基本概念の解説から始まった「アウトランダーPHEV」のPR
2012年の年末、三菱自動車が初代「アウトランダーPHEV」を発表したときのことを、筆者(工藤貴宏)は今でも覚えています。
【画像】「えっ!…」見た目はほぼ同じでも中身は別物! これが進化した三菱「アウトランダーPHEV」です(30枚以上)
PHEV(プラグインハイブリッド車)は当時の同社にとって初の試みだっただけでなく、世の中的にも極めて珍しい存在でした。何しろ、当時販売されていたPHEVといえば、世界を見回してもトヨタ「プリウスPHV」やシボレー「ボルト」、BYD「F3DM」くらいしか存在していませんでしたからね。
そのため三菱自動車の広報部は、まずメディアに対し、「PHEVとは何か?」と基本的な概念を説明するところからPRをスタート。システム、メリット、そして短所まで、まさにPHEVの基礎から念入りに解説したのです。
当時は自動車メディアでは、PHEVの概念を理解している人は少数派。「わざわざ重いバッテリーを積むなんて非効率では?」という声も挙がったほどでした。今では信じられない話です。
あれから約12年。今でこそPHEVは珍しい存在ではなくなりましたが、これほどまでにPHEVが一般化したのは、当時、三菱を始めとするパイオニアが存在していたからだと思います。
PHEVは基本的に、エンジンとモーターを組み合わせたHEV(ハイブリッド車)を基本としています。
しかし、普通のHEVと異なるのは、駆動用バッテリーが大型化されていることと、そのバッテリーに外部からケーブルをつなぎ、充電できる点。
ちなみに、充電に使うケーブルの先端にはプラグが備わり、それをクルマに接続するから“プラグイン”と呼ばれるわけです。
HEVに対するPHEVのアドバンテージは、エンジンが停止した状態で走れる距離が長いこと。最新のPHEVは、100km程度走れるモデルが一般的になっています。
自宅などで充電すればガソリンよりエネルギーコストが安く、また、EV(電気自動車)と同じく静かで快適な走行フィールも魅力的です。
もちろん、HEVと比べれば劣る面もあります。それは、外部充電をしなければ宝の持ち腐れであること。エンジンで発電するとHEVよりも燃費が悪いのです。また、HEVより価格が高いことも欠点といえるでしょう。
●“BEVっぽさを求める人のためのPHEV
というわけで、話を「アウトランダーPHEV」に戻しましょう。
そのパワートレインは、モーター駆動が中心。バッテリーが十分に充電されていれば、エンジンを始動させずにモーターだけで走り、バッテリー残量が減ってきたり登り坂など負荷が大きかったりするシーンでは、エンジンを始動させて発電し、その電気を使って走行します。
また、高速道路を走行しているときなどは、効率を高めるべく、エンジンの駆動力をモーターを介すことなくそのままタイヤへと伝えることもあります。
そんな「アウトランダーPHEV」の走行感覚は、なんとも独特。きわめてBEVっぽい、エンジンの存在を感じさせない走行感覚なのです。
……と書くと、「エンジンを止めてモーターだけで走っているシーンでは当然でしょ?」と思う人がいるかもしれません。しかし、このクルマで注目すべきポイントは、エンジンがかかっていてもそれを乗員に感じさせることなく、あたかもBEVに乗っているかのような感覚にさせてしまうことです。
まず、「アウトランダーPHEV」はエンジンが始動したかどうかがよく分かりません。それくらい、エンジン始動に起因する音と振動がしっかりと遮断されているのです。
その上、モーター駆動によるなめらかさや反応のよさをエンジン始動時も感じられるので、結果的に乗り味はBEVのようなフィーリングになるのです。先進的で未来っぽい味つけですね。
世の中のPHEVはどれもそんな走行感覚なのかといえば、そうではありません。
対極にあるのは、日本車だとマツダのPHEV。「CX-60」や「CX-80」のPHEVはエンジンでの駆動を基本としたワンモーター式ハイブリッドで、エンジンを止めた状態で走る「EVモード」時を除けば、モーターアシストが入った状態でも全くモーター感を感じさせることのないフィーリングなのです。
その分、大排気量エンジンを操っている感があり、「CX-60」や「CX-80」のそれは2.5リッターの直列4気筒自然吸気エンジンを搭載していますが、体感的には4リッターV8エンジンのクルマをドライブしているような感覚を味わえます。
