2017年、日本国内の新車販売台数でナンバー1となったホンダN-BOXシリーズは、軽自動車の新車販売では3年連続首位に輝いている。そんな大人気モデルに新しく設定された福祉車両も、2018年4月の登場以来大きな注目を集めている。今回はその実力を、全方位的にチェックしてみようと思う。
車いすで乗車される方に「快適である」ことは当然のこと、介護する方にも「我慢してほしくない」。そんな思いで開発された福祉車両が、ホンダ N-BOX、N-BOXカスタムのスロープ仕様車だ。開発当初から「スロープ仕様」を想定してデザインされたというだけあって、日常使い(4人乗車)、介護(車いす乗車)のどちらにも簡単に素早く対応できるのが魅力だ。
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試乗したのはN-BOXカスタム Gのスロープ仕様。標準車同様のボディカラーやオプション装備が選べるのはうれしい。
研ぎ澄まされた使い勝手 まずは車いすで乗り込んでみて、実際の使い勝手をたしかめてみた。
N-BOXスロープ仕様車最大の注目点はラゲッジルームのフラットな床板、引き出せばそのままスロープになるという新開発の「スーパーフレックススロープ」だ。扱いやすさの改善を目指し、先代の「N-BOX+の車いす仕様車」と、比べ、スロープを約4.5kg軽量化し、単体でおよそ2.5kgという驚きの軽さを実現している。腕力に自信のない人でも、簡単に扱うことができる。
そして「4人乗車モード」から「車いす乗車モード」への切り換え手順が大幅に簡略化されたことが見事だ。なんと、これまでの「半分以下」の手順で完了するのだ。実際に行ってみると、レバーなど各部品の精度が高く、直感的に操作できるなど切り換えの簡単さを実感できる。車いす乗車をする方はもちろん、介護者の負担も少なくしようとする開発陣の意気込みが伝わってくる。
「4人乗車モード」から「車いす乗車モード」への切り替えヒモを引き上げ、後席シートを前に倒す(左上)→ スムーズに折り畳まれる。平らで広々としたフロアとなる(右上)→フロアのパーテーションボードを取り外す。ここに車いすの前輪が入る(左下)→ ボードを前席背面のポケットへ収納する(右下)。
ストラップを引いて、床となっていたスロープを引き上げる(左上)→ スロープは片手で軽々と展開することができる(右上)→ スロープの幅は640mm、傾斜角度は13度。突出長は1365mmとコンパクトに収まっている。狭い住宅街などでも気後れすることなく展開できるだろう。
手すりはロックを解除して回転させる(左上)→ 180度回転するとロックされてスタンバイOKとなる(右上)→ 車いすの固定ベルトをワンタッチでフロアに装着する。乗車モードの切り替えは一度操作手順を確認すると、展開の流れと操作系の配置が自然であるため、迷うことなく行える。また、工程の少なさに加え、すべてのアクションの「軽さ」がとりわけ印象に残った。シートやスロープといった大きなものでも、少ない力で確実に展開できるのは気持ちがいい。
車いすでの乗り込み ラゲッジドアを開けて左側に電動ウインチの操作ボタンがある。この「主電源」をONにすると、リモコンでの操作が可能となる。ただし、ベルトを伸ばすときには、「ベルトフリー」ボタンを長押しする。また、ウインチの巻き取り速度を変更することもできる。
車両の準備が整ったら、いよいよ乗り込み。最初に、伸ばしてきたベルトのフックを車いすのフレームに引っ掛ける。
ウインチ操作用のリモコンは、車いすを押しながら操作ができるように、押し手に取り付けられるタイプとなっている。
電動ウインチで車いすを引き上げる。ウインチの巻き上げは力強い。
引き上げが完了したら、車いすをベルトでフロアに固定する。車いすを固定するのにウインチで引っ張るタイプもあるが、フックを車いすのフレームに掛けてベルトを引っ張るこのタイプも手軽で確実に固定できる。
車いす乗車をする場合は、タテになったスロープの両側をフックで固定する。
車いす乗車の方のシートベルトを装着すると出発準備完了。フロアから伸ばす2本のベルトは、腰と上半身をそれぞれ支えるセパレートタイプとなる。ベルトの着脱は、車いす乗車の方の左右、もしくは後方からサポートする。
モーターを高出力化し、ベルトのたるみや噛み込みを防止した電動ウインチは、車いすが推奨の固定位置に近づくと自動で減速するなどの細かな制御を行い、安心感を高めている。また、抵抗を感知すると安全のためにウインチが自動停止。センサーはなかなか敏感なので、乗車や降車の際には、車いすのタイヤがスロープ両端のガードに接触することがないよう、介助の方は押してに手を添えながらスロープの中央を移動するよう心がけたい。
すべての乗員にもたらされる快適性 車いす乗車モードへの切り換えの簡単さに加えて、N-BOX、N-BOXカスタムのスロープ仕様車が誇る居住性の高さ、乗り心地のよさは特筆すべきものだ。
後席のシートフレームが専用設計され、畳み方を工夫することでシートを収納したときの高さが低く抑えられている。そのため、車いすの座面は極力自然な高さに保たれ、車窓からの眺めも楽しめる。また、頭上まわりのスペースにも余裕があり、身長180cmの男性が車いす乗車をしても天井に頭がつかなかった。視点が高く中央のため、前方もよく見えるなど視界が広く快適だ。ただ、バックミラーからの後方視界は塞がれてしまうので、ドライバーにとっては注意が必要となる。
