あまり世間には知られていないかも知れませんが先月電動キックボードの公道上の取り扱いについての特例措置が警察庁から全国の警察に通達され、都内や大阪など一部の地域でヘルメット着用なしでの電動キックボードの公道走行が認められるようになっています。
またその通達の中で、これまでの一般ドライバーの運転常識とやや異なるルール、例えば一方通行の道路でも自転車が入れるところであれば電動キックボードは逆走可能であることなども定められています。
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これまで「岩盤規制」の一つだった道路交通法上の規制が緩和され、ゼロエミッション化と高齢化が進む日本の社会でモビリティのカタチが進化していく可能性が実際に見えてきました。
一般ドライバーの側からも進化するモビリティを取り巻く新しい交通ルールを理解し、間違った理解で「あっ違反だ!」と思わないよう、今回の電動キックボードの公道上での特例措置とその意義について深堀りして見ていくことにします。
文/柳澤隆志
写真/柳澤隆志 Luup(トビラ写真)
著者・柳澤隆志 PROFILE:外資系証券会社に25年勤務、米系証券会社東京オフィスにて史上最年少で最上級の職位であるマネージングディレクターに昇格し市場・投資銀行業務に精通、現在経営アナリストとして独立。
社会人2年目で初代BMW Z3を購入、その後1996年式ポルシェ993カレラ4Sを21年間乗った後、新車同様のフェラーリ458イタリアが直近納車され、そのNAサウンドと切れ味鋭い走りを目下楽しんでいる。2018年式ヤマハYZF-R1も保有。
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電動キックボードに道路交通法上の特例措置が認められた
渋谷の駅近くのスポットに停まるLUUPの電動キックボード。ヘルメットなしで乗れるようになった今回の特例措置により活発な利用が予想される(筆者撮影)
2021年4月8日に警察庁交通局交通企画課長と交通規制課長の連名で「電動キックボードに係る産業競争力強化法に基づく特例措置」が警視庁交通部長と全国の警察本部長に通達された。
警察が産業競争力強化? とやや不思議に思うかもしれないが、過剰な規制をなくすことによって日本の企業の競争力を強化しようという経済政策の一環として、モビリティの新しい形の一つ、電動キックボードの普及のためにこれまでの道路交通法/道路交通法施行令(以下「道交法」)上での規制を緩和するためのものだ。
海外旅行に行った際、特に主要都市中心部への車の乗り入れ規制が厳しい欧州やアジアの一部で、電動キックボードに乗ってノーヘルでさっそうと移動する人を見たことがあるかもしれない。
それらの都市では交通渋滞や大気汚染の緩和のための政策として電動キックボードのシェアリングサービスが強力に推し進められている。これまで先進国のなかで電動キックボードが実質認められていないのは実は日本とイギリスだけだった。
従来、日本では電動キックボードは原動機付自転車扱いで、ナンバーをつけてヘルメットを着用しないと公道走行ができなかった。それだとシェアサイクル同様レンタルスポットを見つけてさっと借りて移動してさっと返す、という形で気軽に利用できない。
髪型を気にする人はヘルメット被りたくないからそもそも利用しないだろうし、ヘルメットをいつも持ち歩くのは非現実的だし、ヘルメットを他人と共有するのは心理的ハードルが高いからだ(自動車教習所で二輪免許実習を受けたことがある人は心当たりがあるだろう)。
そのためこれまでの道交法上での扱いのままだと電動キックボードの普及は難しく、今回の規制緩和によって新しいカタチでのモビリティとして普及実験がさらに進められることになったのだ。
ちなみに2020年10月から半年間、原付扱いでヘルメット着用義務ありでの公道(車道と自転車通行レーン)での普及実験の結果(総走行距離7000km)では、事故や法令違反の報告はゼロだったとのこと。
2020年10月より半年間実施された公道実証実験の最終結果報告(出典:マイクロモビリティ推進協議会)
車道を電動キックボードで走るカップルの姿を発見(筆者撮影)
一方通行も逆走可⁉ 規制緩和の具体的な内容
これまでは原付と同じ扱いになっていた電動キックボードだが、今回の特例措置では以下の新しい扱いが認められるようになった。
●運転時のヘルメット着用は任意
●普通自転車専用通行帯の走行を認める
●自転車道の走行を認める
●「一方通行、ただし自転車を除く」となっている道路で自転車同様に双方走行(いわゆる「逆走」)を認める
だから一方通行の道でヘルメット被っていない人が乗っている電動キックボードが「逆走」してきたとしても何の違反もしていない可能性が高い。新しいルールを知らないドライバーはちょっとぎょっとしてしまうかもしれない。
ただし、どの電動キックボードも公道をノーヘルで乗っていいわけではない。いわゆる「野良(のら)」電動キックボードは特例措置の対象にならない。
あくまでも「産業競争力強化法の規定に基づき認定を受けた4つの事業者から貸し渡されていて、規定された区域内の道路を通行している電動キックボード(特例電動キックボード)」のみが規制緩和の対象となる。つまり海外通販で買った電動キックボードに乗ってのノーヘルでの公道走行や、特例電動キックボードで千代田区を走るのはNGだということだ。
以下が電動キックボードの特例措置が認められた事業者と対象区域になる。
