■ワークスチューナーが集結したワークスチューニンググループ合同試乗会
ノーマルモデルは多くのユーザーを対象とする商品の特性上、クルマの性格やセットアップなどは“、どちらかと言うと”万能性”や“汎用性”を重視する事が多いです。
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ただ、人の好みは千差万別な上に、使用用途を限定すれば「ノーマルモデルでは物足りない」と言う人も出てくると思います。そこで、個々の好みに合わせて最適化する事が、クルマにおける“チューニング”の基本となります。
そのため、正しい知識なしに闇雲にチューニングを行なうと、オーナーの満足度は別としてもクルマとしての完成度はノーマルよりも劣ることも。そんなチューニングをある意味正しい方向に導く存在が、自動車メーカー直系のワークスチューナーと言えるでしょう。
ワークスチューナーはモータースポーツのために設立されたブランドが多く、そこでの活動で培った技術やノウハウをストリート用モデルにフィードバックさせたチューニングが特長です。そこで今回は、TRD/NISMO/STI/MUGENの4社がタッグを組んで開催する「ワークスチューニンググループ合同試乗会」に参加してチェックしてみました。今回は個々のモデルの話だけでなく、ブランドについても言及してみました。
まずは「NISMO」です。ここで言うNISMOとは2013年から展開がスタートされたNISMOロードカーではなく、NISMOレーシング直系の「NISMOパーツ」を意味します。
ノーマルの潜在能力を引き上げる…と言う部分は共通ですが、NISMOパーツは立ち位置をスポーツ側にシフトさせる機能系アイテムが主となります。解りやすく言うと「サーキット“も”走れる」ではなく「サーキット“が”走れる」チューニングです。
スカイライン400RはECUチューンとなる「スポーツリセッティングTYPE2」と「スポーツチタンマフラー」、「S-Tuneブレーキパッド」、「フロントアンダースポイラー」を装着されていますが、やはり注目はパワートレインの進化でしょう。
ノーマルでも十分パワフルですが、NISMOパーツ装着車は実用域のトルクの段付きが解消された事によるコントロール性と高回転域の吹け上がりの鋭さがアップ、より精緻で官能的とスポーツエンジンらしいフィーリングに変貌。フットワーク系はノーマルだったのでクルマのバランスとしては若干じゃじゃ馬方向ですが、ドライバーがコントロールできる範囲。むしろ「それをコントロールするのはドライバーの役目」と言われているように感じました。
発売されたばかりのノートオーラNISMOには適合確認中の鍛造アルミホイール「LM GT4S」と開発中の「フロントリップスポイラー/ルーフエクステンションスポイラー」を装着。
ホイールはノーマルに対して一本当たり数kgレベルの軽量化で、操作に対してキビキビした反応とメリハリのあるクルマの動き。軽快なノーズの入りとリアタイヤの接地性の高さはエアロパーツの効果によるものが大きく、強いダウンフォースと言うよりも前後バランスを整えている印象でした。
この2台、どちらも「元気であること」、「攻めたくなる」と言う共通項があり、そういう意味では日産車に“痛快”なワクワクをプラスさせてくれます。つまり、ノーマルだと甘口に感じる人向けに、ピリッと刺激を足すスパイスのような存在と言ったらいいでしょう。
次は「STI」です。自社でモータースポーツ活動を行なっていますが、その目的は「モータースポーツから量産車へのフィードバック」ではなく「モータースポーツを用いて量産車技術を証明」と他ブランドとはアプローチが逆な事です。つまり、ドライバーがクルマに全幅の信頼を寄せられる「意のままの走り」、天候や路面状況に左右されない「懐の深さ」、そして、ドライバーが走り続けられる「快適性」はレーシングカーもロードカーも同じ…という考えなのです。
注目は独自理論のフレキシブル補剛アイテムです。これは剛性アップではなく剛性のバランスを整える事が目的で、BRZにはフロント:フレキシブルVバー/リア:フレキシブルドロースティフナー、フォレスターにはフロント:フレキシブルタワーバー&フレキシブルドロースティフナー/リア:フレキシブルドロースティフナーが用意されています。
これが効果テキメンで、ステアリングを操作した時の応答性の良さはもちろん、前後バランスが変わったかと錯覚するくらい4輪を使って曲がる感覚、更にはサスペンションを交換したかのような吸収性の良さ&シットリとした足の動きと、例えるならば走りに関わる全ての部位の精度が増した感じです。
BRZは、フォレスターで感じた感覚に加えて、旋回中心がよりセンターに来た感じで、より一体感が高まり、ドライバーの操作により忠実ですが、クルマの動きはシャープではなくむしろ穏やか。直進安定性の高さはエアロパーツの相乗効果もあるようです。乗り心地はより軽やかなステップに感じましたが、これはBBS鍛造アルミホイールとローダウンスプリングの効果も大きいはずです。
この2台、どちらも走りの純度を高めノーマルの潜在能力を最大限に引き出されているような気がします。一つ気になるのは「走り」と「見た目」のギャップ。走りは上記のような方向性ですが、見た目は硬派なイメージなので、装着すると「タイムアップする」、「速くなる」と思われがちな事です。もちろん、結果的としては速くはなりますが、そこが目的ではない……と言うことを、今まで以上に啓蒙していく必要があると思っています。
■筆者が考えるワークスチューナーの役目とは?
