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“夜行寝台バス”は本当に成功するのか? 国交省「座席フルフラット化」が直面する3つの深刻課題とは

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“夜行寝台バス”は本当に成功するのか? 国交省「座席フルフラット化」が直面する3つの深刻課題とは

夜行バス快適化へ 新ガイドライン

 国土交通省は、2024年11月19日に高速バスのフルフラット座席に関する新しいガイドラインを発表した。夜行高速バスの利用者のなかには、より快適な移動空間を求める声が多く、特にフルフラット座席でゆっくり眠れることを期待する声が強かった。

【画像】「えぇぇぇ!?」 これが国交省の「安全性ガイドライン」です! (8枚)

 今回のガイドラインでは、安全性を確保するために、

・衝突時の保護措置
・転落防止構造
・座席ベルトの装備

などが具体的に規定されている。これまで日本では、安全上の理由からフルフラット座席の導入が認められてこなかったが、海外では

・インド
・カンボジア
・中国
・ベトナム

などで既に一般的な座席形態となっている。

 今回、日本でも利用者のニーズに応える形で規制が緩和されることになった。この変化がもたらす影響や可能性について考えてみたい。

筆者の意見

 夜行高速バスのなかでも最高峰といわれるのが、完全個室の「ドリームスリーパー」だ。両備バスグループや関東バス、奈良交通などで導入されており、

・東京から広島:1万8500円~2万3500円
・東京から大阪・奈良:1万8000円~2万円

で運行されている。このバスの最大の特徴は、「ゼログラビティシート」を採用している点だ。

 ゼログラビティシートは、フルフラットで眠ること自体が最適な安眠姿勢ではないという考えに基づき、腰の位置から約110度の角度で、胸の高さまで太ももを上げる形状をとる。この「ゼログラビティ角度」は、航空宇宙局(NASA)の理論に基づいており、浮遊感を感じながら深い眠りに入れるとされている。ドリームスリーパーでは、このゼログラビティシートを使用している。

 しかし、限られた空間のなかでこの角度をとると、寝返りを打つことが難しく、血流が圧迫される可能性があり、身体によくない場合もある。そこで、ムアツクッションを採用し、身体を点で支えることで血流を妨げず、寝返りを打たなくても身体に負担がかからないようにしている。

 ムアツクッションは、昭和西川が開発したもので、宇宙ロケットの先端形状からインスピレーションを受けている。このクッションは、枕や背面、座面、フットレストすべてに使用されており、点で支える形状が血行を妨げず、通気性にも優れ、穏やかな眠りをサポートする。

 さらに、座席の角度調整は電動で行うことができ、チルト(高さ)、リクライニング、フットレストの調節もすべて電動で対応している。これにより、長時間の高速バス移動でも快適に過ごせるようになっている。

差別化のチャンス、快適バスの未来

 ドリームスリーパーは非常に人気が高く、筆者(西山敏樹、都市工学者)が調査したところ、東京~奈良間の便は週末になるとしばしば満席になる。個室でできるだけ横になれる角度が、多くの利用者に好まれているからだ。

 では、「なぜ完全フラットな寝台式ではないのか」という点についてだが、寝台式にすると、急ブレーキや事故時に

「乗客がベッドから投げ出される危険性」

があるためだ。このため、警察庁も寝台式を乗車装置として認めてこなかった。

 フルフラット座席の導入は、利用者にとって大きなメリットをもたらすだろう。疲労を十分にとるためには、やはり完全フラットな座席が最適だという意見が多い。

 夜行高速バスを利用する人たちの多くは長時間の移動を強いられるため、快適性の向上が重要視されている。特に、寝心地のよいフルフラット座席は、睡眠の質を向上させ、長距離移動のストレスを軽減するため、多くの乗客が求めている。

 さらに、バス事業者にとっても、鉄道や航空と競合する市場で

「差別化を図るチャンス」

となる。快適性をアピールすることで、乗客数の増加や新たな利用層の獲得が期待できるようになる。また、車両メーカーにとっても、新しい座席設計や技術開発が求められ、関係産業全体の活性化につながる可能性がある。

筆者への反対意見

 一方で、フルフラット座席の導入にはいくつかの課題もある。安全性への懸念、コスト負担の増加、需要の限定性の三つが主な反対意見として挙げられる。

 安全性に関しては、ガイドラインが策定されているものの、実際に運用する際の安全性が確保されるかは不透明だ。特に、車両事故や急ブレーキの際に、フルフラット姿勢での衝撃吸収性能や脱出経路の確保に不安が残るとの指摘がある。

 コスト負担の増加については、フルフラット座席を装備した車両の開発や導入には高額な費用がかかると予想される。例えば、ドリームスリーパーのような先駆者でも、1台1億円以上の費用がかかっている。新たな車両の企画・開発にはさらに多額の費用が必要であり、このコストが最終的に運賃に反映されることで、価格競争力を失うリスクもある。

 需要の限定性に関しては、フルフラット座席は主に夜行バス利用者向けであり、すべての高速バスに必要というわけではない。一部の利用者に特化したサービスとなるため、運賃も高額になる可能性が高い。高速バスはもともと安価な移動手段として利用されているため、高級路線が果たして受け入れられるかが課題となる。

席導入への課題と展望

 今回のガイドライン設定と規制緩和の方向性は一歩前進といえる。しかし、フルフラット座席の導入を成功させるためには、段階的な導入、コスト対策と標準化、安全性の持続的モニタリングが重要な要素となる。

 段階的な導入については、初期段階で利用者が多い夜行高速バスの路線に限定し、需要の検証と課題の抽出を行うことが求められる。特に、長時間の乗車における快適性や疲労を医学的に評価し、得られたデータをもとに次のステップに進む必要がある。

 コスト対策と標準化に関しては、バス事業者と車両メーカーが共同で研究開発を進め、コストを抑える方法を模索する必要がある。また、政府の補助金や助成金の活用もひとつの選択肢だ。ビジネスや観光支援の観点から、フルフラット座席車の導入に対して社会的に行政が支援することも検討されるべきだ。標準化により、コスト低減を目指す策も有効だ。

 安全性の持続的モニタリングについては、座席ガイドラインの要件が運用で適切に守られているかを定期的に確認し、問題があれば迅速に対応できる仕組みを構築する必要がある。

 フルフラット座席の導入は、利用者の快適性を向上させるとともに、日本の高速バス業界に新たな可能性をもたらすだろう。しかし、安全性やコストの課題を慎重に解決しながら進めることが、持続可能な発展の鍵となる。

 最近では、

・宿泊費の高騰
・出張移動の夜行バスへの切り替え希望

が増えているものの、ブルートレインの客車代替を断念し、夜行列車自体の廃止が進んでいる。そうしたなかで、寝台の夜行高速バスには多くの期待が寄せられている。普及に向けて、ぜひ公的な支援が得られることを望む。

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