マツダのそれが“エンジンのフィーリングが好きな人向けのPHEV”だとしたら、「アウトランダーPHEV」は“BEVっぽさを求める人のためのPHEV”といった趣なのです。
見た目の変化は“間違い探し”レベルながら中身は別物
そんな「アウトランダーPHEV」が、今回、かなり大がかりなマイナーチェンジを受けました。
その見た目の印象をひと言でいえば、“間違い探し”といったレベル。実はフロント回りでは、グリルやバンパーだけでなく、ボンネットフードやフェンダーまで新しくなっているのですが、一見しただけでは従来モデルとの違いが分かりません。
分かりやすい違いといえば、ホイール程度のもの。従来モデルのデザインが好評だったことから「変えようと思えばいくらでも変えられたものの、あえて大きく変える必要はないと判断した」のだそうです。
ちなみに、アルミ製だったボンネットフードがスチール製になったのは、ヨーロッパでの超高速走行時に、ボンネットが“浮き上がる”のを抑えるべく剛性を高めて重くする必要があったため。
また、5mmアップした車高は、新設計となったバッテリーが従来のそれより厚くなった分、最低地上高をしっかりとキープするための変更だといいます。
加えて、エンジンが稼働している際に発生する「キーン」とか「ギュイーン」といったジェネレーターの高周波音をカットすべく、専用のカバーを追加。実は目に見えない部分はしっかりと熟成や深化が進んでいるのです。
そうした見た目の変化は、エクステリアよりもインテリアを見た際に感じるかもしれません。
従来は9インチだったセンターディスプレイが12.3インチに拡大され、上級仕様にはこれまでなかったシートのベンチレーション機能も採用。またルームミラーは、カメラで撮影した映像を映し出すデジタルタイプを採用しています。
加えて、オーディオシステムを従来のボーズから日本のヤマハとコラボしたものに変更。また細かい部分では、室内ランプのLED化やアルミペダルの装備もおこなわれています。
●新設計バッテリーを軸にドライブフィールをブラッシュアップ
そんな新型「アウトランダーPHEV」における最大の進化は、駆動バッテリーを新設計したことでしょう。
従来の20.0kWhから22.7kWhへと10%以上の大容量化を果たしたことで、エンジンを止めたまま走れる“EV航続距離”が約20kmアップの100kmオーバーとなっています(グレードによって102~106kmと異なる)。
エンジンやモーターは従来モデルから変わっていないものの、大きくなったバッテリー容量を活かしてトータルでのシステム出力は約20%アップ。結果として、中高速域における車速の伸びも良化しています。
また、バッテリー容量の拡大と出力アップ(約6割増し)により、エンジンがますます始動しなくなったことにも注目。BEVっぽいドライブ感覚にますます磨きがかかりました。
そんな新型に試乗して安心したのは、従来モデルで好評だった軽快なフットワークがしっかり継承されていたこと。運転する楽しさがしっかり受け継がれているのはクルマ好きにとってはうれしいことですし、だからといって乗り心地も犠牲になっておらず、相変わらず上質なのは好印象です。
ちなみに開発陣は、「バッテリーの能力が上がったことで、新型はより多くの駆動トルクをタイヤへと伝達できるようになりました。その分、駆動系の制御やサスペンションの味つけはすべてやり直しています」と、新型開発の苦労を振り返ります。バッテリーを新開発したのに伴い、その他の箇所にもしっかりと手を加えているのです。
* * *
かつては、エンジン車やHEVがBEVへと移行する間の“つなぎ”のような存在だと思われていたPHEV。
しかし昨今では、日常的なシーンでは燃料を使わずに充電した電気のみで走ることができ、給油すればエンジン車やHEVと同様にロングドライブを楽しめるといったメリットが認められ、販売シェアを拡大中です。
今回、新型に試乗し、そんなPHEVのパイオニアとして今もなお一線級の運転する楽しさと先進的な走行フィールを備えている「アウトランダーPHEV」の魅力を、改めて実感したのでした。
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