スーパースポーツGSX-R1000 K5のDNAを受け継いだネイキッド
今なお「スーパースポーツ界の名車」と言われるGSX-R1000 K5ベースのエンジンを搭載したネイキッドモデル、GSX-S1000がモデルチェンジ。2021年8月4日から日本での発売が始まった。
GSX-R1000 K5譲りのエンジンはどのような走りが味わえるのか? 新型となって変わった点はどこか? GSX-Rでレース活動を行った経験もあるプロライダー・鈴木大五郎がテストする。
【画像24点】スズキ新型GSX-S1000のデザイン、全車体色、足着き性を写真で解説
僕にとってスズキのマシンといえば、何はともあれGSX-Rだ。
歴代モデルを散々レースで使ったこともあり、スズキのマシンでは……という「縛り」がなかったとしても思い入れが深い。そのなかで「最も好きだったモデルは?」と聞かれたならば、悩んだ末に2005年モデルのGSX-R1000 K5という結論になる。
スーパースポーツとしての完成形と言われた名車であり、また多くのスズキ系レーサー達が「FAVORITE GSX-R」と評するのがこのマシンでもある。
BMW初の1000cc並列4気筒スーパースポーツ・S1000RRのデビューに際し、「GSX-R1000 K5から非常に大きな影響を受けた」と開発陣が語っていた逸話もある。他社からベンチマークとされるほどの素晴らしいバランスが光っていた。
その名車のエンジンをベースとしたネイキッドモデルが2015年にデビューしたGSX-S1000である。「これは悪くなるはずがない!」というのが乗る前の印象だった。実際、それは良いマシンであった。
しかし、なのである──惜しいのが、エンジンのレスポンスがやや唐突で、あのK5で感じられた懐の深さが薄まっていたこと。とはいえ、価格を考えればトータルで納得してしまう自分がいるのであるが……。
新型GSX-S1000は出力特性を改良「マシンとの一体感が高まった」
そのGSX-S1000が刷新された。
まず注目が集まるのはそのフォルムであろう。従来型のイメージを引き継ぎつつ、よりシャープでアグレッシブに変貌。昨今のスポーツバイクでトレンドの「ウイング」も装着される。
肝心の中身は従来型を踏襲しつつ、エンジン内部等に細かい改良が加えられた。さらに、最低限の実用的電子制御を新たに搭載してはいるが、スズキらしい、シンプルさは変わらずである。注目の走りはどのように変化したのだろうか。
「ストリートファイター」といったカテゴリーのマシンは、ネイキッドと言えど過激なほど腰高で、意外や前傾の強いものが少なくないのだが、このマシンはイメージこそストリートファイターではあるが、ライディングポジションはフレンドリーと言えるもの。
走り出した瞬間は「 ん、あまり変わっていないのかな?」と感じた。
一番レスポンスの良いAモードは出力特性がやや唐突で、アグレッシブに走るには良いものの、その気にならないと少しコントロールに神経を使う。
それではとBモードを選択するとこれが大当たり。開け始めのスロットルコントロールが格段にイージーとなり、マシンとの一体感がいきなり高まった。さらに、レインモードとも呼べそうなCモードも試す。開け始めからマイルドなレスポンスではあるが、これはこれで「あり」である。
スーパースポーツ用1000cc4気筒エンジンとしてはロングストロークなエンジンだったK5だが、そのフィーリングをより実感しやすく、ダラリと流すような走りにもマッチングが良好である。
エンジンの素のキャラクターは、トルク変動が少なく非常にフラットなパワー特性となっている。これは従来型から引き継がれた特性でもあるのだが、スムーズさにも磨きがかけられている。
数値的には従来比2馬力のパワーアップ。一方、最大トルクの数値はわずかに減少しているのだが、パワーカーブがより滑らかになった恩恵だろう、実際に走らせた印象はよりトルクフルで、使えるゾーンが確実に広くなっている。
ワインディングにおけるギヤの選択では、従来型ではやや高めを選択したいところであった。低速ギヤではレスポンスが唐突な印象で、低い回転数を使うことで、レスポンスをぼかすのがその狙いであった。
しかし新型は、従来型で躊躇された1速を使っても(モードBまたはC)、ギクシャクすることなくパワフルな領域をしっかり味わうことが可能。コントロールの幅が大きく向上している。
