本稿タイトルにある「日本車は、高額車はあっても高級車はない」という話、レクサスが日本に上陸してから13年たっても、日本車に関してはよく言われることです。
それはなぜなのか? 何が足りないのか? 輸入車と高級ブランドに造詣の深い、自動車ジャーナリストの石川真禧照氏に聞いてみました。
【いいハンドリングとの関係を紐解く】 “いいサスペンション”って、何だ!?
文:石川真禧照
■価格だけ見ればレクサスは充分「高級」車
レクサスLS500“Fパッケージ”1200万円、“エグゼクティブ”1500万円。
メルセデスベンツ“S400”1140万円、S450“エクスクルーシブ”1363万円。
レクサスブランドの車はLSに限らず、他の国産同クラス車よりも高額だ。同クラスの輸入車に近い価格で販売されている。それは最上級VIPカーのLSも同じ。試しにメルセデスベンツの最上級モデルSクラスと比較したのが冒頭のデータだ。
昨年10月に5代目へとモデルチェンジしたレクサスのフラッグシップ車「LS」。走行性能や安全装備は申し分ないが、メルセデスやアウディのトップグレードと比べると、「高級感」、「ブランド力」という点では……
LSはハイブリッドになるとさらに高額になる。LS500h“エグゼクティブ”は1680万円で、これが一番高額なグレードだ。
いっぽうメルセデスはV8エンジン車になればS560ロング1664万円(これでもLSより安い!)、4マチック(4WD)でようやくLSよりも19万円高になる。「高額車」としての比較ならばレクサスも十分に対抗できる値付けを行なっている。しかもLSは昨秋の販売以来、生産台数を上回る受注が入るヒット作になっている。
レクサスブランドが日本で販売されてから13年。確かに「高額車」としての地位は確立した。しかし、「高級車なのか?」というと、メルセデスベンツ、BMW、アウディといったいわゆる「高級車」と比べると、まだまだと感じることが多い。
例えば、走り。
最新のLSシリーズは走行中の音の侵入やサスペンションの動きが気になる。とくにエアサスと4WDの組み合わせは、まだ発展途上。これは開発陣も認めている。音と乗り心地は、高級車の命でもある。
でも、なぜスタートから10年以上も経過しているのに、高級車としての地位が確立していないのだろう。いや、レクサスユーザーは(たとえ周囲の評価はそうでなかったとしても)「自分たちは高級車に乗っている」という実感があるようだ。
実際のクルマのできばえと、使用しているユーザーの感じ方の差。ここにレクサス=高級車のギャップがあるのだ。
■「販売」は高級、しかし「開発」は……?
まずユーザーがレクサスを「高級車」だと思う理由。それはディーラーの存在だ。
レクサス誕生以来、ディーラーはお客様を神様と思い、商談スペースでは膝まずいてお迎えする。乗ってきたレクサス車は無料で洗車をしてくれる。セールスマンは、レクサス誕生の13年前からの“おもてなし”の接客をいまでも守り続けている。レクサスが日本で高級ブランドをつくる、という誕生初期の志しは、おそらく当時から接客しているであろうセールスたちから受け継がれている。
いっぽう「つくり手」のメーカーは、当初は生え抜きのエンジニアたちが高級車づくりを一生懸命探っていた。「トヨタブランドとは違う!」という誇りを感じた。
ところが年月が経ち、担当者の異動がはじまる。ある時、カローラを担当していた技術者が、レクサスの担当になったりしはじめた。おそらく13年間、レクサスの開発を担当している技術者は数えるほどになっているかもしれない。そこに、伝統の心はなかなか受け継がれることはないだろう。
材料などにお金をかけた内装は高価で高級かもしれない。しかし、心情的な部分や乗り心地などの高級さは、お金やデータだけではなかなか手に入らない。それを育てるだけの余裕と時間こそ、高級ブランドには必要なのだ。
ミニバン界の最高峰に君臨するアルファード/ヴェルファイア。しかし「高級車」と言えるのだろうか
アルファードやヴェルファイアなど、高額なワンボックスカーをラインナップしたが、それらは乗り味や音に関しての高級感はない。そこには装備や素材などお金で買える高級感があるだけなのだ。「高級車」というブランドを手に入れるには、時の流れとこだわりと、心の余裕が大切なのだということだろう。
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