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【中野信治のF1分析/第4戦】逆境でも輝くルクレールのキレたドライビング。背水の陣で挑み続けるペレスの覚悟

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【中野信治のF1分析/第4戦】逆境でも輝くルクレールのキレたドライビング。背水の陣で挑み続けるペレスの覚悟

 新たなスプリント・フォーマットでの開催となった2023年F1第4戦アゼルバイジャンGP。ストリートコースを得意とするセルジオ・ペレス(レッドブル)がスプリントと決勝をともに制し、また決勝ではシャルル・ルクレールとフェラーリが今季初表彰台を獲得しました。前戦オーストラリアGPに続き2戦連続入賞を果たした角田裕毅(アルファタウリ)の戦いの模様とともに、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

【角田裕毅F1第4戦分析】リスタート後は接触せず、順位も落とさない走り。引かずアグレッシブに戦い入賞をつかむ

  今回のアゼルバイジャンGPよりスプリント・フォーマットが変更され、各チームはレースウイークの戦い方を変えることを強いられました。当然、レースに向けた準備を進めるフリー走行の時間が少なくなるので、燃料を満タンにしたときのクルマのバランスや、タイヤのデグラデーション(性能劣化)状況などを、しっかりとは確認できないまま決勝に挑まなければならず、各チームのエンジニア陣は頭を悩ませたと思います。

 レースウイークのフォーマットが変わったことで、これまで以上にサーキットに来るまでの事前準備が重要になったと思います。これはみんな同じ条件ですが、今回は特に変更の決定が急(フリー走行まであと3日と迫る4月25日に承認)だったので、みんな手探りの部分も多かったとは思います。

 ちなみに、スプリントのグリッドを決めるスプリント・シュートアウトでSQ1、SQ2は新品ミディアム、SQ3は新品ソフト、と使用できるタイヤが決められていたという点は、選択の余地がないとも言えますが、逆に言えばドライバーやチームにとって集中できるということでもあるので、その点で頭を悩ませることはなかったと思います。

 F1側がこの新しいフォーマットを導入した理由はバトルを促進するだけではなく、戦略やシミュレーションの選択肢を狭めることでトップチームの優位性をできるだけ減らしたいという考えに基づいていると私は考えています。そういう観点からすればこの新しいスプリント・フォーマットは私的にはアリだと思います。

 そんなアゼルバイジャンGPでは、ようやくルクレールとフェラーリが今季初表彰台となる3位を獲得しました。全セッションにわたって、ルクレールは今のフェラーリの持つポテンシャルを100パーセント出し切っているなというのが見て取れました。それはチームメイトのカルロス・サインツとの差を見れば明らかです。

 ストップ&ゴーのレイアウトで長いストレートの多いバクー市街地コースに、フェラーリの2023年型マシン『SF-23』はマッチしていたとは思います。でも、そのなかでポテンシャルを余すことなく引き出していたのはルクレールの能力だと思います。予選でポールを獲得した一発のタイムの出し方もそうですし、タイヤのマネジメントに関しても「よくやってのけたな」と思うと同時に、「やはりこのドライバーはすごいな」と感じさせられる一戦でした。

 もしかしたらルクレール自身にとってもバクーは得意なコースなのかもしれません。ストップ&ゴーレイアウトで直角コーナーが多く、コーナリングの旋回時間が短いサーキットだとルクレールの走らせ方がより活きてくると感じます。わかりやすく言えば、『キレれた走り』です。

 クルマの向きを変えてから、アクセルを踏むにしてもその動作が異様に早い。それもクルマをコントロールする、というより、とにかくクルマの向きを変えて、アクセルを踏みたいという走らせ方です。なので、直角コーナーが連続するバクーでは、そのルクレールの持ち味が存分に活きたのだと思います。

 それに対し、サインツはクルマをコントロールするタイプの走らせ方です。アクセルコントロールひとつとっても非常に丁寧で、綺麗にクルマを曲げていくタイプのドライバーなので、バクーのようなサーキットだとその持ち味が出にくいのかなと思います。あと、あくまで想像ですが、サインツは今季まだあまりいい流れに乗れていないという意識、精神状態で、それがアゼルバイジャンGPでのドライビングに少しばかりの影響を与えたかもしれません。