さらに、4速だとか5速を使っても、厚みのあるトルクを生かしてマシンの動きをリードできる。新たに採用されたオートシフターによって、気軽にギヤ選択ができ、メリットも大きいだろう。
もちろん、パワーは150馬力であるから十分刺激的で、現実的な領域で「超速」ということはハッキリ言っておかなければならないのであるが、「正常」と「異常」のギリギリのラインでバランスしているパワー感がいい塩梅でもある。
新型GSX-S1000のハンドリング「非常に軽快だが、安心感も高い」
車体はエンジンの優しさの恩恵もあると思われるが、こちらもより取っ付きやすくなった印象だ。足まわりのセッティング変更とともに、装着されるタイヤの銘柄が変わったことも大きいだろう。グリップ感=安心感が高まり、操作している実感を得やすい。
スタイリングの印象に対し、安定感の強いキャラクターともいえるこのマシンであるが、ハンドリング自体は非常に軽快。そのうえでフロント周りの安心感が高いので、タイトなワインディングでハンドルをこねくり回すかのような操作を試みても許容する……というか、嫌な挙動が顔を出さない。
Uターン等の小回りは非常に行いやすく、ハンドル切れ角も大きいので、普段使いもしやすい。
欧州で人気のストリートファイタースタイルをまとっていながら、しっかりフレンドリー。
これで「物足りないかな」と感じるのは一部のマニアックなライダーと、刺激に飢えたテストライダーぐらいか。
実は、現実的なスポーツ性とスリリングさ、そして扱いやすさをバランスよく確保しているキャラクターは貴重な存在なのである。従来型から価格は上昇したものの、新型GSX-S1000はその価値がある進化を果たしていたのだ。
従来型のダンロップ・D214からダンロップ・ロードスポーツ2(GSX-S1000専用に内部構造が専用チューニングされている)に純正装着タイヤが変更。クッション性が高く、ソフトなフィーリングで安心感が高い。
結果的に一体感が増した背景には、エンジン特性やライディングポジションの変更に伴って、サスペンション設定を変更したことも大きいだろう。
新型GSX-S1000の気に入った部分、気になった部分
■ここが気に入った!
GSX-R1000 K5エンジンらしいトルクとパワーのバランス具合に磨きがかかった。
必要十分な電子制御を新たに採用し、特に、ライディングモードを選べることでマシンのキャラクターに幅が出た。クイックシフターの装備も歓迎すべき点。
アグレッシブ過ぎないキャラクターがマシン操作に気後れさせず、あらゆるシーンでマシン操作を楽しめる。
■ここは気なる……
ところどころに安っぽさが見えてしまうのは、他社製同クラスのマシンに比べ、求めやすい金額を考えれば致し方なしか。
半面、カスタムできるパートがたくさんあるという楽しみなマシンでもあるので、メーカー純正、アフターマーケット製含め、多くのカスタムパーツの登場を期待したい。
昨今の最新マシンの中では、メーターの機能がちょっと寂しいか。
■新型GSX-S1000の足着き・ライディングポジション
アップハンドルを採用しつつも、意外や前傾が強くなりがちなストリートファイター系モデルも多い中で、軽めの前傾となるリラックスしたライディングポジション。
従来モデル比で20mmハンドル位置が手前になった恩恵は大きい。
スズキ GSX-S1000主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:73.4mm×59.0mm 総排気量:998cc 最高出力:110kW<150ps>/1万1000rpm 最大トルク:105Nm<10.7kgm>/9250rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2115 全幅:810 全高:1080 ホイールベース:1460 シート高:810(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R190/50ZR17 車両重量:214kg 燃料タンク容量:19L
[車体色]
トリトンブルーメタリック、グラスメットメカニカルグレー、グラススパークルブラック
[価格 ]
143万円
試乗レポート●鈴木大五郎 写真●柴田直行/スズキ 編集●上野茂岐
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