いまも次期型の開発が日本自動車界の大きなニュースとなる日産スカイライン。1957年に初代が登場して以来、半世紀を超えて活躍しており、令和になった現代でも根強いファンを抱えている。
そんな長いスカイライン歴代モデルのなかでも屈指の人気を誇るのが、1989年に登場した(8代目)R32スカイライン。
価格差約40万円!? 「ノート」と「ノートオーラ」は何がどれだけ違うのか?
なぜR32スカイラインは今も多くの人に愛されているのか? そしてどんな文脈でこのモデルは登場したのか。デビュー当時を知る古参自動車評論家に解説していただいた。
文/片岡英明
写真/NISSAN
【画像ギャラリー】日産スカイライン 栄光の歴史を40枚の写真で振り返る!!
■60年以上名が受け継がれるスカイライン
スカイラインの原点ともいえる初代プリンススカイライン(1957年)
日本を代表するスポーツセダンであるスカイラインの(次期型の)去就が新聞や雑誌で伝えられるようになり、ファンはヤキモキしている。
スカイラインは日産ブランドの中核をなすセダンの1台だ。始祖を辿れば、プリンス自動車の出身だから、日産の本家筋じゃない。
だが、歴代スカイラインは爆発的に売れ、日産のイメージを代表するモデルとなり、純日産ブランドのセダンであったブルーバードやサニーの存在を霞ませてしまった。
1970年代には日産を代表するスポーツセダンとしてのポジションを確立し、その実力は高く評価されている。
そうした背景もあって、ちょっとでも販売が落ち込んだり、ファンの期待に届いていないとニュースになった。マスコミやファンが一喜一憂するほど、スカイラインの動向は注目されているということなのだろう。
歴代スカイラインには名車が多い。
その筆頭が「ハコスカ」のニックネームで愛され、GT-Rも登場させた3代目のC10系である。が、登場したのは1968年だから、すでに50年以上前の話だ。現役時代の走りや武勇伝を知っている人は少ない。ハコスカが昭和の時代のスカイラインのヒーローとすれば、平成の時代のヒーローは1989年に誕生した8代目のR32系スカイラインだろう。
そのデビューは衝撃的だった。それだけじゃない。登場から30年以上になるが、今でも魅力的だ。その名声は、日本だけにとどまらない。世界中に熱い心のファンがいる。
「ハコスカ」ことC10系スカイラインは1969年2月に発売。1970年のマイナーチェンジでは2ドアハードトップ仕様車が追加された(写真は1970年に登場した2000GT-R)
■BMWやポルシェに匹敵する性能のスカイラインが求められた
1987年8月、限定800台で生産されたR31型スカイラインGTS-R
スカイラインGTS-Rに搭載されるRB20DET-R型エンジンは最高出力210psの2L 直6DOHC
1985年夏に登場した7代目のR31系スカイラインは、今になると悪いクルマじゃなかったと思う。R30と呼ばれる6代目と乗り比べるとハンドリング性能は大きく進化していた。メカニズムを一新したことによって操舵フィールはシャープになっていたし、コントロールできる領域も大きく広がっている。
新設計のRB20系直列6気筒DOHCは、デビュー時こそ熟成不足と感じたが、後期のエンジンは見違えるほどよくなっていた。が、トヨタのハイソカーを意識しすぎて媚びたことがファンの逆鱗に触れ、低い評価となってしまったのである。
だが、日産の首脳陣は危機感を抱いたのだろう。7thスカイラインを発売した直後に8代目の開発プロジェクトをスタートさせ、次は世界一のスポーツセダンを造る、という意気込みで開発に取りかかったのだ。
R31系スカイラインの開発を最後に任され、マスコミからケチョンチョンにけなされた開発主管の伊藤修令さんは、誰よりも走りの質を高めることにこだわったはずである。だから量産車の枠を超えて徹底的にやった。それまでの流れをゼロに戻し、新たな評価基準を作って徹底的にやったことが稀代の名車を生み出したのである。
基準車ですら、性能目標の仮想ライバルは当時の最高レベルを突っ走るメルセデスベンツ190E2.3-16とBMWのM3、そしてポルシェ944ターボだった。
驚くほど志が高いから、目標達成は簡単ではなかった。
だが、バブル景気と「1990年までに走りの性能世界一」をめざした社内の啓蒙活動、「901活動」が、このモデルの目標達成を大きく後押ししたのである。
冴えた走りを支えるサスペンションやエンジンだけでなく、シートや操作系なども高いレベルに引き上げようと努力した。これらの技術革新と開発陣の情熱が、R32系スカイラインを名車へと導いた。
■史上最強のR32系スカイラインが誕生!
