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スープラは時代に逆行? レーシングドライバーがショートホイールベースの採用に疑問符を投げかける

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スープラは時代に逆行? レーシングドライバーがショートホイールベースの採用に疑問符を投げかける

 スープラのホイールベースはヴィッツよりも短い

 トヨタ自動車がFR(フロントエンジン・リヤドライブ)レイアウトのスポーツカーである「スープラ」を復活させ、世界的な注目を集めている。独BMWに設計、開発、製造(車体製造はオーストリアのマグナ・シュタイヤー社)を委託するという前例のない開発手法を取った(86はスバルに委託)こともさることながら、極端なショートホイールベースを採用したことも話題となっている。

【カタログ値だけじゃわからない】クルマの「小回り性能」は何で決まる?

 ホイールベースとは前輪の車軸中心(ホイールセンター)から後輪車軸中心までの距離を意味する。スープラが採用したホイールベースの値は2470mm。これは同社のもっともコンパクトなクルマである「ヴィッツ」の2510mmよりも小さい値なのだ。

 一般的にホイールベースの大小は、車両運動特性に影響を与える。ホイールベースが短いことをショートホイールベースといい、旋回半径を小さくすることができる。クルマの旋回半径は後輪車軸の延長線と前輪左右輪を転舵したときにタイヤの進行方向に対して直角となる向きに延長線を引き、それぞれが交わったところが旋回中心となる。

 クルマの旋回半径はこの中心点をもとに決まる。前輪左右には内輪差が発生しないよう、内輪に外輪より大きな操舵角を与えないと延長線が交差しない。これをアッカーマン角といい、大抵のクルマには採用されているのだ。

 ここでヴィッツとスープラの最小回転半径を見てみるとヴイッツは4.5~5.6m(差が出るのは装着タイヤサイズにより前輪最大操舵角が異なる為)。対してスープラは5.2mと一貫していて小さい。エンジンを縦置きでレイアウトしているスープラはエンジンルーム横幅に余裕があり、前輪に大きな操舵角を与えられることも有利に働いている。そのぶんアッカーマン角も大きく付けられているはずだ。

 では何故スープラはこれほど小さなホイールベースを採用したのか。開発担当の多田哲哉さんによれば「86を開発した経験から行き着いた、スポーツカーに要求される要素としてショートホイールベースと低重心であることを最優先した結果」だという。実際にスープラを走らせると低速域でも回頭性が高く、一般道を軽快に走らせることができる。小さなRのコーナーが続くワインディング路は、本当に小気味よく走りやすい。

 ではスポーツカーの本領を発揮すべき、もっと高速のコーナーを攻めたらどうだろうか。極限的にはサーキットアタックでショートホイールベースは生きてくるのか。

 モータースポーツの世界でも、ホイールベースに対するアプローチはさまざまである。たとえばジムカーナのように低速ターンが連続する競技ではショートホイールベースが活きる。だが高速で競うサーキットレースでは必ずしもショートホイールベースがいいとは限らない。

 F1マシンなどレーシングカーはロングホイールベースが多い

 世界でもっとも速いレーシングカーであるF1を見ると、ホイールベースは3600mm以上もある。なかでも連続で年間チャンピオンを収めているメルセデス・AMGのマシンが、もっとも長いホイールベースを採用している。

 ホイールベースが長くなると直進安定性が高まる。クルマというのはじつは真っすぐ走らせることが一番難しい。路面のアンジュレーションや横風など、さまざまな外力を受けるなかで。ステアリングから手を離しても真っすぐ走れるような直進性が求められている。

 ホイールベースが短いと、前輪がまず横力を受けるとZ軸まわりに旋回モーメントがかかり、車体が旋回をはじめようとする。このZ軸とは車体の重心位置を上下方向に抜ける仮想軸だが、クルマはこのZ軸を中心に旋回姿勢(ヨー)に入るのだ。Z軸から前輪あるいは後輪の接地中心までの距離が大きくなれば、旋回力(ヨー慣性モーメント)が大きくなり、小さな外力では旋回性(ヨーレート)を立ち上げにくいが、距離が小さくなるとヨー慣性モーメントは小さくなり小さな外力でもヨーが立ち上がりやすい。これが専門的な理論だ。

 じつは操っているドライバーは、直線を走っているときに感じる安定性からコーナーでの限界高さを予測し、コーナーリング限界を引き出そうとする。直進姿勢が安定していればいるほど安心してコーナー奥深くまでブレーキングを遅らせ、しっかりしたグリップ感を感じながら高いコーナリングスピードを維持しようとするのだ。

 F1をはじめとしたレースマシンは、ウイングによる空力効果でダウンフォースを得て直線でのグリップが高く感じるが、空力デザインが悪いとコーナーに入ってステアリングを切り込んだ際、空力効果が薄れて、いきなりグリップを失いスピンしてしまう。ロングホイールベースだとこうした場面でヨーの挙動変化に寛容性が得られ、ドライバーがグリップ変化を感じやすいのだ。だからサーキットでの実戦経験が豊富なドライバーであればあるほど、じつはロングホイールベースを好む。

 多田さんによればモータースポーツのもっとも底辺である「レーシングカート」の運動性能からインスピレーションを得たという。レーシングドライバーがヨーコントロールをマスターする上でカートでのトレーニングは必須といえるが、それは超ショートホイールベースによりヨーコントロールの難しさを学ぶ場でもあるのだ。ある意味、トレーニング用の難特性をあえて新型スープラに仕込んでいることになるが、スープラは電子制御アクティブデフを採用して難特性の部分を制御しようとしていた。

 その制御にはハイスピードコーナリング時に起こるべき、ヨーモーメントとヨー変化に矛盾が生じており、ドライバーを混乱させる面があった。はたしてこれでいいのか。スープラでサーキットを攻めるにはこのアクティブデフの特性変更が不可欠となりそうだと感じさせられたのだ。

 そもそも論でいえば、時代のトレンドはロングホイールベース化にある。エンジンのハイパワー化、走行速度の高速化における直進性の確保や空力安定性の面でもロングホイールベースが有効だ。旋回半径は後輪操舵やアクティブデフで自在に設定できる。はたしてスープラが選んだショートホイールベースのスペックに勝算はあるのか。今後の進化を含めて見守っていきたい。

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