続いて「MUGEN」です。実はホンダとの資本関係はありませんが、新車開発を並行、ディーラーで購入可能…とワークスチューナーと同格の存在と言っていいと思います。
古くからモータースポーツのイメージが強く硬派なアイテムも用意されていましたが、最近はドレスアップ系アイテムが中心でスポーツサスペンションをはじめとする機能系パーツは少なめ。ヴェゼル/シビックも精悍なエアロパーツを身に纏っているだけに、何とも勿体ないです。運転支援デバイスの影響を踏まえての事なのは解っていますが、そこに踏み込んでいくのがワークスチューナーの役目だと、筆者は思っています。
ただ、シビックはパフォーマンスダンパーや鍛造アルミホイール(FS10)、スポーツマフラー、スポーツブレーキパッド/スリットローターなど、機能面のアイテムを豊富に用意。
特に鍛造アルミホイールは純正に対して一本あたり4kgの軽量設計で、まるでボディサイズがコンパクトになったかのような軽快でキレのいいフットワークやステアフィールの直結感アップ、革靴からスニーカーに履き替えたような足の動きの軽やかさなど、どちらかと言えば“洗練”方向にアップデートされていますが、個人的にはMUGENの立ち位置を思うと、もう少しヤンチャな方向性でもいいような気がしました。
関係者に話を聞くとサスペンションの検討も行なっている……と言うことなので、是非とも頑張って欲しいです。
そして最後は「TRD」です。長きに渡ってトヨタのワークスチューナーとして名をはせてきましたが、2017年にトヨタが「GR」を発足以降は市販車用アイテムのビジネスは縮小傾向、現在はブランド名(トヨタ・レーシング・デベロップメント)の通り、モータースポーツの開発・サポートが主です。
今回は国内ラリーの入門カテゴリーとトップカテゴリーの間に位置する地方戦「TRD RALLY CUP」でグラベル/ターマック共用のサスペンション「TRD CUP-SPECダンパー」装着のヤリスと、オーストラリアで開催されているオフロードレース「TFDR(Tatts Finke Desert Race)」のEX4クラスで優勝したハイラックスの2台になります。
ヤリスは適度なストローク感と姿勢変化を抑えた絶妙なセットアップで、初心者には安心感、中・上級者にはコントロール性の高さが感じられる味付けでした。
今回はターマックでの試乗でしたが、タイヤのグリップだけに頼らない走りはグラベルでも強い武器になってくれそうな予感がしました。個人的には地方選だけでなく、入門編であるTGRラリーチャレンジでも使えるといいな…と。良い物は皆で使う、ここは是非ともカテゴリーの垣根を越えて欲しい部分です。
ハイラックスはタイ仕様のスマートキャブがベースですが、中身は別物!! エンジンは直4-2.8Lターボでノーマルの177ps/450Nmから260ps/700Nmに出力向上。トランスミッションは6速ATでむしろMTよりも頑丈だそうです。駆動方式は当然4WDですが、プラド用のシステム(フルタイム式)に変更。シャシーは大改造されており、ホイールベースはノーマル比185mm短縮、リアサスはリーフリジットから4リンクに変更。サスペンションはストロークがタップリの専用品で、連続した波状路でも足だけ動いてキャビンはフラットだそうです。
少しだけステアリングを握らせてもらいましたが、エンジンは力強いだけでなくどこから踏んでも鬼トルク。ハンドリングはタイヤのグリップに頼った走りをするとアンダーステアしかでませんが、サスペンションストロークを活用しながら前荷重や後荷重をシッカリ意識した走りを心掛けると、2.2トンの車両重量を感じさせないくらいキビキビ&グイグイと曲がっていきます。まさにドライビンの基本に忠実…というマシンでした。
ただ、残念なのはこの2台のノウハウを活かした市販パーツが存在しない事です。TRDの存在意義はモータースポーツと量産車の架け橋だと思っていますが、現在はそのバランスが少し崩れてしまっているのも事実です。もちろんGRとの関係性など様々な課題がある事も理解していますが、TRDのブランド力は今でも健在なので、上手に共存していって欲しいと願っています。
このように、一口にワークスチューナーと言っても各ブランドにより目指す「味」、「方向性」は異なります。
ただ、その想いは共通だと思っていて、「チューニングの『楽しさ』、『重要性』を、より多くの人に『気軽』に『安心』して味わってもらう事だと思っています。その部分について筆者は異論ありませんが、声を大にして言いたい事もあります。
それはワークスチューナーならではの“強み”が欠けている事です。メーカーに最も近い存在だからこそ、サードパーティでは真似のできない部分に踏み込んでほしい所です。それは何か? 例えば、運転支援デバイスや制御デバイスとの共存や、電動パワートレインのチューニングなどなど…。
この辺りは非常にセンシティブなので自動車メーカーとタッグを組んで進めていく必要があります。もちろん、できない理由がたくさんあるのは重々承知していますが、やらなければいけない領域だと思っています。
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