東京オートサロン2023(1/13-15に幕張メッセで開幕)の「BRIDE」ブースで発表された限定販売商品が瞬殺で完売し、各方面で話題になっている。グッドスマイルレーシングとコラボレーションした、初音ミクをあしらったセミバケットシート、22万円の高級商品だ。予約開始即日に限定数39脚が完売となった。『ブリッド株式会社』代表取締役の高瀬嶺生社長がベストカーWebだけに語ってくれた、それらの舞台裏話を御紹介したい。最後の最後には爆弾発言も……!!
写真・文/西尾タクト
瞬殺完売!!『初音ミク×BRIDE』セミバケットシート開発秘話と独占取材で判明したぶっちゃけ次企画発言!!
■ BRIDEが開拓しつづける「シートと隣り合わせ」の新しい分野
『BRIDE』(ブリッド株式会社/愛知県東海市)といえば今年で創立43年、モータースポーツにおけるシート国内シェアNo.1を誇る、自動車用スポーツシートの老舗だ。このBRIDEブランドがさまざまなジャンルに挑戦を続けていることをご存じだろうか。
ラリー、スーパー耐久、VITA、ドリフト、ジムカーナ、ダートトライアル、クラシックカーレース。e-SPORT大会公式のシートや、ドローンレースにもBRIDEの名が登場している。競技用として装着する痛車ユーザーも少なくない
レースやラリーをはじめ、ドリフトに国内Bライセンスモータースポーツ各種。そして日常用家具としての座椅子やスタジアムにおけるスポーツ選手専用シート。さらには今回話題の中心となる『痛車』チューニングの分野でも、多くのブランドファンを獲得してきているのだ。
今回紹介する『EUROSTER II レーシングミク 2022 Ver.モデル(以下:ミクシート)』は、東京オートサロン2023の開幕直前にさらりとプレスリリースが公表された。同社のSNSなどから話題に火がつき、初日(2023年1月13日)のメディアカンファレンスには『ベストカー』のような自動車専門媒体のほか、モータースポーツ専門誌、痛車専門メディア、eスポーツ系のメディアなどが同社ブースへ集まった。
昨今のBRIDEは、痛車の人気イベントである『痛車天国』にもブース出展していたり、それらイベントレポートもアニメやゲームのコアなファン向け動画として自社配信するなど、新しいファン獲得に注力している。
ストイックなモータースポーツ界では、今でもこうしたサブカル的な商品戦略への風当たりが強い。そんな界隈でもBRIDEの新しい立ち回りを応援する人々が多いのは、同社の高瀬嶺生社長が40年かけて築いてきた信頼の賜物だろう。
東京オートサロン2023でアンベールされた『EUROSTER II レーシングミク 2022 Ver.モデル』と、BRIDE代表の高瀬嶺生社長。仕事に厳しい高瀬氏もすでに「みっくみく♡」にされていてほっこり
■電脳の歌姫に「みっくみく」にされたBRIDEのシート職人
さていよいよ商品紹介を。
『初音ミク』といえば、日本国内はもちろん、海外でも多くの熱狂的ファンがいる電脳の歌姫。実は愛知県東海市にあるBRIDE本社の会議室には、かなり大きなサイズの初音ミク限定ドールが鎮座している。これは本企画が動き出す以前から、グッドスマイルレーシングとの関係でBRIDEへ「嫁入り」してきた娘なのだそう。
今回の「ミクシート」企画の発端となった関係者によると、このミクドールについて高瀬社長に「これは…?」と来歴を聞いた際、ほくほく顔で「かわいいでしょ♡」と言葉少なに応えたとのこと。この笑顔が、商品の企画書を出す一因だったとか。
そういう事情で上がってきた企画書を見て、痛車イベントへ自ら足を運んだ高瀬社長。質実剛健なBRIDEを一代で築いてきた高瀬社長は、「以前なら、このジャンルは僕たちが手を付ける場所じゃないと捨てていたでしょう」と話す。
しかし実際に自分で訪れた痛車イベントで、ファンのあまりの熱気と熱心さに心を打たれ、「BRIDEにとって新しいジャンルへの挑戦は明るい」と確信したそうだ。
視察のため、痛車イベント『DayDream』などへ手短に立ち寄っただけのつもりが、楽しくなって結局会場を2周ほどまわってファンの声を真面目にヒアリングしていた高瀬社長 [写真協力:湾さん/はかちぇセリカ]
「おもしろいことをやろう」と決まれば、さっそく「社内会議→ミクといえば谷口信輝選手→グッドスマイルレーシングへの接触」と動きも早かった。高瀬社長はSUPER GTの『グッドスマイルレーシング』ピットを訪れ、株式会社グッドスマイルカンパニー代表取締役社長の安藝貴範氏へ面会。
初音ミクのライセンスをもつクリプトン・フューチャー・メディア株式会社との関係を取り持ってもらうかたちで契約を締結。2022年の春に始動した企画は、夏すぎの時点で普通なら半年以上は掛かるハードルをいくつもクリアしたそうだ。
当初は懐疑的だった社内の面々も、ライセンスなどが次々とクリアされるにしたがい、職人として(鉄火場に火種を入れるように)やる気になっていったのは自然な流れ。モータースポーツにおけるスポーツシート国内装着率シェアNo.1メーカーであるBRIDEの、プロフェッショナルの仕事が「キャラクターの描かれたシート」へ融合していくのだった(開発のうえでは技術的な制約などで大きな苦労があったそうだが、それはまた本稿最後にお話しするとしよう)。
