2008年、世界的にマイクロコンパクトカーが注目を集める中、3月のジュネーブオートサロンでトヨタからiQ(アイキュー)がデビューして話題となった。そして、10月には日本でも正式発表となるが、その前に北海道・士別のテストコースで日本仕様のプロトタイプ試乗会も行われている。正式発表直前のプロトタイプはどんな評価を受けていたのか、どんな魅力があったのか。ここではその士別のテストコースでの試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年9月号より)
iQ誕生の背景にコンパクトカーの価値拡大の狙い
実にいいタイミングで出てくるものだと感心させられる。早ければいいというものではないし、遅くては話にならない。ちょうどいい今この時期に登場したトヨタiQは、いやでも世間の注目を集める。もちろんそれは「歓迎ムードで」ということになるが、ある一面では厳しい評価を受けるかも知れない。
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それは早い話が「売れるか、売れないか」ということだ。本当に今の時代にぴったり嵌っている商品ならば、よく売れるはずだ。ふだんはクルマそのものについての興味が先行して、「売れる、売れない」については関心が持ちにくいのだが、このiQについてはこれが凄く気になる。日本のクルマ市場の一端が、その結果で見えてくると思うからだ。
しかし、トヨタはそんなことは気にしていないようだ。ふだんは人一倍「売れるか、売れないか」にこだわるメーカーなのに、このiQに限ってはそういうレベルでは見ていないようなのだ。iQを手がけた中嶋裕樹チーフエンジニアは言う。「たくさんのコンパクトカーがありますが、それは形が違うだけです。iQではコンパクトカーの価値軸を広げたいのです」と。販売成績にこだわるのではなく、「小さくてもプレミアムなものが受け入れられるかどうか、国内で検証していきたい」と言う。
そもそもiQ誕生の背景には欧州市場の事情がある。2012年から義務化されるCO2総量規制への対応策という側面だ。どうしても燃費のよい魅力的なモデルが必要なのだ。実際、iQは年産10万台体制で立ち上がるが、その7割は欧州向け、3割が日本向けと予定されている。北米をはじめ他の地域では販売されない。欧州が「主」で日本は「従」となる。
というわけで、日本では「検証する」という位置づけでよいのだ。と言うか、検証することに大いなる価値を見出しているということだ。
最小回転半径は3.9mと軽自動車より小回りが利く
さて、士別試験場で試乗したiQプロトタイプの印象をお伝えする。
まずスタイリングだが、全長は3mを切る2985mmと軽自動車より410mmほど短いが、全幅はヴィッツと同レベルの1680mmもある。実際、正面から見るとそれなりに大きい。その造形からしてヴィッツより「立派」に見えるほどだ。
この全長と全幅の比率がiQの大きな特徴といえる。極力オーバーハングを短くし、タイヤは四隅に配置されている。そのため、構造的にはデフをエンジンより前方に置くなどの方策がとられている。
短いながらも幅があることで、キャビンはそれなりに広い。助手席の前、通常グローブボックスがあるあたりがえぐれているので、かなり前へシートをスライドさせることができる。すると左のリアシートは足元に余裕ができ、身長180cmくらいの人でも問題なく座ることができる。運転席の後も小学校低学年の子供なら十分に座れる。
乗車定員が4名であることは、2名のsmartに対する大きなアドバンテージだ。ただ、smartは、iQよりさらにひと回り小さい。イメージとしてこの2車は似ているが、クラスは違うと考えた方がよいだろう。
iQが凄いのは、そのsmartよりも最小回転半径が小さいところだ。smartが4.2mであるのに対し、iQは3.9mなのだ。この30cmの差は大きい。車庫入れなどを想定した特設コースでiQの取り回しの良さを試したが、それは驚くべきものだった。
感覚的には曲がるというより、その場で回転しているようだった。軽自動車でも最小回転半径は4mを越えるので、iQは幅があるが、現代のクルマが未踏の路地へ入ることができるかも知れない。
インパネまわりのデザインはかなり個性的だ。シルバー塗装のセンタークラスターは、海中を舞うマンタ(エイの一種)をイメージしたものだという。他の部分も貝殻や波など、自然界の造形をモチーフにしてデザインされている。また、メーターパネル付近は滑らかな曲線で構成された左右非対称の造形だ。スイッチ類は、ひとつに多くの機能を集約するという考え方で構成されている。
