今年で25周年を迎える自動車イベント「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」は、ロンドンからクルマで1時間半ほどの位置にあるウェストサセックス州チチェスター近郊のグッドウッドにて、毎年7月に開催される。今や全世界で、絶大なネームバリューを誇る一大自動車イベントだ。
その人気の高まりにつれて、新車発表の格好のステージにもなりつつあるが、この壮大極まるイベントの何たるかは、注目の新車発表リポートに接するだけでは知ることができない。今年7月12~15日に開催された「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」を訪ね、4日間を費やしてすべての場所を歩き回る機会に恵まれた筆者が、このイベントから受けた深い感銘とともに全体像をレポートする。
ジャガーXKの70周年とマルティーニ・ストライプの乱舞──グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードから
日本では「マーチ卿」の名で知られる第11代リッチモンド公爵チャールズ・ゴードン=レノックス氏は、グッドウッドに広がる12000エーカーの広大な私有地を代々受け継ぐ貴族だ。
また、毎年9月にグッドウッドで行われるもうひとつの超人気イベント「グッドウッド・リバイバル」(ヒストリックマシンによるレースイベント)の舞台「グッドウッド・サーキット」を建設した祖父の第9代リッチモンド公爵から、自動車愛好家としてのスピリットも引き継いだとされている。
そんなマーチ卿が、もともとはクラシックカー仲間たちと愉しむためのイベントとして、自らの私有地で1993年にスタートしたのが「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」だ。
そんな彼は、もとより自動車業界/レース界に強固なコネクションを有していたことと抜群のビジネスセンスによって、あっという間に「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」を巨大イベントへと育て上げた。ここ数年は4日間の期日で延べ20万人前後のギャラリーを集め、世界トップクラスの自動車のお祭りとも言われているのだ。
現在の「フェスティバル・オブ・スピード」の主軸をなす走行イベントは、カントリーハウス周辺の庭園や牧草地を抜ける細い私道を、1台ずつタイムアタックする「ヒルクライム」と、小高い丘を登った先の森に特設されたダート(一部舗装)コースを走る「フォレスト・ラリー」だ。
とくにラリーイベントでは、1950年代の長閑なラリーカーから現代のWRCマシンまで、もうもうたる土煙を挙げて激走する姿が間近で見られる。今年は、イギリス人が愛してやまない英国フォード・エスコートの「ラリー参戦50周年」だったので歴代のエスコートが大挙して出走したほか、パドックではスバルに栄冠をもたらしたドライバーとして日本でも人気の高かった故コリン・マクレー選手および故リチャード・バーンズ選手のメモリアルコーナーも設けられた。
とはいえ、やはりグッドウッドの「華」と言えばヒルクライムだろう。今年も旧くは1900年代初頭の「エドワーディアン」時代に作られた10000cc超のレーシングカーから、第2次大戦前/戦後、2000年代のF1に至るグランプリマシン、ル・マン24時間に代表される耐久レースを闘ったレーシングスポーツカーやGTマシン、1950年代から現代のTCRマシンに至るツーリングカー、そして創成期から現代に至る2輪GPマシンなど、古今東西あらゆるジャンルのレーシングマシンたちがタイムアタックをおこなった。
また、このイベントをサポートする各ブランドの最新スーパーカーやコンセプトカーのためのカテゴリーも設けられ、今年はポルシェ911スピードスターやトヨタA90スープラ、ニッサンGT-R 50th byイタルデザインなど話題のニューモデルやコンセプトカーがワールドプレミアに供される舞台となった。
さらに今年はポルシェの創立70周年や、英国のレーシングカー専門コンストラクター「ローラ」の60周年などを記念した特別走行枠も設けられたことも、特筆に値すべきことだろう。
「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」のヒルクライムは、時代や生産国、あるいは2輪/4輪を問わず、自動車の過去、現在、未来が一堂に会する世界的にも稀有なイベントであるのだ。
「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」でも、とりわけヒルクライムはコースサイドから、おもわず身動きできなくなってしまうほどに魅力的だ。また、ヒルクライムのコースイン直前にマシンとドライバーを集める「コレクション」スペースにおいて、往年あるいは現役の名レーシングドライバーたちのリラックスした姿を見ることも、このイベントの重要な楽しみのひとつである。
とはいえ、このイベントを可能な限りくまなく楽しみ尽くそうとするならば、積極的にほかのアトラクションに足を運ぶ必要もあるだろう。
あまりに広大なイベント会場ゆえに、どこが中心地か定め難い。一応はメインステージとも言うべき古城(グッドウッドハウス)前の広場がそれにあたるのだろう。そこに足を運ぶと、まず目に飛び込んでくるのは巨大なモニュメントだ。毎年、メインフィーチャーされるブランドをモチーフにしたオブジェが製作されるのが慣習になっている。今年は創立70周年のポルシェが、高さ約52メートルにもなる塔の最上部に、歴代のレーシングモデル(おそらくは1/1スケールモデル?)を載せた巨大タワーを建設した。
その傍らに広がるのは、イベント出展者である各自動車メーカーやパーツサプライヤー、スペシャルショップにチューナーなどが、自社の歴史と未来を提示するために展開するモーターショー並みの大規模ブースだ。そのなかのひとつ、マクラーレンのブースでは新型車「600LT」のワールドプレミアがおこなわれた。
また、ジャガーやランドローバー、今年のフィーチャーブランドのポルシェなどは、隣接した専用コースでの同乗体験アトラクションを設けていたのも印象的だった。
くわえて、25周年企画として今年は特別に、各世代のスーパーカー展示や、カルティエとの共同開催によるクラシックカー・ショーがおこなわれた。さらに上空を見上げれば、4機の編隊によるアクロバット飛行までおこなわれるなど、のべ20万人にも及ぶという大観衆が楽しむことのできるアトラクションが、まさしく息をもつかせぬ勢いで次から次へと繰り広げられるのだ。
筆者はこれまで約20年間に亘り、イタリアをはじめ、ヨーロッパ各国でおこなわれるクラシックカーイベントを数多く訪ねる機会に恵まれてきた。しかし「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」のごとくエクストリームなイベントは、ほかでは決して見ることはできないと断じても良い。
今回、開催期間の4日間すべてに参加したものの、あまりに壮大なイベントゆえに、そのすべてを見尽くせたか否かについては自信がない。それほどの大規模イベントに育った「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」は、単なるクラシックカーイベントに留まることなく、誰もが興奮と感動を覚える「ショー」としての要素を多数盛り込んでいるのが大きな特徴なのだ。
ここで見られるのは、まさに白日夢のごとくゴージャスな「自動車絵巻」である。日本からはだいぶ離れた場所でのイベントではあるが、興味のある向きはぜひ参加してほしいと思う。
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