■「初音ミクを踏みつけるわけにはいかない!」デザインの苦悩
「ミクシート」には、2022シーズンの『RACING MIKU』、イラストレーターneco氏によるGOODSMILE RACINGの大きなフラッグをもつキービジュアルが採用された。スポーティさとともに、なびくフラッグの軌跡がドラクロワの『民衆を導く自由の女神』を髣髴とさせる力強さをもったデザインだ。
素体となった『BRIDE EUROSTER II』はコンフォートモデルのセミバケットシートで、バケットシート慣れしていないユーザーでもロングドライブで疲れない上位モデル。シートをしっかり背中から女神に守られている感じで、どこまでも走っていけそうな勇気を貰える。
メディアカンファレンスに登壇したSUPER GTドライバーの谷口信輝選手も、かつてはTEAM BRIDEで経験を積んだ卒業生。そしてグッドスマイルレーシングでは初音ミクとも長い付き合いの相棒だ
東京オートサロンのカンファレンスで、谷口信輝選手は「シートの座面(表面)にミクちゃんがいたら、背中で踏んじゃうことになるわけでしょ。ファンの皆さんからは見られてますから、そういうの全部!(「だから、このシートは背面にデザインされていてありがたい」という意味)」と、会場で笑いを誘った。
実際これは単なる笑い話で収まる話でもなく、座面にキャラクター画を印刷すると、当然(摩擦により)劣化も激しい。BRIDEとしては「正しく座ってもらうこと」で真価を発揮する商品なわけでもあり、何よりキャラクターへの愛として座面への配置デザインは早々に却下されたという。結果として「背中からドライバーとクルマを護ってもらうイメージ」で、シート背面への配置に落ち着いたそう。
またBRIDEの商品はクルマ専用というわけではない。同日発表された『SDGsコンセプト STREAMS』と同様、別売のキャスターに取り付けることで室内用のデスクチェアや座椅子としての使用も可能だ。
Youtube配信などでこのミクシートを使ってもらい、配信者が休憩の際にはクルっと椅子を回して「背中のミクちゃんに配信のアシスタントしてもらう」なんていうのも贅沢な演出かもしれないぞ。
■今後のBRIDEは、またミクやそれ以外の女神たちとのコラボもありえる?
時代のニーズにあわせて変化しつつも、変わらないBRIDEブランドが主軸としてそこにある。どんな馬鹿馬鹿しい提案でもまずは一度聞いて検討し、そして返答してくれるのが高瀬社長のスタイルだ。そんな高瀬社長に、最後にいくつか直接質問に答えてもらった。
Q:BRIDEラインナップのなかでも高額な22万円の「ミクシート」が、即日完売することは予想できていたのでしょうか?
A:実はですね、完売と聞いて本当にビックリしました。企業である以上、リスクを冒すことはできない。それもあり、ミクちゃんにあやかった39脚という少数限定販売だったのですが、いやはや、世界中で人気の電脳歌姫による影響力には改めて驚かされました。
Q:では企業としての話、ぶっちゃけBRIDEさんとしてはこの価格設定で儲けになっているのでしょうか。ライセンスや開発コストなど、ご苦労はあったかと思いますが。
A:ライセンスよりも物理的な開発に苦労がありました。necoさんのイラストを印刷機でプリントしてポン、という商品ではなく、BRIDEが認めている専用シートレザーに原画のイラストを正確な色合いで出さなければならない。この点、染料の調合や色の乗せ方で、かなり技術的な試行錯誤がありました。しかしその苦労や手間すらも、おつりがくるほどの知見と反響をいただけたと思っています。
Q:ここまで話題になり、会社としても成功と言える企画になったのであれば、今後また再販や新しいコラボ商品を展開していく可能性はあったりしますか?
A:キャラクターとのコラボは商品であって愛。でも愛であって我々の商売でもあるんです。木を見て森を見ない商売は慈善事業になってしまいます。でも森を伐採するためにキャラクターを利用するような仕事をしてはいけない。そうは言いつつも……、ええと、ここだけの話ですけれどね。まだすこし先にはなりますが、ファンの方から反響のあった『フルバケットシート』の新しい企画なんかも動き出していたりします。
最後の最後で、爆弾発言情報キター! というわけで。フルバケということは、競技ユース寄りで普段使いには向かない商品イメージもある。価格帯は…今回よりやや抑えめになるか、はたまたさらに高級感を増したものになるか…。新企画が今回と同様「39脚限定」になるのかは不明だが、今回のミクシート第一弾の価値も保ちつつ、どういう商品になっていくのか注目したい。変わり続けるBRIDEのプロジェクトセカイに注目。続報を乞うご期待!
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みんなのコメント
初期はバッタもんだったけど
今じゃ見違えるよな