電動キックボードの特例措置が認められた事業と対象区域(出典:経済産業省 産業競争力強化法に基づく新事業活動計画より筆者作成)
この対象区域というのがややくせもの。例えば新宿区の飯田橋駅から港区の新橋駅に特例電動キックボードに乗っていくことはできるが、最短距離のルートだと皇居の周りを通ることになり、そこは千代田区で対象区域外。千代田区での公道走行は交通違反になる。
また厳密には対象区域内でも「交通の著しく頻繁な道路」は特例措置が適用されない。例えばLUUPのカバーしている地域では、国道20号線(甲州街道)、環七や国道246号線、新御堂筋などは特例措置が適用されない。もし、利用者が禁止道路に差し掛かると、アラートが鳴って知らせるようになっているという。
またこれまで道交法上原付扱いだったものが小型特殊自動車扱いとなった。原付だと最高速度は時速30kmと決められているが、特例電動キックボードの最高速度は時速15kmとなっている。
電動アシスト付き自転車で電動アシストが効く上限速度は時速24kmに達するまでと定められていることを考えると、時速15kmでしか車道を走れないのは周囲との相対速度差が大きくなることでやや危険が高まる部分もあるかもしれない。
そして原付では3車線以上の道路で原則義務付けられている二段階右折も、小型特殊自動車扱いである電動キックボードでは逆に禁止されている。
もう一つ、普通免許を持っている人は原付も小型特殊も運転できるので違いを意識したことがないかもしれないが、原付免許しか持っていない人は電動キックボードは運転できず、別途小型特殊免許の取得が必要となる。
忘れてしまった人も多いかと思うので念のため、どの免許で何が運転できるかを以下におさらいしておく。
原付免許だけでは小型特殊は運転できないので電動キックボードも運転できないって知ってましたか?運転免許の種類と運転できる自動車の種類(出典:道路交通法などより筆者調べ)
今回の特例措置では道交法上は「小型特殊自動車」だが道路運送車両法上は「原付」となっているため、LUUPの電動キックボードには原付用のナンバープレートが付いている(筆者撮影)
実際に電動キックボードに乗って渋谷駅まで行ってみた
ゴールデンウィーク中の食料品の買い出しに、筆者も初めてLUUPの電動キックボードを利用してみた。自宅から歩いて数分のところにLUUPのポートが3つあり、そのうちの1つに利用可能なキックボードがあるとアプリに表示されたので行ってみる。
これまで自転車シェアリングサービスは利用してきたので使い方はなんとなく分かっていた。LUUPのアプリを起動し、キックボードのハンドル上の二次元バーコードをスマホのカメラで読み取り、アプリで目的地のポートをセットしてキックボードを蹴り出しながらアクセルレバーを下げると動く、はず。
だが何度やってもモニターは暗いままでうんともすんとも言わない。仕方がないので諦めてアプリで「ライド中止」を押してみた。そうしたら突然電子音がしてキックボードのモニターが光る。どうやらBluetoothでのスマホとキックボード間での通信がうまく行っていなかったらしい。
ハンドルには自転車同様に左右にブレーキ、そして後方に合図するための方向指示器とホーン、右手の親指で押し下げるアクセルレバーがついている。
ハンドル右側にはバックミラーもついているが、あさっての方向を向いたままで見たい方向に固定ができない。あきらめて地面を足で蹴ってアクセルレバーを下げて加速し、脇道から車道へ。緑色の字のデジタルメーターは時速15km前後を示す。乗り心地はうちのムスメが持っているキックボードとあまり変わらない。
フル充電されたLUUPの電動キックボード。ハンドルに付けられている二次元バーコードをスマホのアプリで読み取って起動させる(筆者撮影)
目的地は渋谷駅。山手通りに出る信号で止まる。T字路になっている交差点は左折1車線、右折2車線の計3車線。右折したい私は二段階右折ができないため3車線のうちの中央の車線の左側で方向指示器をつけながら右折する。青信号で進行するものの、自分の周りのクルマと速度差があり過ぎて怖い。
クルマだといつもは山手通りを南下するのだが、交通量の多いところで時速15kmで走るのは怖いので早々に脇道に入り、住宅街の中を抜けて東急本店まで出て、渋谷の真ん中で車道を走っていると街を歩く人たちが振り返って私を見る。「今日俺もあれに乗ったよ」と連れの女性に話す声が聞こえてきたりして、注目度はかなり高かった。
渋谷駅マークシティ横のポートの枠内に電動キックボードを止め、その写真を撮ってアプリにアップロードするとレンタル終了。返却した途端に人が寄ってきてアプリをダウンロードして乗ろうとしていた。
目的地渋谷マークシティ横のポートに到着、枠内に停車したところをスマホで写真に撮りアプリにアップロードすると返却手続き完了(筆者撮影)
1.9kmの距離を12分で移動。いつもなら電車で2駅、歩くと20分強かかる距離をささっと移動できた。料金は初乗りが10分110円、以降1分16.5円。支払いは登録したクレジットカードから引き落とし。
今回は電動自転車シェアサービス利用者に配られた電動キックボード30分間無料チケットを使ったのでタダ。仮にクーポンを使わなければ200円以下で移動できたはずで、移動のコストは電車に乗るのと変わらずタクシーよりはかなり安い。また密になることを心配せずに移動できるのはありがたい。
ライド開始地点、終了地点、距離と所要時間がアプリで表示される(LUUPアプリより)
LUUPサービスサイトはこちら!
