XC60はボルボSUVの中核となる人気モデルである。だれにでもマッチするサイズ感、そしてゆとりのスペース。だが本当に支持されている理由は、運動性能だろう。押しつけがましさのない走り味はXC60ならではだった。試乗モデルはボルボ XC60 B5 AWD インスクリプション。(Motor Magazine 2021年9月号より)
工業製品であることを忘れる北欧生まれならではの清涼感
ボルボは、2030年までにすべての新車販売モデルのBEV化を宣言した。安全と環境に妥協を許さないボルボらしい姿勢に北欧の大自然が頭をよぎる一方、自動車を主体とした工業立国の日本に住んでいる感覚からすると、少々大胆過ぎる舵取りとも思われた。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
しかし、つい先日、EUから届いたニュースでは、2035年以降に内燃機関を採用するクルマの販売を禁止するという。広域的な範囲での厳しい規制を聞くと、温暖化がいかに切迫した問題で、クルマの持つ社会的責任がどれほど大きいかを改めて知り反省した。
ボルボのシナリオでは、2025年までに世界販売台数の5割をBEVとし、残りをMHEV/PHEVで構成。2030年には完全なプレミアムBEVメーカーになることを目指している。EU発表の先手を打ち、その5年も前に達成させることを考えると、ボルボの環境意識がいかに高く、先見性があったか、がよく理解できる。
その第一歩を踏み出した記念すべきモデル群が、日本では2020年にリリースされたBシリーズだ。2Lガソリンエンジンにターボやスーパーチャージャーを加えたユニットに48Vハイブリッドシステムを組み合わせてMHEV化し、以前からラインナップされていたPHEVとともに一気に全車電動化を完成させた。
そしてBシリーズの中核をなすのが今回試乗したXC60 B5だ。日本での販売台数の7割ほどを占めるXCシリーズの中で、XC40と並ぶ主力モデルでもある。ライバルはBMWのX5やメルセデスベンツのGLE、アウディのQ5あたりが目に浮かぶ。
XC60の個性はクルマに乗り込む時から肌で感じられる。試乗車のインスクリプションでは白を基調としたインテリアの効果も大きいが、直線的で無駄なラインを廃したスッキリとしたインパネや前後に伸びのあるシフトまわりには本木目をさりげなく用いることで、工業製品らしからぬ温もりを与えてくれる。インスクリプション専用のシフトノブには欧州でも一級品と言われている母国のクリスタルを用いるなど、北欧ならではの澄んだ空気のような清涼感を持つ。
個人的には大歓迎ながらジャーマンスリーの多くのモデルは、ドライバー中心で、運動性能を極めるためには、多少タイトになろうとも決して妥協を許さないパッケージングを持つ。それに対して、XC60はクルマに乗るすべての人にぬくもりと快適性を提供するため、工業製品の無機質さを意図的に遠ざけているようにも見える。
自然との調和をクルマ作りに折り込むなど、思いのほか壮大な思想でクルマ作りが行われているのかもしれない。今回の試乗はそんなボルボの新たな発見を求めて、博多を起点に自然豊かな阿蘇周辺を目指してスタートを切った。
機械が主張しすぎない。でも正確無比なXC60の走り
第一印象は、やはり機械の存在感を意識させず、良い意味での大らかな走りの味わいだ。電子制御エアサスペンションはSUVによくあるゴツゴツ感とは無縁で、ゆったりとした乗り味に終始する。
大径タイヤによる足元の動きは路面に対して無駄がなく、空気バネの機能をフルに生かして、外からの入力を受け止め、ボディをフラットに保ってくれている。足元の動きがスムーズゆえに外から見る背の高さほど、ふらつき感などはなく、走りの上でも人に優しい。
スポーツモードを選べば、空気をギュッと圧縮したような骨太感が出て操作に対するレスポンスが向上。横置きエンジンレイアウトながらリアにも適宜駆動を伝達する4WDシステムとの組み合わせによって、常にタイヤが路面をつかむような安定感を生んでいる。
高速道路などでは視界の良さが際立つ一方、ボディが路面に近いような安定感がある。高速コーナーではロールは少なくステーションワゴンのような印象で、ハンドル操作も最小限で済む。
このあたりの手応え感や操作フィールは、欧州車が備える精度の高さと日本車のスムーズさを併せ持つ感じがする。滑りやすい路面で敏感すぎず、かといって手応えが失われることのない北欧生まれならではの正確で個性的なハンドリングだ。重すぎずスムーズな操舵感は、初めて乗る輸入車としても違和感はないだろう。
