想をメルセデスとBMWのエンジニアも抱いたようで(そりゃそうだよね)、その後、Sクラスにも7シリーズにも4WDがくわえられ、現在にいたっている。アウディのクワトロ・システムは「技術による先進」の核心であり、実際、高級車の常識を革新したのだ。

で、今回試乗したA8L 60TFSIクワトロは、2017年に本国で発表された第4世代のA8に、3年半ぶりにフェイスリフトがくわえられた、つまり第4世代の後期型の最上級モデルである。新型A8は日本でも、今年3月に発表はされていた。ただし、発売は7月から、とされていた。それが半導体不足もあってだろう、広報車が用意されたのは10月に入ってからのことだった。

主たる改良ポイントはフェイスリフトである。違和感はまったくないけれど、マトリックス・ヘッドライトも、有機LEDを使ったリアのライトも新しいし、フロントのシングル・フレーム・グリルの底辺が長くなって、同じ六角形でも長方形に近い形状になっている。そして、面積を増したグリル内には雨だれのようにも見えるクロームの飾りがたくさん加えられ、前述したようなゴージャス感を醸し出している。

ちなみに、このようなクロームは好みではない。というストイック派のみなさん。安心してください。そういう方向けには、S lineパッケージがA8で初めてオプションで用意されている。S lineエクステリアを選ぶと、グリルがブラックのハニカムパターンとなり、従来のイメージにグッと近づく。

内装はほとんど変わっていない。あいかわらず機能主義的で、ミニマルとはいえないにせよ、適度に控えめな仕立てになっている。運転席は、iPhoneとかiPadに囲まれているような未来的というか、これこそ現代的というべきか、モダンな感じがする。ダッシュボードの中央とセンターコンソールにタッチ式のスクリーンがふたつ、ついていることが大きい。

後席が2人用になっているのは、オプションのコンフォートパッケージが試乗車には選ばれているからだ。

このシステムはスゴイ!パワートレインの変更はない。これまで通り、3.0リッターV6ターボと4.0リッターV8ツインターボの2種類で、どちらも8速ATと組み合わせている。340psのV6を55TFSI、460psのV8モデルを60TFSIと呼び、それぞれ48Vのマイルドハイブリッドシステムを搭載している。

A8Lは、ホイールベース3130mmと、標準モデルより130mm長い。全長は5320mmに達する。全幅は1945mmあるから、堂々たる体躯である。レクサス「LS」より、85mm長くて、45mm幅広く、25mm背が高い。ざっくり申し上げると、ちょっと大きい。

それでも車重は試乗車の車検証の値で2160kgと、レクサスLS500の4WDのいちばん重いモデルより150kgほど軽く仕上がっている。アルミニウム、マグネシウム、カーボン・ファイバー等で構成したアウディ・スペースフレーム(ASF)の賜物であろう。

なお、標準ボディの全長は5190mmで、改良前より20mmほど延びている。これはシングル・フレーム・グリルがより立体的になったことによると思われる。

筆者はフェイスリフト前のA8は55TFSIしか試乗しておらず、V8ツイン・ターボの、しかもロング・ホイールーベースの60TFSIは初見でありまして、ふたつのことに感銘を受けた。

ひとつは乗り心地である。試乗車はオプションの「プレディクティブ・アクティブ・サスペンション」を装備しており、おそらくこのハイテク・サスペンションがこのピュアな、まじりけのない、研ぎ澄まされたような乗り心地を生み出しているものと思われる。アルミニウムを多用したボディも関係しているかもしれない。

たとえば、アルミ缶を持ったときの、あの感じを思い出していただきたい。合理的でクールで、無駄のない、ピュアな結晶でできているみたいな、と書いてみて、あまりうまく伝わっていないかも……ですけれど、265/40R20という大径の扁平タイヤを装着しているので、低速では若干コツコツくるものの、首都高速を走行する程度の速度に達すれば、コツコツ感は消え失せ、贅肉のない、快適で、すばらしい乗り心地を披露する。

A8は基本的にエアサスペンションを装備している。それとは別に、「プレディクティブ・アクティブ・サスペンション」はフロントのカメラが路面の状況をあらかじめ読みとり、その情報に基づいて前後左右のサスペンションに取り付けられた電気モーターが、それぞれ瞬時に独立で動いて車両の姿勢変化を整える。2019年にヨーロッパ市場のA8のTFSIバージョンで注文できるようになったこのシステムは、10分の5秒以内に4つのコーナーすべてで、ボディを中央位置から最大85mm上下させることができる。

「アウディ・ドライブ・セレクト」のモードによって、その姿勢変化のプログラムは変わることになっている。あいにく筆者は、ほとんどオートモードで乗っており、その違いはよくわかっていない、というのがホントのところです。なので、このシステムはスゴイ! とだけで申しておきます。

引き算の美学ふたつめの驚きはエンジンである。この3996ccV8ツインターボは、ポルシェゆかりのエンジンで、ポルシェだと「カイエン」や「パナメーラ」、ベントレーだと「コンチネンタルGT」や「ベンテイガ」にも使われている。アウディに限れば、高性能モデル、「RS6」や「RS7」、「S8」とも基本を同じくしている。

そのなかで静粛性とトルク重視のチューニングが施されている。筆者はそのことに驚いた。最高出力460ps/5500rpm、最大トルク660Nm /1800~4500rpmと、パワーもトルクも控えめで、筆者が試乗したことのあるRS7、600ps、800Nmの、モーレツに速くて、レーシィなサウンドを発していたのに較べると、別人である。

高級車用に仕立てなおされたこのV8は、アクセルを全開にし、6000rpmまでまわしてみても、息を殺している。排気音はほとんど発せず、メカニカルなサウンドのみを粛々と聞かせる。上品で、ソフィスティケートされている。氷のような感触は、ダイナミック・モードでさえ、感情の起伏を隠しているようで、つまり、耐え忍ぶというエロティシズム、というものを連想したのだった。

例によってエンジン・ブレーキはまったく効かず、高速巡航中はときおり、エンジンを休止してコースティングという名の惰性走行を披露して燃費を稼ぐ。そういう状況だと、エンジンは休止しているわけだから、電気自動車と同等の静粛性、ということになる。

ロングホイールベースゆえ、後席住民は足が余裕で伸ばせる。ダイナミック・モードに切り替えても、さほど猛々しいサウンドを発するわけではない。そういう意味でもショーファードリブンに徹している。乗り心地も、ほぼストレートの道を走っている場合だと、キュッと締まる感じはしても、あまり変わらない。

ボディの姿勢がかくもフラットなのはプレディクティブ・アクティブ・サスペンション云々以前に、ロングホイールベースということもあるだろう。

ブレーキはキューっと効いて、制動それ自体、快感をもたらす。

おそらく最後のガソリンV8となるアウディA8のザ・トップ・オブ・ザ・レインジは、インゴルシュタットのラクシュアリー方面における最高到達点である。それはメルセデスやBMWとは異なる第3の道、ちょっとアンダーステートメントであることの魅力、引き算の美学の魅力を控えめに、しかしながら鮮やかに放っている。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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みんなのコメント

5件
  • 欧州全体で年間2000台前後、北米も同様、そして中国が年間14,000台。
    中国専用の「ホルヒ」仕様を含め、ほぼ中国共産党幹部の為に企画されている様な車。
  • 年収400万円の劣化日本人は黙ってなさい
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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