「メカは小さく、人のための空間は大きく」という考えのもと、電動ウインチが大幅に小型化され、前席下に設置されている。はみ出すこともなく、車いす乗車の方の足元スペースは非常に広々としている。大柄な男性が足を前に投げ出すことができ、長めのドライブでも疲れにくいと感じられた。
新しいN-BOXは、後席の乗り心地にこだわり、リヤの足まわりを柔らかくセッティングしたというが、その効果は車いす仕様車でも十分に体感できた。小さな段差や道路の継ぎ目を乗り越えるときのマイルドな感触は心地よい。昨今、軽自動車のスロープ仕様車が高い人気だが、そのなかにあってトップレベルの快適性といえるだろう。走行中も車内は静かで、車いす乗車の方と前席の方との会話もストレスを感じないレベルだ。
試乗したのはNAエンジン車だったが、40~50km/hまでの加速は力強く、市街地でのパフォーマンスは秀逸だった。上り坂での加速や高速走行などは若干パワーが足りない印象もあったが、普段使いでは申し分ない。しかし、山道や高速道路を日常的に走るのであれば、ターボ搭載モデルを検討するのもいいだろう。
自然吸気のi-VTECエンジンは、低速での力強さが印象的で走りも快適。静粛性が高く、「27.0km/L」と燃費にも優れる。またアイドリングも静かで、早朝の住宅街などで乗り降りする際も周囲に気を使わなくて済む。乗り降りに通常よりも時間がかかるスロープ車にとっては、大きなポイントだ。
先進のセーフティ技術もフルスペック 新しいN-BOXの福祉車両は、安全装備に関しても標準車と変わらない。先進の安全運転支援システム「Honda SENSING」は、8つの基本機能に加えて、後方誤発進抑制機能とオートハイビームが追加される充実ぶりで、全タイプに標準装備される。乗るひとすべてが、大きな安心感とともに移動することができる。今回の試乗でも、アダプティブ・クルーズ・コントロールや標識認識機能などの有効性を確認することができた。
・衝突軽減ブレーキ<CMBS>
・誤発進抑制機能
・ACC<アダプティブ・クルーズ・コントロール>
・LKAS<車線維持支援システム>
・先行車発進お知らせ機能
・歩行者事故低減ステアリング
・路外逸脱抑制機能
・標識認識機能
・後方誤発進抑制機能
・オートハイビーム
ステアリング操作に対し、必要に応じてブレーキを制御してスムーズなコーナリングを支援する「アジャイルハンドリングアシスト」が、車高の高さを感じさせない安定感のある走りを実現する。車いす乗車の快適性に大きく関わる、最新テクノロジーが積極的に投入されている。 広い室内スペースにレベルの高い走行性能と快適性、そこに抜群の使い勝手のよさを併せ持つN-BOX、N-BOXカスタムのスロープ仕様。実際に試乗してみた印象は、開発陣の思い入れが丁寧な作り込みで表現されている福祉車両だということ。標準車が「軽自動車の枠を超えた」と形容されることの多いN-BOXだが、このスロープ仕様でもその作り込みのレベルの高さを存分に見せてくれている。
【価格】ホンダ N-BOX G・スロープ Honda SENSING(CVT) 157万5640円~169万6640円
ホンダ N-BOX G・スロープL Honda SENSING(CVT) 168万9040円~181万40円
ホンダ N-BOX G・スロープL ターボ Honda SENSING(CVT) 188万5600円~200万6600円
ホンダ N-BOXカスタム G・スロープL Honda SENSING(CVT) 188万8840円~200万9840円
ホンダ N-BOXカスタム G・スロープL ターボ Honda SENSING(CVT) 214万3800円~227万4480円
※消費税は非課税。
【試乗車データ】ホンダ N-BOXカスタム G・スロープL Honda SENSING(CVT)の主要装備
・Honda SENSING
・スーパーフレックススロープ
・車いす専用装備(電動ウインチ、電動ウインチ用リモコン&カバー、車いす乗員用手すり、車いす乗員用3点式ELRシートベルト)
・充電用USBジャック(急速充電対応タイプ2個付)
・ロールサンシェード(スライドドア両側)
・LEDフォグライト+クロームメッキフォグライトガーニッシュ
・8スピーカー
・14インチアルミホイール
・Gathersナビゲーションシステム
・フロアカーペットマット(プレミアム)
・ハンズフリースライドドア
・ドライブレコーダー
【車いすデータ】MiKi BAL-1
重量 12.9kg
耐重量 100kg
全長 980mm(折り畳み時同様)
高さ 865mm(折り畳み時同様)
幅 640mm(折り畳み時335mm)
シート幅 400mm
シート奥行 400mm
背もたれ高 380mm
タイヤサイズ 前輪6インチ/20インチ
今回使用した車いすは、低座面、折り畳み式の自走型車いす。フレームはアルミ製で、タイヤはハイポリマー製のノーパンクタイプ。介助ブレーキが付いたスタンダードタイプとなる。
ホンダN-BOX福祉車両の進化を体感する!はBelieve - ビリーヴ ジャパンで公開された投稿です。
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