今回の規制緩和にはもっと大きな社会的意義がある:時速60kmと6kmの間のギャップを埋める新しいカタチのモビリティ
この規制緩和は実は日本の社会にとって非常に大きな意義があることだと筆者は考えている。短期的に見ると、コロナ禍で満員電車に乗って移動することを避けたい人に対して密にならずに安価で気軽に利用できる新たな移動手段が提供されることになる。
また終電を早める要請が自治体から発出される中で深夜もどうしても働かなければいけない人たちがいることを考えると、電動キックボードによる移動は公共交通機関やタクシー以外で安価にそれなりの距離を楽に移動したいニーズに対する一つの答えとなる。
長期的にも非常に大きな意義がある。都会での近距離移動をゼロエミッション化するという低炭素化社会の実現の観点に加え、地方を含む日本各地におけるクルマとそれ以外のモビリティの共存の新たな形が見えてくることにつながるからだ。
高齢者の運転するクルマによる交通事故の増加が社会問題化しているが、自動車以外の交通手段が限られる地方では移動手段が失われてしまうために高齢者の運転免許返納がなかなか進まない状況にある。
免許を持たない高齢者の移動手段として例えば「シニアカー」という電動カートがあるが、公道では最高速度は時速6kmに制限されている。これは電動車椅子と同じ扱いだ。
これまでクルマを運転してきた高齢者にとっては、最高速度時速60kmのクルマによる移動と最高速度時速6kmのシニアカーでの移動の利便性のギャップがあまりに大きすぎる。
高齢者が自分で運転しなくて済むようになる自動運転が広く普及するのには時間がかかることを考えると、その大きなギャップを埋める可能性のある新しいモビリティのカタチが実現することは、過疎化と高齢化が加速する地方での新たなカタチの移動手段(=生活手段)を確保するという点においてとても重要な意義があると考えられる。
病院などの必要不可欠な公共インフラは誰でもどこでも簡単に利用できるようになっていないと生活の質が担保されない。
地方の人口減少が進むと、コストの観点からは広い地域に分散されて多く存在する病院などの社会インフラを集約して一つの大きな施設で広い地域の住民にサービスを提供する必要が出てくるが、クルマを運転できず自力で遠くの施設まで移動する手段が限られる高齢者の生活の質を守るためには簡単には集約化を進められない。
そのため、働く世代が支払う多額の税金を投入して多数の利用者の少ない小規模な社会インフラを維持していかなければならない、となってしまうかもしれない。
つまり幅広い年齢層の人が安全にそれなりの距離をそれなりのスピードで移動できる手段をどう確保するのか考えていくことは、高齢者だけではなく我々にとっても避けては通れない重要な課題なのだ。
また一般のクルマのドライバーの行動も電動キックボードが普及することで変わるかもしれない。これまでクルマにちょい乗りして家からやや離れたところで用事を済ます時は、駐車場の有無を確認する必要があったり商業施設の駐車場などの入場待ちで時間を浪費したりしてストレスを感じることがあった。
電動キックボードが普及してポートの数が増え、手軽に家の近くのポートで電動キックボードを借りて目的地近くで返却できるようになれば、クルマで出かけて都心のコインパーキングにありがちな「15分400円」のような駐車料金の心配をする必要もなくなる。
また電動キックボードの料金は2km走っても100円から200円ぐらいでタクシーより圧倒的に安いので、都心のクルマの交通量は減って混雑は緩和するかもしれない。
またエコロジーに対する意識が高まる中で、大した荷物もないのに近場に出かけるのであれば一人だけでクルマに乗って化石燃料を燃やして出かけるのはカッコ悪く、クリーンな電源で発電された電気で充電されたゼロエミッションの電動キックボードに乗った方がクールだ、というような意識変革も進むかもしれない。
これらの意味で今回の規制緩和はクルマと共存できる利便性の高い新たなモビリティの実現への足掛かりとなる可能性や一般のドライバーの行動変革につながる可能性があり、単純に電動キックボードが公道でヘルメットなしに乗れるようになったという点以外にも実は長期的に見て大きな社会的意義のあるものだと筆者は考えている。
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みんなのコメント
あとヘルメットの装着する意味って自分を守る事と相手を守る事も有るって事。
髪型が崩れるとか言ってる人は乗る資格無し。
車からしたら百害あって一利なし。
あれにもナンバー付けて法整備をしっかりして欲しいです。 無茶苦茶な事をする御老人がいるので。