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バブル期に登場したユニークな日本車5選

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バブル期に登場したユニークな日本車5選

1986年から1990年頃までの好景気の時代、通称「バブル期」にはユニークなコンセプトを持つ日本車が続々登場した。小川フミオが気になる5台を選ぶ!

日本車のヴィンテージ・イヤーはいつか。ピンポイントで指摘するなら、1989年ではないだろうか。この年にはキラ星のごとく、意欲的なニューモデルが数かず登場した。自動車好きをおおいに興奮させたものだ。

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例をあげると以下のようになる。トヨタが「セルシオ」、日産が「スカイラインGT-R(R32)」と「フェアレディZ(Z32)」と「インフィニティQ45」、富士重工業(SUBARU)が初代「レガシィ」、マツダが「ユーノス・ロードスター」……。もっとある。

もうすこし巨視的にみると、この”時代”は本当におもしろかった。なぜかというと、高性能だったりぜいたくな内装だったりというだけでなく、世界に類のないコンセプトのクルマがどんどん世に出たからだ。

いわゆるバブル期には、F1やパリダカといったモータースポーツや、「アルマーニ」や「ヴェルサーチェ」などのイタリアファッション、「ジュリアナ」や「芝浦GOLD」などのディスコ、苗場を中心とするスキーなど、硬軟とりまぜて、いろいろなものが流行った。

この時代にさまざまなブームが起こったのは、”自分が知らなかったものを知って、もっといい目をみたい”といった気持の後押しが少なからずあっただろう。同時に、”日本だって負けていない”という自負心も強かった。磯崎新や伊東豊雄の建築がことさらもてはやされたのもいい例だ。

それがクルマの世界にもあてはまるのでは? と、思う。冒頭にあげた高性能やぜいたくなモデルが続々登場。さらに、性能というより、コンセプトで楽しませてくれるクルマも少なくなかった。たとえば、ユーノス・ロードスターが興味ぶかかったのは、過去にさかのぼって、自動車づくりの先生だった英国に挑戦しているかのようにみえたからである。

それらを世界中のメーカーが評価した。自動車は、乗ってナンボの”体育会系”であると同時に、引用や解釈をおもしろがる”文化系”でもある。それをバブル期の日本車はともにもっていたのだ。

(1)トヨタ「セラ」

1989年10月の東京モーターショーにプロトタイプ(AXV-II)が出展されたのち、翌年3月に「セラ」の名で発売された。

トヨタ自動車が“グラッシーキャビン”と名づけた大きくガラスを使ったキャビンは衝撃的だった。タルガのような構造材が入っていて、ウィンドシールドからルーフとドアの一部(すべて大きなR=曲率がついている)が前半分。後ろ半分はポルシェ「911タルガ」を思わせるやはり大きなガラスハッチである。

そこに組み合わされたのが前ヒンジで跳ね上がる、マクラーレンの「ディヒドラルドア」のようなドアだ。

雨がキャビンに流れこまないような構造のドリップモールや、グラスドーム用の強力な容量のエアコンなど、個性的なデザインを実現するために、あらゆる部署が力を貸したというかんじなのだ。

ただし、110psの1.5リッター「5E-FHE」ユニット(セラで初めて採用)は、やや力足らず。カタログ数値では890kgの車重はいまの水準からするとむしろ軽いといえるものの、プラットフォームを共用したスターレットなどは760kgしかなかった。はたしてセラは、走らせて重かった。

いまの技術ならこのスタイルのまま(安全基準が変わっているので同一は無理だろうけれど)、パワフルなクルマになるんじゃないだろうか? 乗り心地もサスペンションストロークが短く、それほど快適でなかったので、ここも改良してほしい。過去から現在にやってきてほしいクルマの1台だ。

(2)ニッサン「PAO」

日産自動車が「Be-1」(1987年)や「PAO」(1989年)を出さなかったら、アウディ「TT」も「ニュービートル」もなかった(だろう)と、当時フォルクスワーゲングループのデザイナーたちは証言している。それほどのインパクトがあったモデルだ。

かたちにしたのは、日産の仕事をしている高田工業。スタイリングコンセプトを手がけたのは、フリーランスで当時「ウォータースタジオ」を主宰していた”コンセプター”の坂井直樹氏だ。Be-1という強力なスマッシュヒットをとばした坂井氏は、第2打席でも二塁打というかんじで成功をものにした。

当時の日産自動車はデザイナーを含めてけっこう頭が硬くて……と、のちに坂井氏から聞いたことがある。坂井氏が打ち合わせのため、日産のテクニカルカルセンターを訪れたさいは、真っ赤なスーツ(だったような記憶がある)を見て守衛が仰天したという。

日産はそのあと、米サンディエゴのNDI(現・ニッサンデザインアメリカ)を積極的に活用して「テラノ」(1986年)や「エクサ」(1986年)を送り出し、しゃれたデザインを残している。でもせっかく、Be-1からフィガロにいたるパイクカーでひと皮むけたのだから、もっとこの路線を、メカニズムを含めて、しっかり追求してほしかった。

PAOは、1982年に登場した初代「マーチ」がベースだ。ちなみに、おなじく初代マーチのプラットフォームやドライブトレインを共用したBe-1の計画にゴーサインが出たひとつの理由はマーチのモデルチェンジが遅れたため”お茶をにごす”という目的もあったとか。なので、PAOはいってみれば、クルマのハードとしてはたいしたことはない。

が、右ハンドルだったし、パワーステアリングだったし、エアコンが標準だったし……と、いろいろな理由で、英国のグレイマーケット(個人輸入)でも”カルトカー”として大きな人気を集めたのが面白い。R32GT-Rなどもおなじ“カルトカー”のカテゴリーだったというのが、当時の日本車のバラエティの豊かさを感じさせる。

