この記事をまとめると
■ボクスターは本来、ポルシェの次世代を担う「技術的な集大成」となるモデルだった
「やっぱポルシェは空冷だよ」はナゼ? 渋滞で「地獄」を見ても乗りたくなる理由とは
■コストカットを余儀なくされた初代ボクスターは多くの部品を996型911から流用した
■PPEプラットフォームでEVとして製作される次期型もボクスターであることに変わりはい
次期型ではEVとして登場予定とウワサのボクスター
次期ボクスターがEVとして開発が進んでいるニュースを耳にして、心中複雑なのは筆者だけではないでしょう。なにせ、ボクスターはスポーツカーとして911以上に優れた素性を持つライトウェイトなミッドシップカーを目指して作られた経緯があり、アウディと共有するEVシャシーを使って果たして同じことができるのかどうか⁉ 月並みな表現ですが「ボクスターよ、おまえもか」と肩を落としている方、少なくないのではないでしょうか。
そもそも、ボクスターが生まれた背景はまあまあ複雑でした。1980年代後半、968の後継モデルとして、エンジニアリング部門はついにミッドシップスポーツの量産試験に着手したといわれています。それまでもミッドシップの計画はいくつかあったものの、RRの911人気が高止まりしていたために首脳陣が首を縦に振らなかったこともよく知られた事実。
とはいえ、バイザッハのエンジニアにとってボクスターは、ポルシェの次世代を担う「技術的な集大成」となるはずのモデルであり、あわよくば911と並列する稼ぎ頭になる目算もあると主張したことで、いったんは重役会議でゴーサインが出されたのです。
そこからしばらくして、ドイツの自動車雑誌に一枚のレンダリングが「流出」しました。ご記憶かと思いますが、最初期のボクスター予想イラストで、めっちゃカッコいいもの。これで世界中が「ついにミッドシップか!」とざわつきはじめ、気の早い連中はシュツットガルトに予約の電話さえいれたものです。
そして、1993年のデトロイトショーで公開されたモックアップが「ボクスター・コンセプト」を名乗り、ボクサー+ロードスターという由来を聞かされるとざわつきは熱狂の域にまで膨れ上がっていったのでした。
もっとも、1990年に入るとすぐにエンジニアたちの気勢が削がれる出来事がありました。それは、次期911となる996と開発の歩調を合わせよという上からの指示でしたが、平たくいえば「996のパーツ使って作れよ」という意味にほかならず、開発の自由度とコストが大幅に制限されることになったのです。
よく知られた事実としては、ボクスターのフロントスカットルから前は996と共通パーツというのがありますが、これだけでも「流用かよ」とざわついていた連中は相当ガッカリしていましたからね。
当時のポルシェは年間生産台数が3万台に届かないほど低迷しており、経営陣にとってコストカットは最大の命題。996でさえ、初めての水冷エンジン911ということもあって薄氷を踏む思いをしていたのに、そこに加えて「ミッドシップだと⁉」という懸念(914の苦い経験が頭をよぎった重役もいたことでしょう)を鑑みれば、よくぞ踏み切ったものだと頭が下がる思いです。
EVになってもボクスターは我が道を行く
そんな事情もありながら、さすがというべきかポルシェのエンジニアたちはボクスターを比較的(=911よりは)ライトウエイトなミッドシップスポーツカーとして完成させたばかりでなく、大幅なコストダウンを実現しました。これは、ひとえに996とパーツを共用しただけでなく、996で取り入れられた効率的生産手法を活用したことが大きな要因。
ちなみに、パッカンスッカン量産できる手法だったことが幸いして、ボクスターの増産はフィンランドのヴァールメト工場(サーブの下請け)に委託もでき、より低コストで大量生産が叶ったといわれています。
ふとした思いつきですが、ここでエンジニア目線でなく、経営者目線で次期EVボクスターを考えてみると、初代ボクスターとの共通点が見えてきました。
たとえば、初代が直面したシビアな生産コストというのは、アウディ(というかVWグループ全体)と共有するPPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック、次期EVマカンも当然のように使っています)を活用することで開発コストの圧縮が可能。つまりは996のフロントセクションを丸ごと流用したのと似たような意味合いかと。
また、ミッドシップをセールスポイントというか、キャラとしてアピールするのもPPEのモジュール志向と重複するイメージ。つまり、PPEはバッテリーや駆動系のレイアウトに自由度があり、次期ボクスターでも全高を抑えるべくバッテリーは車体後部に配置されたことがスクープされています。すなわち、「EVになってもボクスターのミッドシップを踏襲している」という主張も可能だということ。
むろん「ミッドシップエンジン」と「バッテリーをミッド近くに搭載」という意味合いはまったく違うものの、顧客を「なんとなく納得させる」のにポルシェほど長けたメーカーはありません。
さらに、従来のボクスターはポルシェ商法の文脈どおり「最新のポルシェこそ、最良のポルシェ」を謳い、いつでも顧客が欲しかったモデルを「後出し」してきました。エンジン排気量のアップをはじめ、涙目ヘッドライトをモデルチェンジまで変えなかったり、かと思えばCO2規制でもっていきなり4気筒ターボにしたり、フラットシックスに戻したり!
こうした細々したマイナーチェンジやモデルの追加といった場面こそ、EV化に伴うPPE活用をはじめとするVWグループのスケールメリットが最大限に活かされるはず。あたかも初代で用いられた効率的生産手法かのように、パッカンスッカンと工場から出来上がってくるのが目に浮かぶようです。
ともあれ、流用とかコストカットとかパッとしないワードが連なりがちなボクスターですが、現実は経営不振だったポルシェを救った大立役者にほかならず、バイザッハのエンジニアが目論んだ911と立ち並ぶモデルというのは変えようのない事実かと。
どうやら、「EVになるとボクスターがボクスターじゃなくなっちゃう」という懸念は杞憂に終わりそうで、EVになろうとも、ボクスターはボクスターとしての道を突き進みそうです。
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