160km/hを2500rpmでこなした8リッター
スピードメーターの針の動きへ、走り好きは古くから魅了されてきた。時速130マイル(約209km/h)まで振られた、ベントレーの巨大なAT社製メーターは、今でも格別な威厳を漂わせている。
【画像】コルシカ社の美しいツアラーボディ ライセットの8リッター 戦前のベントレーたち 全135枚
今回ご紹介する8リッターは、技術者のルイス・マッケンジー氏が、ベントレーをこよなく愛したフォレスト・ライセット氏のために仕上げた1台。英国のブルックランズとベルギーのジャベケのコースで、最高速記録を樹立している。
徹底的なチューニングが施されつつ、欧州大陸を横断するような、長距離旅行にも積極的に利用された。ようやく自動車の普及が進み始めた時代に、ライセットは160km/hを超えるスピードをしばしば楽しんでいた。
例えその速度で走行しても、8リッターを突き動かす8.0L 直列6気筒エンジンの回転数は、僅か2500rpm。有り余るほどのパワーを秘めていた。GW 2926のナンバーを下げたベントレーは、広い直線では、ほぼ無敵の速さを誇ったことだろう。
第二次大戦後でも、最速のスポーツカーの1台に数えることができた。世界が流線型へシフトする中で、ドイツ南西部のハイデルベルクからフランス北部のディエップまで、689kmを1日で走りきった記録も残されている。
第二次大戦前までに重ねた距離は、約10万km。「モーター(エンジン)の時代に生まれたことへ、深く感謝している」。それが、ライセットの口癖だったらしい。
速さの記録破りに夢中だった初代オーナー
彼の助手席には、レーシングドライバーで友人だった、ニール・コーナー氏が時々座った。自動車ジャーナリストのビル・ボディ氏や技術者のローレンス・ポメロイ氏を、横に乗せることもあった。
グレートブリテン島東部、ダーリントンに広がる高速道路の景色は、ライセットが走ったスコットランドのグレート・ノース・ロードとはまるで異なる。だがニールは、何10年も往復してきたから、鮮明に様子が思い浮かぶと口にする。
走行車線で、徐々に速度を高める。交通量の少ない区間で、アクセルペダルが踏み込まれると、加速力へ息を呑む。8リッターは、いとも簡単に空気を切り裂き始める。ニールは、正確に4スポークのステアリングホイールを操っている。
その表情は、とても穏やかだ。ライセットの8リッターでのドライブ以上に、幸福な出来事はそうそう起きない。鉄道の高架橋で、彼が指をさす。その線路を、77年前は流線型の機関車、マラード・ストリームライナーが160km/hで疾走していた。
1937年の自動車ファンは、この8リッターが、ル・マン24時間レースへ出場する可能性を話題にしたかもしれない。ライセットは参戦する時間がないと、当時の自動車雑誌、モータースポーツ誌で否定している。
その頃の彼は、ブルックランズ・サーキットでの記録破りに夢中だった。生涯で9台のベントレーを所有したが、この8リッターは最後まで大切に維持した。1924年のル・マン24時間レースでの勝利が、ブランドへの忠誠心を生んだようだ。
コルシカ社製の美しいツアラーボディ
ライセットは、アストン マーティンやスペインのアルフォンソ・イスパノなど、複数のスポーツカーも購入している。ヴォグゾールとインヴィクタのモデルへ落胆したことが、ベントレーに対する気持ちを一層強いものにしたという。
彼が所有した8リッターは、GW 2926のナンバーで登録された、シャシー番号YX5121の1台のみ。ルイスは、その専属整備士といってよかった。ベントレーの専門家として一目置かれ、息子のドンとともに、スーツと山高帽で着飾ったライセットに頼られた。
ルイスはベントレーだけでなく、デイムラーやロールス・ロイスでも、技術者として勤務した経験を持っていた。キャリアを積むと独立し、ロンドンに自身が営むガレージを開いている。
8リッターの納車は、1931年12月29日。ショートシャシーに、軽量な4シーターのツアラーボディが架装されていた。ブラックとブラウンでコーディネートされた、美しいデザインを仕上げたのは、コーチビルダーのコルシカ社だ。
紅茶の輸入事業で成功したライセットにとって、自分へのプレゼントという意味があったのかもしれない。多趣味で、サッカーや音楽、建築、ヨットなど、関心の幅は非常に広かったという。
グレートブリテン島南部、サセックスにあったサーキットで開かれたスピードトライアルへ出場したのは、1933年。彼は、新記録を樹立する面白さへ惹き込まれていった。
アルファ8Cに勝利 英国最速のスポーツカー
8リッターはチューニングが重ねられ、1939年には、0-400mダッシュを20.63秒で処理する速さを実現していた。トランスミッションが、不調だったにも関わらず。
彼が意識したのは、エンジンの最適化とシャシーの軽量化。ルイスとは、意見が対立することもあったとか。だが、別のガレージへ頼むよ、と口論になっても、ライセットは翌日には電話で謝罪。日頃の感謝を伝えるというやり取りが、何度かあったらしい。
1934年には、8リッターのシャシーはホイールベースの短い4リッター用へ交換。ラジエターの高さを低くした、新しいコルシカ社製ボディが架装されるが、徹底的な軽量化で8リッターのシャシー単体と同等の車重を達成している。
エンジンには特別なピストンが組まれ、ポートを研磨。3連キャブレターとマニホールド、スライドスロットル、高圧縮比化など、できうる限りの改良が施された。トランスミッションのギア比も変更され、リアデフにはストレートカット・ギアが組まれた。
1937年のブルックランズでは、0-1000kmの加速記録へ挑戦。最高速度は131.1km/hに達し、27.46秒でゴールしている。
一層のダイエットを希望した彼は、墜落したビッカース爆撃機からアルミニウムを流用。軽いボディを作らせ、新しいダンパーを組ませた。
グレートブリテン島東部、リンカンシャー州シストンパークで開かれたスピードトライアルには、その改良版の8リッターで参戦。アルファ・ロメオ8C 2.9に勝利し、英国最速のスポーツカーだと評価されたほど。
この続きは、ライセットのベントレー8リッター(2)にて。
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