キャビンのパッケージングも斬新だが、インパネまわりのデザインも負けていない。よく思い切ったものだ。
安全装備ではSRSエアバッグに数々の工夫が凝らされている。運転席にはニーエアバッグが装着されているが、助手席にはシートクッションエアバッグが付いている。助手席は前ギリギリにスライドされているという前提で、シート座面の前部を持ち上げることによって、身体が前方へ移動するのを防ごうというものだ。サイドエアバッグは大型で、また後突への対応として、リアウインドウカーテンシールドエアバッグが装備されている。これらはもちろん、全車標準装備となる。
ホイールベースの短さを感じさせない確かな走り
エンジンは1Lガソリンと1.4Lディーゼルターボの2種がある。日本へは1Lガソリン+CVTが導入されるが、欧州にはこれに加えて1Lガソリン+5速MTと1.4Lディーゼルターボ+6速MTが用意される。
試乗したのは日本導入予定の仕様。ハンドルを握って前方を見ると、当たり前だが前しか見えないので、特別に全長の短いクルマに乗っている気がしない。5ナンバーサイズのクルマと同じように横幅があり安心感がある。
走り出しても、そうした印象に変化はない。まっすぐはよくても、コーナリングではホイールベースの短さを感じるだろうと思っていたが、そんなこともない。ごくごくふつうによく走るのだ。リアタイヤの接地感も十分だ。
低中速域はいいが高速域での直進安定性はどうかと思い、テストコースの直線部分で120km/hほどまでスピードを上げたが、それでも何ら不満はなかった。試乗後、実験部のエンジニアに聞いたのだが、比較する同クラスのクルマがなかったので、ベンチマークにはヴィッツを使ったとのこと。そして、様々な部分でヴィッツを上回ることができたという。実感どおりの話だった。
もちろん、気になるところもある。伝達効率優先でコンパクトカーにはCVTが採用されることが多い。日本仕様のiQもそうなのだが、これが本来持つこのクルマの良さをスポイルしている面があると思うのだ。
今回の試乗は発表前のプロトタイプということで、スペックも明らかになっていないのだが、消息筋によると欧州で販売される1.4Lディーゼルターボは、最大トルクが1Lガソリンの2倍以上あり、日本仕様と違うセッティングの足まわりと6速MTとの組み合わせで、かなり活発に走るとのことだ。また、アウトバーンを150km/hで楽々と巡航できるとも聞く。確かに1Lガソリン仕様車に乗っても、そうした片鱗は感じられる。ならば片鱗ではなく日本でもそれを味わいたいと思うのは自然だろう。
ユーロ5には対応できても、日本へ導入するとなれば、さらに高いハードルであるポスト新長期の排出ガス規制に対応しなくてはならない。課題はあるが、そもそもiQ日本導入の意義は「小さくてもプレミアムなものが受け入れられるかどうかの検証」にあるということだ。ならば今回は大いなるチャンスだと思う。
さて、iQは10月初めに開幕するパリオートサロンで欧州デビューとなり、その後、日本で発表されることになる。中嶋チーフエンジニアによれば「iQは初めから手の内を全部出すのではなく、徐々に出します」とのこと。おそらく1.3Lの新しいガソリンエンジンとMTの組み合わせも用意しているだろう。また、新たな仕様を追加するだけでなく、売り方にも様々な趣向を凝らしていくようだ。この「新しい乗り物」の販売動向には大いに注目していきたい。(文:Motor Magazine編集部 荒川雅之)
トヨタiQ プロトタイプ 主要諸元
●全長×全幅×全高:2985×1680×1500mm
●ホイールベース:2000mm
●トレッド前:1475mm
●トレッド後:1460mm
●最小回転半径:3.9m
●室内長:1560mm
●室内幅:1515mm
●室内高:1145mm
●乗車定員:4名
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みんなのコメント
助手席シートを前方にスライドして後席に180cmの人が乗れる??
その状態では助手席には子供しか乗れないです。
実用的な使い方では
前席大人2人 後席は荷物スペース
いかんせん荷室はアタッシュケース位の幅のものしか積めないので。
チョットしたスペースあれば駐車できるところが良い。
もっとマイクロカーとしては
スズキのツインがあった。