 一方、今回もレッドブルが決勝でワンツーとなりました。ただ、今回はセーフティカー(SC)導入も絡んだピットタイミングの違いにより、ペレスがマックス・フェルスタッペンの前に出ると、そのままトップを譲ることなくチェッカーを受けました。もし、あのSCがなければどんなレース、どんな結果だったのかも気になるところです。

 レースペースはペレスに分があったと思いますので、たとえSCがなかったとしてもペレスが勝っていたかもしれないです。でも、一方のフェルスタッペンもSC導入がなければ、ペレスを抑え切ることはできたとは思います。それほど僅差の戦いでした。今回のSC導入は、ペレスにとってのラッキーだったとは思いますが、SC云々を差し置いてもペレスの走りは素晴らしかったとは思います。

 4戦を終えて、2勝2敗。ペレスはときにフェルスタッペンと互角、もしくはそれ以上の走りを見せることもあります。それをフェルスタッペンはプレッシャーには感じていないかもしれません。でも、いらだちに似た感情を抱いていてもおかしくはないと思います。2度の王者フェルスタッペンは自分が一番でいなければならないと自分自身を信じているはず。その自分が、同じクルマに乗るチームメイトに負けることはありえない話だからです。フェルスタッペンにとっては、SCがあったとはいえ、最後までペレスを追い詰めるまでには至らなかったという精神的なダメージは大きいと思います。

 逆にペレス(今年で33歳)にとっては、今年がF1王者になる最後のチャンスだという思いでシーズンに挑んでいると思います。幸い、ペレスのドライビングに合ったクルマに乗ることができている。そんな状況はレース人生においてもそうはないと思います。だからこそ、そのチャンスを逃したくはないでしょうし、その王者獲得に挑む気持ちが今回の走りにも出ていたと思います。

 そして、アゼルバイジャンでは(角田)裕毅が2戦連続のポイント獲得を果たしました。やはり「F1を理解できてくるのは3年目から」だと思いましたね。この言葉は私がF1参戦初年度(1997年)で苦しんでいるときにチームメイト(編注:当時F1参戦4年目だったオリビエ・パニス)に言われた言葉です。

 1年目や2年目でも自分ではF1をわかっている気になっているのですけど、でも見えていない部分がF1にはたくさんある。それを感覚的に理解した時間の使い方や言葉の選び方、F1というサーカスの中で自分自身をどのように振る舞えば求める結果につながるのかをようやく理解できるのが3年目だと思います。それを今まさに裕毅が体現しているところだと思いますね。

 それはもちろん、本人の努力があってこそですが、元々裕毅の持っていた速さやタイヤマネジメントのうまさが、ようやくかたちになり始めているなと思います。アゼルバイジャンGPの週末の進め方も本当に見事だと思います。我慢すべきところは我慢して、勝負どころではきっちりと勝負をする。戦いに無駄がなかったですよね。

 スプリント・シュートアウトのSQ3で指定されている新品ソフトタイヤを予選Q2に投入し、裕毅は今季初のQ3進出を決めました。これも、決勝でポイントを取りに行んだと“やるべきこと”を明確にし、裕毅だけではなくチームも一体になって戦っているからこそだと思います。だからこそ、すべてがいい方向に進んでいくと。

 逆に、チームメイトのニック・デ・フリースにとってはそれがプレッシャーになっているのかもしれませんね。デ・フリースも自分のパフォーマンスを引き出そうと努力しているはずですが、そのなかで焦りも見せます。シーズン前半に裕毅がやるべきことのひとつに、デ・フリースという強力なチームメイトでありライバルに対し、どう戦うべきかを示すということ、というのがあったと思います。ですが、もう裕毅はやるべきことを、結果という目にみえるかたちで示していると思います。


中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿の副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
SNS:https://twitter.com/shinjinakano24

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