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フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第5回】ラインナップの刷新と技術革新

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フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第5回】ラインナップの刷新と技術革新

新時代を創り上げたF355

text:Shinichi Ekko(越湖信一)

モンテゼモーロ、フェラーリを去る

photo: Ferrari S.p.A.1994年にはピニンファリーナとの複雑な力関係の中で、モンテゼーモロは量産を狙う8気筒カテゴリーで商品力を高めたF355をアンベールした。シャシー等基本構造は348系を踏襲するが、縦置きに搭載されたエンジンは新開発の5バルブ3495cc、最大出力380ps、最大トルク36.7kg-mを発揮するF129型であった。

フィアットが作ったフェラーリとも評された少々軽快感に欠ける348系を、シャープな魅力を持ったモデルへと仕立て上げることに成功したといえる。コンパクトでエッジの効いたスタイリング、官能的なエグゾーストノートなど、まさにフェラーリファンが求めていた要素を備えた1台だった。

2ペダルの追加で「誰にでも乗れるフェラーリ」へ

1995年からはエアバックを装着し安全性を高め、フルオープンになるスパイダーが追加される。さらに1997年には6速マニュアルトランスミッションに加えて、2ペダルでセミ・オートマティックの「F1マティック」が追加設定され、誰にでも乗れるフェラーリとして新たな客層を獲得することに成功する。

モンテゼーモロの手が入った355系、550マラネッロと、順調にラインナップの刷新は進んでいった。一時期2000台レベルまで落ち込んでいた年間生産台数も1990年後半には3000台を超え、改革は順調に進んでいるかのように思われた。

商品のクオリティが改善されたのは間違いないが、まだ個体によるバラツキは見られた。フェラーリにとって何よりも重要なエンジン自体の耐久性などに関しても改善の余地はあり、スポーツモデルの要ともいえるシャシーは古い基本設計のモデルを使い回しているという状態であった。

フェラーリの未来を決めた408 4RM

ところで408 4RMというモデルをご存知であろうか? このミッドマウント8気筒AWDのコンセプトモデルは、1987年にフェラーリの先行開発部門ともいえるフェラーリ・エンジニアリングが製作したもの。そしてその指揮を執ったのがスクーデリア・フェラーリから異動となったマウロ・フォルギエーリであった。

このコンセプトモデルには多くのユニークな特徴を持つが、注目すべきはアルミの押し出し成型材を用いたスペースフレームの採用であった。天才エンジニアは当時のフェラーリロードカーの進む道を憂いていた。348tb/tsではフィアットのモノコックボディ製造のノウハウを応用して新たなアーキテクチャを開発したものの、軽量化やボディ剛性の確保という点で決して期待した結果を生み出していなかったからだ。

アルミ製シャシー量産技術の導入

フォルギエーリが指摘したポイントは、また違った視点からのモノであった。つまりモノコックボディを製造しようとすると、高くてコストが掛かる専用の金型を製作しなくてはならない。これは大量生産には向いているが、フェラーリのような少量生産メーカーにとっては大きな財務上の負担となる。代々コンペティションモデル流のクルマ作りに従ってきたフェラーリにとって、必ずしもふさわしいものではないというのが彼の指摘だったのだ。

モンテゼーモロもこのフォルギエーリの示唆を充分に理解し、旧態依然としたスティールシャシーからの脱却へ手を付けることになった。フェラーリの製造拠点であるスカリエッティ・ファクトリーにアルミ製シャシー製造技術を導入することが決断された。

そこにはアルコア社の技術が投入され、マラネッロR&Dセンターとの連携でアルミ製スペースフレームの量産が可能となった。さらには社内R&Dセンターがスタイリング開発もリードし、ピニンファリーナ任せであったプロセスは大きな変化を遂げた。

F355後継モデルである360モデナは、モンテゼーモロ主導による製品力アップに向けた改革の集大成となった。アルミ押し出し成型材を主とした軽量かつ高剛性のスペースフレームが新設計され、スカリエッティ・ファクトリーの製造ラインが稼働をはじめた。スタイリング開発ではフェラーリのスタッフがプロセスをコントロールし、モンテゼーモロ本人もしばしばモデリングを行っていたトリノのピニンファリーナを訪問した。

最後にリデザインされた360モデナ

360モデナのスタイリング開発最終段階ではひとつの事件があったようだ。当時、モンテゼーモロはフェラーリのロードカーにおけるキャビンの快適性を改善すべく、大いにこだわっていた。今までのように大柄な顧客が、狭い室内を我慢しながらでもフェラーリを楽しんでくれるという時代ではなくなったと判断したのだ。

1990年にデビューしたホンダ NSXは日本においては妥協した設計と揶揄される節もあったが、世界のハイパフォーマンスカー業界ではまさに「NSXショック」到来であった。当時ラグジュアリー・スポーツカーで、ここまでドライバー及びパッセンジャーの快適性を求めるという考え方は皆無であって、各ブランドはこぞってNSXを新しいトレンドとして研究を重ねた。

この360モデナもその点において強く影響を受けていたといっても過言ではない。話を戻そう。モンテゼーモロは360モデナに充分な室内高と幅を確保することを要件として出していたのだが、ピニンファリーナのデザイナーたちはプロポーションにこだわり、車高だけは低く抑えたまま開発は進めていたのだ。

最終モデリングが完成しようとしていた頃、例によって専用ヘリで飛んできたモンテゼーモロはその判断に激怒したという。360モデナに関してはジウジアーロからも提案を受けていたから、ピニンファリーナへの発注をキャンセルするとほのめかしたことは想像に難くない。モンテゼーモロは基本的なアーキテクチャが既に決定した後の段階ではあったが、車高を50mm高く設計し直すよう、強い指示を出したのだった。

当時、ピニンファリーナ開発センターのトップであったロレンツォ・ラマチョッティは、ピニンファリーナとしてのこだわりを捨てなくてはならないことを理解した。スタイリング確定のタイムリミットを過ぎていることを考慮し、かなり大胆なソリューションを実行した。

そう、普通ならゼロからスタイリングをやり直すレベルの変更なのだが、彼は50mmほどベルトライン(サイドウィンドー下端のライン)から下に厚みを加えたというのだ。確かにこの変更により、360モデナのスタイリングからシャープさが失われているという玄人筋の意見もある意味で正しいかもしれない。

しかし、北米を中心に広いキャビンの使い勝手がよいスポーティなクーペとして高い人気を博し、歴代8気筒モデルの中でも大ヒット作となったのだ。

モンテゼーモロはそのぐらいプロダクトの詳細に関与し、ピニンファリーナへ臆すことなく指示を出した。これは彼が口先だけでなく、本気でフェラーリの改革に取り組んでいたことを証明するエピソードであろう。

続きは2024年5月18日(土)公開予定の「【第6回】フェラーリの「改善」とマセラティの「再建」にて。

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