あの頃の250ccバイクは刺激的だった!
“ラッタッタ”からレーサーレプリカへ
1980年代、「バイクブーム」と呼ばれる現象があった。若者を中心に二輪が人気となり、1982年の国内出荷台数は過去最高の328万台となった。近年は40万台前後を推移していることを考えると、その数がいかに多いかわかるだろう。
ブームのきっかけとなったのは“ラッタッタ”の愛称が話題となったホンダ「ロードパル」やヤマハ「パッソル」などの50cc(原付)が爆発的に売れたことだが、やがて二輪WGP(ロードレース世界選手権)やマンガの人気なども相まって、一大ムーブメントへと発展していった。
バイクブームはやがて“レーサーレプリカ”と、呼ぶ高性能マシンを生み出し、メーカー間の性能競争をヒートアップさせていく。矢継ぎ早に投入される新機種、新技術にユーザーは熱狂していったが、1980年代初頭、その流れを加速させたエポックメイキングなモデルがいくつか登場している。ここではそのなかから3台を紹介する。
(1)ヤマハ「RZ250」1970年代以前、小排気量の二輪車が搭載するエンジンは、構造がシンプルで軽量、かつ高出力が得やすい2ストロークが主流だった。だが1970年代半ば、北米を中心に自動車排出ガス規制が強化されたのを機に、小排気量クラスも2ストロークから4ストローク・エンジンへと移行していった。
そんな時代のなか、ヤマハが“最後の2スト・スポーツモデルをつくる”という思いで開発したのがR Z250だ。先代モデルRDシリーズの空冷エンジンから、当時のヤマハ市販レーサー「TTZ」譲りの水冷並列2気筒レイアウトを採用。パワーは当時の250ccクラス最高の35psを発揮した。ロードバイク初採用となる、後輪を1本のコイル/ダンパーで支えるモノクロス・サスペンションや斬新なデザインのキャストホイールなど、最新の技術が惜しみなく注がれていた。
RZ登場以前、250ccにはどこか当時の中型免許で乗れる最大排気量、400ccクラスの“お下がり”的なイメージがあった。だがRZ250は400cc4ストロークモデルと対等に渡り合える性能から“400キラー”と呼ばれ、走り屋たちからも人気を博した。また1978年から1980年まで、ヤマハのワークスレーサー「YZR500」を駆ってWGP500ccクラス3年連続チャンピオンに輝いたケニー・ロバーツの活躍もRZ人気に拍車をかけた。
かくして大ヒット作となったRZ250に対し、他メーカーも水冷2ストロークエンジンを積んだスポーツモデルを発売し対抗、その後のレーサーレプリカ・ブームへと繋がっていく。“最後の2スト・スポーツ”として開発されたはずのRZシリーズも「RZ250R」、「RZ250RR」とモデルチェンジを受け、やがて後継機種として登場した「TZR250」は、二輪メーカーが一斉に2スト・モデルの販売を終了した1999年まで販売が続けられた。RZ250の登場が、2ストローク・スポーツの寿命を20年近く延命させたのである。
(2)ホンダVT250FヤマハRZ250の登場によって注目を集めるようになった250ccスポーツバイク。RZに遅れること2年、1982年にホンダがこのカテゴリーに送り出したのがVT250Fだ。RZが小型軽量で高出力を発揮する2ストローク・エンジンを搭載していたのに対して、VTは4ストロークの水冷V型2気筒エンジンで対抗した。
当時、二輪世界グランプリでは2ストロークマシンが圧倒的主流だったが、ホンダは4ストロークの優位性を唱え、1979年に4ストのレーサー「NR500」でWGP復帰を果たしていた。NRには“楕円ピストン”を用いたV型4気筒エンジンという独創的な技術が投入されていた。VT250Fはピストンこそ一般的な円形だったが、NR譲りの気筒あたり4バルブのVツインエンジンを採用したのだ。
90度のシリンダーバンク角に設定されたVツインユニットは、11000rpmで最高出力を発揮する当時としては超高回転型エンジンで、RZ250と同じクラス最高の35psを発揮した。くわえて低回転域から力強いトルクを発揮し、扱いやすい4ストロークのエンジン特性は、ピーキーな2ストロークに対してのアドバンテージだった。
また先進的でスタイリッシュな外見は、いかにも1970年代的なスタイルのRZとは対照的だった。角形ライトにウィンカーを内蔵したフェアリングを備え、リヤのライトもウィンカー一体型のコンビネーションタイプ。さらに赤く塗装されたフレームに赤いシートの組み合わせは、シートといえば“黒”と決まっていた時代に鮮烈な印象を与えた。
デビュー時はRZのライバルと目されたVTだが、その扱いやすいエンジン特性や洗練された外見があいまって、じっさいは“走り屋”ライダーというより、初心者や女性ライダーを含めた幅広い層から人気となった。
登場1カ月後の1982年7月には8418台を販売(出典:1985年3月28日ホンダニュースリリース)し、軽二輪(125cc以上250cc未満)の過去最高記録を更新した。VT250Fの登場は、その後1980年代終わりまで続くクォーター(250cc)人気を決定的にしたのだった。
(3)スズキRG250γ(ガンマ)1980年代バイクブームを象徴する、いわゆる「レーサーレプリカ」の元祖と言えるのが1983年に登場したスズキRG250γだ。RZ250やVT250Fはレーサー譲りのテクノロジーが注がれていたとはいえ、あくまで従来のオンロードバイクの範疇にあったが、対するRG250γは、まるでサーキットを走るレーサーにナンバープレートを付けたような過激なルックスで現れたのだ。
1970年代、世界グランプリ500ccクラスで7年連続チャンピオンを獲得したスズキは、1982年、フランス人ライダーのフランコ・ウンチーニが駆るRG500でふたたびWGP500ccのタイトルを獲得。翌1983年、そのイメージを色濃く受け継いだRG250γは“SUPER CHAMPION”のキャッチフレーズを引っ提げて登場したのだ。
なんといっても衝撃的だったのは、GPレーサーと見紛うフルカウルをまとったスタイリング(アンダーカウルはオプションだったが)。その中身も革新的なもので、水冷2ストローク2気筒エンジンは250ccクラス最高の45psを発揮、フレームは市販車世界初のアルミ角パイプ製「AL-BOX」を採用していた。
エンジンやフレームの軽量化につとめたことにより、車重は131kgと同クラスのライバルより10kg以上軽く、フロントにはブレーキング時の沈み込みを防ぐ「アンチ・ノーズ・ダイブ・フォーク」にダブルディスクブレーキを組み合わせ、タイヤは当時としては珍しかったミシュラン製が標準装着されるなど、見かけだけではないその“戦闘力”の高さもレーサーレプリカの呼び名に相応しいものだった。
ただしそのキャラクターも“レーサー譲り”であり、低回転域でのトルクが極端に薄く、ピーキーに吹け上がる荒削りなエンジン特性により、速く走らせるにはライダーに相応の“腕”が求められた。その象徴のひとつが“低回転は使えませんよ”と言わんばかりに、3000rpm以下の目盛りが刻まれないタコメーターだったが、それすらも“峠のウンチーニ”気分を盛り上げる演出として、走り屋たちからは歓迎された。
発売後1年で約3万台を売り上げるヒット作となったRG250γを追いかけ、その後各メーカーからは矢継ぎ早にレーサーレプリカ・モデルが登場した。毎年、争うようにアップデートされるマシンはやがてライダーを置き去りにするほど高性能化し、1990年代初め、バイクブームの終焉とともに姿を消していったのだ。
文・河西啓介 編集・稲垣邦康(GQ)
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