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【ラリーウエポン5台揃い踏み】フォード・エスコート ツインカムからRSコスワースまで 前編

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【ラリーウエポン5台揃い踏み】フォード・エスコート ツインカムからRSコスワースまで 前編

自動車社会の形成を牽引したフォード

text:Greg Macleman(グレッグ・マクレマン)

【画像】ラリーウエポン フォード・エスコート初代から5代目まで 全51枚

photo:John Bradshaw(ジョン・ブラッドショー)

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)


手頃な価格と優れた性能のバランスを、当時のライバルモデルより上手にまとめていたのが、初代フォード・エスコート。速いフォードに魅せられたゲイリー・ボールが所有する5台を見ると、世代をまたいだ一貫性がよく分かる。

5世代に渡って、小さなフォードは多くのクルマ好きを惹きつけてきた。陽気な友人とのドライブでも、エキサイティングなラリーでも、安価な価格と優れた性能は多くのファンに身近な存在だった。少し前までは。

ところが近年は、高性能なエスコートの価格はうなぎ登り。古き良き時代を映すモデルとして、うっとり眺めるような存在になりつつある。昔はクリスマスツリーを積んで運んだり、風雪の朝に子供を学校まで送ったりしたものだ。

フォードは自動車社会の形成を牽引したブランドとして、揺るぎない評価を得てきた。裕福な人の特別な乗り物だったクルマを、中産階級の手にも届くものとして再発明した先駆者だ。1908年にモデルTを量産し、アメリカという国を一変させた。

その変化の波は、世界中へ広がった。英国でも、1911年からマンチェスターでモデルTのノックダウン生産が始まっている。

世界最大の自動車メーカーとなったフォードは、自動車産業という構造も構築。フォードA型とB型というモデルが続き、1933年には当時最も安価な4ドアサルーンとして、モデルYが発売されている。

モータースポーツでの活躍をPRにつなげる

自動車の普及とともに、大量に生産して安価に売るという手法は行き詰まっていく。フォードは、売り上げを伸ばす手段を模索する。その結果導かれたのが、モータースポーツの利用だ。

フォードは、モータースポーツに早い段階から取り組み、結果を残していた。1904年には、ランド・スピード・レコード、自動車の地上最速記録を残している。

欧州でフォードがモータースポーツの成功を掴んだのは、第二次大戦後。フォード・ゼファーがラリー・モンテカルロなどのイベントで強さを証明した。1959年には、英国サルーンカー選手権でも優勝している。

1960年代初頭、元新聞記者のウォルター・ヘイズがフォードのPRディレクターへ就任。モータースポーツでの活躍を、ショールームでの販売に結びつける展開を始める。

時期を同じくして、フォード・コルチナが発表。フォード製1498ccエンジンに、ロータス製ツインカム・ヘッドが載るという出会いにも恵まれた。ヘイズの提案により、新しいエンジンはコルチナへ搭載。優れた性能を獲得することになる。

レーシングドライバーのジム・クラークも開発に関わりつつ、コンペティション仕様のロードカー、ロータス・コルチナが誕生。その後、高性能モデルの開発に特化した部門、フォード・アドバンスド・ビークル・オペレーションズ(AVO)の成立へ展開していく。

AVOより先に姿を表したのが、今回の主役、初代フォード・エスコートだ。1968年1月のブリュッセル・モーターショーで発表され、1098ccか1297ccの4気筒ケント・ユニットが選べた。

ロータス製ツインカムを搭載

シンプルなメカニズムに安い価格。美しいコークボトル・スタイルが際立つ存在だった。ミニなどが前輪駆動だったのに対し、後輪駆動だったという点も特徴だろう。当初からモータースポーツが視野にあり、エスコート・ツインカムの開発が進めらた。

エスコート成功の立役者こそ、ケント・ユニットにかわって搭載された、1558ccのロータス製ツインカム。プロトタイプはコンペティション部門のマネージャー、ヘンリー・テイラーと、チーム監督のビル・ミードによって作られたようだ。

生産目標台数は1000台で、1968年の初めに1台目がラインオフ。ついに、エスコート伝説の幕が開ける。

ロータス・コルチナMk1とは異なり、エスコート・ツインカムは、エンジン以外が標準のエスコートと同じヘイルウッド工場で組み立てられた。しかし、エスコート・ツインカムの製造には1.5倍の生産時間が必要だった。

理由は、特別なエンジンを搭載する工程。大きなキャブレターのクリアランスを確保するために、エンジンは斜めにボディへ取り付けられている。

1558ccのロータス製ツインカムは、コルチナに載っていたものと大きくは違わない。バルブタイミングの変更やツインチョーク・ウェーバーキャブのおかげで、4.5psほどパワーアップを果たしていた。

2000Eと呼ばれる堅牢なトランスミッションを搭載するため、センタートンネルも拡大。13インチのホイールを納めるため、ボディ周りにも手が加えられている。

5万ポンドのレストアで完璧な状態

リア・サスペンションも、コルチナのものを採用。軽量で剛性の高いエスコートのボディに手を加えることで、都合よく収まった。

エスコート・ツインカムのインテリアは、標準では1300GTと同じ。3スポークのステアリングホイールに、サポート製の良いリクライニングシートが組まれた。

5台のエスコートをコレクションするゲイリー・ボールのツインカムは、より走りに特化したグレード。モータースポーツ用の改良が、工場で追加されている。

「クラブマン・ラリーカーでした。ロールケージが付いている理由です。このクルマにはツイン・ガソリンタンクも載っていて、とても珍しい。ホイールはマグネシウム製の13インチ・ミニライトです」。ボールが車内を指差しながら続ける。

「バケットシートに、彫りの深いスプリンガレックス社製のステアリングホイールも付いています。ハーネスも。新品を見つけて、取り付け直してあります」

ボールは1968年式ツインカムを、レストア途中の状態で20年前に購入。エスコートに詳しい職人によって、5万ポンドもの費用をかけてレストアしてあるという。今は、完璧なコンディションにある。

ヘッドライトは、オリジナルの長方形。1969年からは丸目に改められた。ボディに塗られたアーミン・ホワイトも、当時の色。「ツインカムらしく、とても気持ちよく走りますよ」。とボールがキーを筆者に渡しながら微笑む。テストコースでの試乗だ。

この続きは中編にて。

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