(3)ホンダ「ビート」

ビートは、656ccの小さなエンジンを搭載しながら、ミドシップ後輪駆動だった。ホンダの意地のようなものだった。同時期に発売されたスズキ「カプチーノ」(1991年)がフロントエンジン+後輪駆動だったのと対照的だ。

マツダ・オートザム「AZ-1」(1992年)は、ミドシップの後輪駆動でしかもガルウィングとかなり”けれん味”があったのに対して、ホンダのアプローチはもうすこしピュアである。

全長3295mm、全高1175mmというボディと、タイトな室内空間は、まさにクルマを着ている感覚。3連スロットルと燃料噴射と高圧縮比のエンジンは自然吸気式だ。

最高出力は8100rpmで発生する、という高回転型。自然吸気にしたのは、エンジンをまわして走ることこそスポーツカーの本質と、ホンダが考えていたせいか。ターボチャージャーなどなくても、まずまず元気よく走った。

なにより、レールの上を走るような、と評される、すなおでダイレクトな操縦感覚が魅力だ。日本にしかない軽自動車の規格のなかで、よくもまあ、こんなに凝縮感覚のあるスポーツカーを作ったものだ。

プロファイル(側面)をみると、前輪より前の部分、フロントオーバーハングがかなり短い。ホンダは、この部分を長くする“英国的なスタイリング”をよしとするメーカーだと思っていただけに、意外なアプローチだった。

そういえば、ビートはTVコマーシャルがよかった。アベドンがジュン&ロペのコマーシャルのために設定した男装の女性と、映画『ブレードランナー』のプリス・ストラットン(レプリカント)ふうのふたりが、原由子の楽曲『じんじん』とともに夜の都会を走る。活力があって、レトロフューチャーふう。いま観ても、洒落ているのだ。

(4)ユーノス「プレッソ」

いまでも意欲的にみえる、マツダ(ユーノス)の「プレッソ」。なんと(と書きたくなる)1.8リッターV型6気筒エンジンという凝ったパワートレインを搭載して、1991年に登場した。

全長4215mmのコンパクトクーペであるものの、フロントからリアのグラスハッチにかけて流麗なラインが実現。実用性よりも趣味性がきちんと訴求されていたのは、マツダらしい。

よくまわるエンジンで、バブル期のマツダのエンジニアの熱気にはすさまじいものを感じたのをおぼえている。販売網の多チャンネル化を目指していた当時のマツダは、姉妹車をオートザム「AZ-3」として設定。ただしこちらは当初、1.5リッター直列4気筒エンジンを搭載し、差別化されていた。

差別化というのは、はたからみているぶんには、クルマのキャラクターを確立するうえで大事だと思うが、社内ではそうもいかなかったのだろう。そのあと、プレッソに4気筒、AZ-3にV6が積まれることになった。

内装もユニークで、リアにひとが乗るスペースはあるものの、当時の「ペルソナ」(1988年)や「コスモ」(1990年)にみられた“インテリア・イズム”の流れだろう、座面とバックレストレイントが別体で、観た目にはおもしろいものの、とうてい実用的とはいえなかった。

2プラス2のスタイリッシュなクーペとしては、これでいい、という”デザインのマツダ”の割り切りだろう。当時、「こんな使いにくそうなデザインのどこがいいんだろうか……」と、よけいな心配をしたものだ。でも、いまはおもしろく見える。

あいにく1991年にはバブル経済は崩壊し、自動車市場でも浮かれ気分は薄らいでいった。その影響をこうむって、マツダは販売網も開発も縮小。プレッソは意欲作なのだけれど、販売はかんばしくなかった。それでも1998年まで生産したのだから、ファンのために評価したい。

(5)ダイハツ「アプローズ」

GQ JAPAN様アプローズリリース.pdfダイハツが自社にもまっとうなセダンを……と、開発したのが1989年登場の「アプローズ」だ。当時はいまと異なり、(まだ)セダンが自動車メーカーのドル箱であった。アプローズは小さな高級車だった。

当時のダイハツの立ち位置から、大型セダンには手を出さず、全長が4060mmに抑えられていた。当時、ひとつの線引きが(フェリーの料金などにかんがみて)3999mmだったはずで、やや中途半端感のあるサイズだ。

GQ JAPAN様アプローズリリース.pdfアプローズは、写真だと堂々として見える。実車は予想以上にコンパクト。リアのガラスごと開く大型のハッチゲートを備え、使い勝手が考えられていた。

1987年に登場した3代目「シャレード」がダイハツのヒット商品で、ハッチゲートは商品性がある、と、判断していたのだろう。とはいえ実車では、強くノッチがついたハッチゲートゆえ機能的な恩恵はあまり感じられなかった。

GQ JAPAN様アプローズリリース.pdfスタイリングはクリーンな面づくりで、好感がもてた。くわえて、1992年のマイナーチェンジまでは、中央にやや寄せられたヘッドランプと小ぶりのグリルが、欧州車のような雰囲気すら感じさせたのだ。

そののち、グリルは大型化され、内装もどんどん派手になっていった。とりわけ1997年のマイナーチェンジでは、グリルが縦スロットのクロームメッキタイプとなったうえ、ダッシュボードには木目調パネルもあしらわれた。全長4mそこそこのコンパクトセダンのわりにずいぶん豪華(風)になってしまった。

GQ JAPAN様アプローズリリース.pdfちなみにアプローズは、1990年に火災事故を起こし、(メーカーはすぐに対処したものの)“欠陥車”として報道されたため、その印象が最後まで尾を引いた。足まわりもよく、1.6リッターエンジンは活発にまわり、よく出来ていただけに、販売がいまひとつ伸びなかったのは、メーカーとしても残念だったろう。

文・小川フミオ

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