阿蘇周辺のワインディングロードに入ると、スポーツモードとこのステアリングフィールの相乗効果の恩恵はさらに大きい。操舵フィールが軽めで快適とはいえ、車両重量は約1.9トンである。気持ち良くハンドルを切っていくと、物理の法則で通常なら外へ持って行かれる力が大きく働く。それをエアサスペンションの効果で、タイヤが荷重を受け止めボディを支えるのだ。
一方、ハンドルは少しばかり反力を強めるものの、戻されるような力は感じにくく、正確に進路をキープ。ドライバーはもとより同乗者への負担も少なくスムーズにコーナリングラインを描き続ける。
パワーフィールもターボに加えて、モーターのアシストがあることで全体にカドのない乗り味を味わわせてくれる。ハンドリング性能同様に大らかで、下から滑らかにパワーが出てくる上に、変速時のショックは少ない。B6と異なりB5にはスーパーチャージャーは併用されていないが、モーターは2000rpm、エンジンは1800-4800rpmで最大トルクを発揮し、力強さは広範囲感じることができる。
いわゆるジャーマンスリーと呼ばれるライバルたちのようにことさら力強さを強調することはないが、車両重量を感じさせないしっとりとした乗り味に終始し、落ち着きのある走りを実現するXC60の走りは懐が深い。8速ATは日本のアイシンAW製ということもあって無駄な変速が少なく、仮に大きなパワーが欲しくなったときでも変速時のラグが小さいので速度をキープしやすいのも美点だ。
モーターの後押しも要所要所で行われているらしく、重量級のクルマを効果的に走らせていることに感心させられる。
突出したスペックや味付けをアピールすることなく、サスペンション、エンジン、トランスミッションのそれぞれの仕事をそつなく、無駄なく引き出していることで、安定した走りを演出。まさに三位一体のバランス感覚の良さでXC60の快適な走りは生み出されている。ジャーマンスリーの目に見えてわかる逞しさに対し、XC60はすべてを黒子にしてしまった点に清々しさを感じる。
今回は1日で400kmを超すロングドライブとなり、高速道路や市街地、ワインディングロードを一気に走行。本来であれば途中休憩が必要な距離に違いないが、一日中乗っていても疲れが残らないことが清々しい乗り味の表れだ。もちろん、事実上いち早く高速道路でのレベル2ドライブを実現させた運転支援技術の恩恵も大きい。
メインスイッチひとつで即座に追従走行を開始してくれる上に、復帰も速く、使うのを躊躇っていた者でさえあっさりと馴染むことができた。高速ドライブでのストレスフリーによって、疲れが残らなかったことも確かである。
輸入車SUVで何を選んだら良いかと悩んだ時、必ずやこのXC60が思い浮かび、多くの人の期待に応えてくれるに違いない。長距離を乗ってこそわかる魅力をはっきりと再確認することができた。(文:瀬在仁志/写真:永元秀和)
ボルボ XC60 ラインナップ
B5AWDモメンタム/2L直4DOHCターボ+電気モーター:639万円
B6AWDインスクリプション/2L直4DOHCターボ+電動スーパーチャージャー+電気モーター:739万円
B6AWD Rデザイン/2L直4DOHCターボ+電動スーパーチャージャー+電気モーター:799万円
リチャージ プラグインハイブリッドT8AWDインスクリプション エクスプレッション/2L直4DOHCターボ+電動スーパーチャージャー+電気モーター:834万円
リチャージ プラグインハイブリッドT8AWDインスクリプション/2L直4DOHCターボ+電動スーパーチャージャー+電気モーター:949万円
ボルボ XC60 B5 AWD インスクリプション 主要諸元
●全長×全幅×全高:4690×1900×1660mm
●ホイールベース:2865mm
●車両重量:1890kg
●エンジン:直4DOHCターボ+モーター
●総排気量:1968cc
●最高出力:184kW(250ps)/5400-5700rpm
●最大トルク:350Nm/1800-4800rpm
●モーター最高出力:10kW/3000rpm
●モーター最大トルク:40Nm/2250rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・71L
●WLTCモード燃費:12.3km/L
●タイヤサイズ:235/55R19
●車両価格(税込):739万円
[ アルバム : ボルボXC60 B5AWDインスクリプション はオリジナルサイトでご覧ください ]
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