数字通りの性能と走ってわかる実力
執筆:James Disdale(ジェイムズ・ディスデイル)
撮影:Luc Lacey(リュク・レイシー)
では、せっかくのハイパフォーマンスを発揮させてみようか。ボルボをダイナミックモードに入れ、性能をフルに引き出すと、どちらのパワーソースが優勢かはっきりわかる。リアの電気モーターが弾けるようなスタートに寄与するいっぽうで、ツイン過給の2.0Lユニットが高らかに唸りを上げ、全力を絞り出す。0-100km/h加速は3台中で最速の4.6秒をマークする。ウェイトは2021kgと、プジョーの1850kgやBMWの1890kgを上回っているにもかかわらずだ。どれも重いのは、プラグインハイブリッドの宿命だ。
だが、トルクステアの破壊的な大きさには驚かされる。クルマが路面の上反りや盛り上がりに遭遇すると、ステアリングホイールがそちらのほうへ引っ張られるのだ。
BMWなら、そうした問題は皆無だ。293psを全開にしてもまっすぐ素直に進むが、これは優秀な4WDシステムによるもの。必要に応じた駆動トルクの分配を、易々とやってのけるのだ。
さらに、この3台の中でも力不足な印象はまったく感じさせない。これはパワートレインの協調がすばらしく、スロットル調整もみごとだから。おかげで、ドライバーの入力へ即座にレスポンスしてくれるのだ。340のネームバッジがついていてもおかしくない、とさえ思わせてくれる。
さらに、効率面でもっとも優れていたのも330eだ。試乗時間が限られていたので、望んだほど充電する機会を用意できなかったが、それでも燃費は14km/Lを大きく上回った。ほかの2台は、13km/L台といったところだ。この数字は、プラグイン充電できるチャンスが多いほど、さらに向上できるのは間違いない。
体感上の速さと快適さはプジョーが一番
いずれにしても、一番速く感じられるのはプジョーだ。とくに中回転域では、2基のモーターとエンジンが全力を発揮し、53.1kg-mのシステムトルクをフルに使える。しかし驚くべきは、発進加速時の静けさだ。エンジンサウンドの遮音性はほかの2台よりずっと上で、電子音で増幅されたよそよそしい唸りが響くスポーツモードを選んでいてさえそうなのだ。
BMWのパワーユニットのほうが、レスポンスも魅力も上で、8速ATも変速の歯切れのよさで及ばない。しかし、飛ばせばかなり力を発揮してくれる。
コーナリング時にもまた、驚きを覚えることになる。ダンパーをハードなセッティングにしていても、足回りはすばらしくなめらかで、いかにもフランス車らしい。
PSEのブレーンたちは、トレッドの12mm拡幅と車高ダウン、そしてスプリングの強化を実施した。それでもこのプジョー508は、路面をゴツゴツと伝えてくることがない。むしろ舗装に追従して、状況を逐一知らせながらも、感じ取る必要のない突き上げはうまく消している。
ステアリングはクイックで、ややインフォメーションは足りないが、ターンインでの食いつきは強力。しかし、激しく走らせ、コーナーへ飛び込むには、手際のいい、これ以上ないほど適切な入力が求められる。
このクルマのキモは巧妙な、すばらしく磨かれた減衰コントロールで、気分次第でゆったりでも俊敏にでも走れる。ちょっと前なら、プジョーのシャシーエンジニアが自ブランドのよさを見失ったように思えたが、このPSEモデルでその魔力を取り戻したようだ。
対照的にBMWは、ゴツゴツして鋭い、トラディッショナルなドライバーズカーらしいもので、路面をよりはっきり伝えてくる。その身が詰まったステアリングはプジョーと変わらずクイックだが、よりインフォメーションが多く、コーナリングも速く旋回したがり、このクルマに優れたアジリティをもたらす。
すぐに爽快感を味わえるのはプジョーよりもBMWのほうだが、その方向性は異なるものの、どちらも走り志向のドライバーを満足させてくれる。いずれも、ある程度まで増えたウェイトを感じさせないという点ではおみごと。ただし、急ハンドルや高速コーナリング中に心境が変わった場合には、リアに積んだバッテリーの重量に振られるのを感じる。
けっしていうことを聞かなくなるわけではないが、限界域ではちぐはぐな動きを見せることがある。それが少ないのはボルボで、バッテリーをホイールベース内の、センタートンネル部分に置いたことが効いている。
期待に応える速いプジョーの帰還
そうであっても、非常にわずかながら無感覚なところがあるボルボは、ダイナミックさでほかの2台に及ばない。運動性重視のダンパーは、ハードに走ると垂直方向の挙動をみごとに抑えてくれるが、軽いステアリングはスローでよそよそしく、アクションがダルくて曖昧だ。
このV60が走行性能もグリップも低いわけではないが、ライバルたちより走り方に深みがなく、こわばっている。攻めたときに、走らせ甲斐がほかの2台ほど感じられないのだ。
そんなわけで、ボルボには銅メダルを贈ることとするが、これはおそらく採点が厳しすぎるだろう。というのも、このV60はスタイリッシュで、乗り心地の不足を忘れれば贅沢な仕上がり。速くて実用的なファミリー向けワゴンとしては、十分に出来がいい。
5万2200ポンド(約731万円)という価格で、すばらしいダンパーとポールスターのノウハウを注ぎ込まれたことを考えれば、もっと多くを期待したかった。ところが、結局はダイナミクスの冴えに欠け、ソリッドさは目指しているレベルに達していなかった。
BMWとプジョーの金メダル争いは、甲乙つけがたい。3台中もっとも低い4万9685ポンド(約696万円)という価格や、魅力がわかりやすい3シリーズのほうが、トップにランキングするなら妥当だ。実際に走ってみると、スペック表以上に508PSEと競り合えるものがあり、プジョーの5万4000ポンド(約756万円)を上回る値付けでもおかしくない。
電動化が進む世界において、昔ながらのエンジン単体仕様とフィーリングがほとんど変わらない330eは、スマートな選択だ。とはいえ、エンジン車終焉のときとされる2030年まではまだもう少し間がある。燃費性能をシビアにみるのでなければ、価格的に有利なエンジン車のツーリングが魅力的であることに変わりはない。
508PSEはじつに魅力的なクルマだが、5万4000ポンド(約756万円)というプジョーの値付けはかなりキツいものがある。とはいえ、このPSEにはおもしろみが感じられ、とくにシャシーには抗しがたい魅力がある。完全無欠というわけではないが、個性の強いプラグインハイブリッドだ。
しかも、長く待たれた、心からほしくなる速いプジョーの復活でもある。みんな違ってみんないいのだが、今回の結論は「フランス万歳」としようではないか。
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