R32系スカイラインGTS-tタイムM。RB20DET型2L、直6ターボエンジンは215psとGT-Rには及ばないものの十分な性能を発揮する
1989年5月、R32系スカイラインは正式発表された。
2ドアスポーツクーペと4ドアセダンを設定したが、ボディサイズは先代よりコンパクト化されている。5月に発売されたのは、後輪駆動の5ナンバー車だ。アテーサE-TSを採用したスカイライン初の4WDモデル、GTS-4とGT-Rの存在も明かされたが、両車の発売は8月21日となっている。
ファンを魅了したことの一つは、ウエッジシェイプに柔らかい面質のキュートなルックスだ。躍動感あふれ、4ドアセダンでもバランス感覚は絶妙だった。
全幅を小型車枠に収めているが、強い存在感を放っている。
1990年代に世界一の操縦性能を実現することを目指した901運動の成果として誕生したR32型スカイライン。RB26DETT型エンジンの最高出力は280ps/36.0kgm
2ドアクーペをベースに開発されたGT-Rはフェンダーを膨らませ、リアはブリスターフェンダーでボリュームを増して全幅を1755mmに広げた。フロントマスクはグリルレスではなく2本スリットの専用デザインだし、バンパーもGT-R専用だ。こちらもオーラを漂わせている。
パワーユニットは直列4気筒SOHCもあるが、主役は直列6気筒だ。スカイラインらしいのは、もちろん、DOHC4バルブと世界初のハイフローセラミック/ボールベアリングターボである。性能的にも2Lエンジンとしては世界トップレベルにあった。
組み合わされる5速MTは2速ギアと3速ギアをダブルコーンシンクロとしたから気持ちよくシフトできるし、電子制御4速のE-ATも高効率だ。
GT-Rの心臓は、もう一つ上の次元にある。グループAレースを制するために排気量を2.6LとしたRB26DETT型直列6気筒DOHCはレースでの使用を想定してシリンダーブロックなどを補強し、ラッシュアジャスターも省いた。6連スロットルチャンバーや各気筒独立のシーケンシャル電子制御燃料噴射システムなど、最新の技術を盛り込み、セラミックタービン採用のツインターボとしている。当時としては世界最強レベルのパフォーマンスだ。
■現在も全く色あせない珠玉の名車
1992年全日本ツーリングカー選手権にて。R32型GT-Rはモータースポーツの世界で数多くの功績を残した
サスペンションも革新的だった。前後ともマルチリンクとし、主力のリアサスペンションには位相反転制御のスーパーHICASとスタビライザーを採用し、気持ちいいハンドリングを実現している。
ステアリングも、新設計のツインオリフィス式電子制御パワーステアリングだ。リヤLSDはビスカスカップリング式で、ほとんどグレードに4輪ディスクブレーキをおごった。GTS-4とGT-Rは後輪駆動をベースに、前後輪への駆動トルク配分を電子制御によって最適に配分する4WDのアテーサE-TSを採用する。
GT-Rを中心に走りの性能を徹底して追求し、その仕上げとしてドイツのニュルブルクリンク・サーキットのオールドコースに試作車を持ち込んだ。ここでシャシーやボディ、サスペンションなどを練り上げたのである。
だからワインディングだけでなく、サーキットでも優れたトラクション性能を発揮し、コントローラブルだった。
レベルの違う異次元のハンドリングは、走りにこだわるファンにとっても新鮮と映ったのだろう。また、GT-Rの血を引くから4気筒モデルでも絶大な安心感が得られた。
革新のメカニズムと原点回帰で新たな神話を築き、スカイラインの魅力とすごさを再確認させたのが、8代目のR32系スカイラインだ。目標値が驚くほど高かったから長年にわたってライバルを寄せ付けなかった。直球勝負で挑んだから、今も魅力は色あせていない。それゆえ、今も多くの人に愛されているのだろう。開発陣の顔が見える珠玉の名車である。
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みんなのコメント
衝突安全性とかエアバッグ内臓ステアリングとかが出てくる前だったから、それによってデザインが邪魔されることもなかった