トヨタの欧州部門が2022年12月5日に新型プリウスPHEVの欧州仕様車の詳細を発表し、欧州での新型プリウスはPHEVのみとなるようだ。このあたりは2Lハイブリッドがメインとなる国内市場とは明確に差を出している。このトヨタのグローバル戦略は果たしてどうなのか、国沢光宏氏が分析する。
文/国沢光宏、写真/ベストカー編集部、トヨタ
新型プリウスの欧州は上級モデルPHEVのみ! トヨタのグローバル戦略はこれでいいのか?
■ハイブリッド車の売れゆき好調な欧州市場だが……
新型プリウス(ハイブリッド車)プロトタイプと筆者。日本ではまだPHEVは発売されていない
新型プリウスを見た過激な環境団体『グリーンピース』は、これは売れると思ったのだろう。名指しで「プリウスのようなハイブリッド車は止めろ」と声明を出してきた。
自動車関連について数々のバッシングをしてきたグリーンピースながら、車種名を出して批判したケースなどない。グリーンピースのなかにクルマ好きがいて「カッコいいなぁ~」と思ったのかもしれない(笑)。
閑話休題。新型プリウスは発表と同時に世界中から高い評価を得ている。現時点で市販されたばかりのため、評価の内容は主としてデザイン。ただ、絶対的な動力性能や燃費を含め、クルマそのもののポテンシャルも従来型より明らかに高くなっており、納車が始まればさらに評価が高まっていくと思う。そんな新型プリウスながら、欧州市場ではPHEVしかラインナップしないという。
VWのディーゼル不正以降、欧州はディーゼル廃絶に動いている。ハイブリッドはディーゼルと同等のエネルギーコスト&熱効率を持つ。ディーゼルのアンチテーゼ(ディーゼルを否定した時の対案という意味)として有力。
かといってディーゼルをイッキに電気自動車へ切り換えようとしても、航続距離などの課題を抱えてしまう。燃料コストと航続距離を考えたらハイブリッドだ。
そんなことから欧州ではハイブリッドの売れゆきが伸びている。当然ながらプリウスもハイブリッドで勝負かと思いきや、前述のとおりPHEVだけ。なぜだろうか? 以下、私の推測など。
■新型プリウスはヒットモデルの3代目よりも絞った生産台数に設定
先代4代目プリウスの後期型モデル。前期型モデルのフロントデザインは後期型よりもかなりアグレッシブなものだった
ご存じのとおり、先代プリウスは世界的に不人気車となった。日本でもアメリカでも欧州でも販売台数を激しく落としてしまった。従来型プリウスのデザイン、世界中で評価されず。
そんなことから新型の生産規模を決める際、先代プリウスと同等の台数なら上々としたようだ。実際、世界規模で売れまくった3代目プリウスが発売された2009年時点は、ハイブリッド車ってほぼプリウスしかなかった。
2009年に登場した3代目プリウス。日本だけでなく、グローバルでの販売も大ヒットしたモデルだった。新型はこの3代目よりもかなり生産台数を絞っているという
今やトヨタだけでもたくさんのハイブリッドがある。欧州では電気自動車が普及し始めているし。したがってプリウスを出したところで、3代目プリウスほど売れないと考えたのだろう。
発売されたばかりの新型プリウスながら、早くも「売れすぎて納期が見えない!」という騒ぎになったのは生産可能台数を絞ったためだ。3代目プリウスのように年間50万台規模(日本だけで30万台を超えていた)を作れる環境にない。
■新型プリウスPHEVはスポーツモデル並みの加速を誇る!
欧州で発表された新型プリウスPHEV。日本国内では2023年3月に発売予定だ
したがって欧州市場についていえば台数を売ろうというより、新型プリウスを気に入ってくれたユーザーに売ろうと考えた。
加えてPHEVなら「ハイブリッド車=運転を楽しむクルマではない」というイメージを払拭できる。ギア比の関係により最高速こそ180km/hに留まるものの、エンジン+バッテリー出力を合わせたシステム出力は3000ccガソリン車並みの223ps! 0~100km/h加速6.7秒とスポーツモデル並みの加速性能を持たせた。それでいて実性能で50kmくらいなら電気だけで走れてしまう。
二酸化炭素排出力が少ないハイブリッド車を世界で最も多く販売していながら、トヨタはグリーンピースなどから激しく叩かれている。過激な環境団体の多くが電気自動車しか認めていないからだ。
PHEVであれば50kmまで事実上の電気自動車。ハイブリッド車の代名詞にもなっているプリウスが電気自動車としての機能を持っていればさまざまなアピールができると思う。
■太陽光発電パネルをルーフに搭載できるPHEVは画期的かつ魅力的!
新型プリウスPHEVのルーフは太陽光発電パネルの「ソーラーチャージングシステム」を搭載している
さらに! 新型プリウスPHEVは、屋根に太陽光発電パネルを搭載可能になっており、それだけで1年間1250km分を走行できる電力を生み出す。
車載の太陽光発電装置で搭載しているクルマを走らせるという機能を持たせたのって世界初。この機能はハイブリッド車だと採用できない。いろいろな意味で新型プリウスPHEVは、電気自動車推進派に対しエクスキューズできるのだった。
新型プリウスPHVの欧州価格はまだ発表されていないが、航続距離500km程度の電池搭載量を持つCセグ車(VWのID.4など)と同等の価格帯で出てきたら、欧州市場はけっこう混乱すると思う。
街中なら電気自動車として使え、ガソリンさえ入れれば走行距離無制限。さらにカッコよくて速いとくれば、電気自動車より魅力的だと思う人が多く出てくるに違いない。
エンジン車を廃絶したいグリーンピースが危惧するのは、よ~く理解できる。
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みんなのコメント
日本のベストカーには関係ない。
大きなお世話。