まもなく、F1中国GPの決勝レースが行なわれる。このレースを戦い抜くには、どんな戦略が最適なのだろうか?
この週末を通じて飛び交ったキーワードは、グレイニングだ。このグレニングは、タイヤの表面の温度がささくれたように摩耗してしまう現象。通常は、まだ理想的な温度までタイヤが温まっていない状況で、過度のストレスがかかった時に発生するもので、接地面のゴムが削り取られ、グリップが低下してしまうことになる。また、ささくれたようになることでタイヤの表面積が増え、タイヤが冷えやすくなってしまうこともある。そういう悪影響がたくさんあるため、できるだけ発生を抑えることが重要だ。
■”99%”の方が速い? マクラーレンのマシンが抱える問題とは何か「ノリスが100%を引き出そうとすると、少し躓いてしまう」
中国GPの舞台となる上海国際サーキットには、タイヤに負荷がかかる長いコーナーが複数存在する。そして、タイヤを冷やしてしまう長い直線も存在する。そういう状況により、特にフロントタイヤが酷使されるわけだ。
しかもサーキットの路面は再舗装されたばかり。普段はあまり使われていないコースであるため、路面にラバーが載っておらず、グレイニングの発生が激しくなったようだ。
一部のマシンは、グレイニングの発生が他のマシンよりも少ないが、マシン本来の特性だけではなく、セットアップにも大きく依存することになる。
スプリントで注目すべき犠牲者のひとりは、マクラーレンのランド・ノリスだ。チームがこの問題に対処するためのセットアップを見誤ったため、スプリントレースの序盤に特にフロントタイヤのグレイニングに苦しむことになった。レッドブルのマックス・フェルスタッペンも苦労し、マクラーレンのオスカー・ピアストリにオーバーテイクを許すことになった。
ただスプリントレースがあったおかげで、各チームは様々なデータを収集することができたはず。これを基に正しくセットアップを修正できたか……実に興味深いところだ。
”ダーティエア”を避けろ!
他のマシンの後……つまり乱れた気流(ダーティエア)の中を走ると、グレイニングを避けるのが難しくなる。ダウンフォースが失われると、タイヤが横滑りしてしまう可能性が高くなるからだ。これは、ノリスらが苦労した理由のひとつであり、フェラーリのルイス・ハミルトンが華麗な逃げ切りを決めた理由でもある。ハミルトンは常に先頭を走ったため、乱れた気流の中を走る必要がなかった。
「ロングランで改善の余地があるのは明らかだ。ランドのグレイニングはかなり大きく、スプリントではあまり改善できなかった。しかしオスカーは、もう少しうまく対処することができた」
マクラーレンのアンドレア・ステラ代表はそう語る。
「しかし、オスカーはダーティエアを受ける瞬間が少なかったことも事実で、これもここでは重要なことなんだ」
ピアストリは決勝レースをポールポジションからスタートする。つまり、良いスタートを決め、先頭をキープすることができれば、優勝に向けて大きな一歩を踏み出したということになるだろう。
またダーティエアの影響を低減するため、アンダーカット作戦を採ってくるマシンも少なくないはずだ。コース上でのポジションを落としたとしても、ピットでタイヤを変え、前に誰もいないところを走ることができれば、それは大きなメリットに繋がる可能性がある。
ピットストップは何回?
スプリントでタイヤのデグラデーションの傾向、そして各チームのペースを見ることができたため、決勝の展開を予想しやすい。しかし決勝ではピットストップが行なわれるため、前述のアンダーカットという”スパイス”が加わることになる。しかもデグラデーションが大きいレースの場合には、このアンダーカットが強力な武器になる場合も多い。
ピレリによれば、最適な戦略は2ストップである。各チームもこれを認識しているため、全20台がハードタイヤ2セットを新品のまま温存している。
「スプリントで収集したデータによると、左フロントタイヤのグレイニングはまだ大きい。19周でも、ミディアムの摩耗はかなり激しかった」
ピレリのモータースポーツ責任者であるマリオ・イゾラは語った。
「一部のチームでは限界に達していたため、ミディアム→ハード→ハードの2ストップ作戦になると考えている」
3ストップも理論的には可能だが、イゾラは路面のコンディションが改善傾向にあるため、グレイニングは決勝ではスプリントほど酷くはならないと考えている。
「正直に言うと、3ストップは無理だと思う」
そうイゾラは説明する。
「路面コンディションは改善し、グレイニングも少なくなるから、2ストップが十分に可能だろう。後方からスタートする場合、ハードでスタートして違うタイヤに履き替えるか、最後のスティントでミディアムタイヤを履くという選択肢もある。つまり、マシンが(燃料を使うことで)軽くなればグレイニングが少なくなり、もっと攻めることができる。ソフトタイヤは選択肢にはなりにくいだろう」
F1タイヤをうまく使う方法は、走り始めに無理をせずにじっくりと温めること……つまり、新しいタイヤを履いたとしても、1周目から猛烈にプッシュしてはならないということだ。ただ、ポジションを激しく争っている時には、言うほど簡単なことではない。ただイゾラは、ターン1~3の複合コーナーでフロントタイヤを使いすぎないようにすることが、スティント後半で利益をもたらす可能性があると指摘する。
「最初の2周は、特に左フロントタイヤを労わることが大事だと思う」
そうイゾラは説明する。
「このサーキットは、メインストレートの後に270度のターンがある。つまり左フロントタイヤがまだ適切な温度になっておらず、内圧も上がっていない時に、すぐにストレスがかかってしまうんだ。そこでグラニングが発生し始める可能性がある。これをマネジメントできれば、2ストップで走り切ることが可能だ」
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