モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太が2023年に試乗した新型車から、『2024年に活躍を期待する』をテーマにして選んだクルマは2台。『マセラティ・グレカーレ・トロフェオ』と『マツダMX-30ロータリーEV』だ。それぞれの魅力を深掘りしていこう。
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F1エンジンに通じる“特殊技術”を搭載。SUVの容姿をしたスポーツカー/マセラティ・グレカーレ・トロフェオ試乗
■マセラティ・グレカーレ・トロフェオ
■「世界で唯一の量産PCIエンジンを体感できる、大変貴重な存在』
2023年に試乗したクルマで、乗る前から注目していたのは『マセラティ・グレカーレ』だ。それも、“GT”、“モデナ”、“トロフェオ”とあるグレードのうち、最上級にあたる“トロフェオ”に注目していた。なぜなら、世界でマセラティだけが量産化に成功しているプレチャンバーイグニッション(PCI)をエンジンに適用しているからである。
PCIは、スパークプラグの先端にプレチャンバー(副室)を設け、主燃焼室側に開いた小さな穴から混合気を取り込んで点火する。すると、今度は小さな穴からジェット噴流が噴き出し、主燃焼室の混合気を一気に燃焼させる。これにより燃焼圧が瞬時に大きく立ち上がり、燃料が持つエネルギーが効率良く圧力に変換されて出力が向上する。
この技術を出力と燃費の両面で活用しているのがホンダをはじめとするF1のエンジン(1.6リッターV6ターボ)。主に出力向上に生かしたのがNettuno(ネットゥーノ)と名づけられたマセラティの3.0リッターV6ツインターボエンジンである。
当初はスーパースポーツカーの『MC20』(車両価格3200~3650万円)に設定されていたが、都市型SUVの『グレカーレ』にも搭載されることになり、グッと身近になった(といっても車両価格は1683万円だが)。
ネットゥーノは、4シーターGTカーの『グラントゥーリズモ』(車両価格2444~2998万円)にも設定がある。『MC20』のネットゥーノは463kW(630ps)の最高出力を発生する一方、『グラントゥーリズモ』は361kW(490ps)~404kW(550ps)、『グレカーレ』は390kW(530ps)に出力は抑えられている。
『グレカーレ』の場合、「それでも530ps」だ。車両重量は約2トンに達するが、エンジンの実力を解き放ったときの加速力は圧巻。ドライブモードをスポーツもしくはトロフェオ専用のコルセ(イタリア語で「レース」の意)に切り換えると、アクティブエグゾーストバルブが開いて刺激的な排気サウンドに変わる。コルセでは脚はより硬めになり、8速ATの変速はよりダイレクト感が増す制御になる。
コルセを選択して走っていると、運転しているのはSUVのはずなのに、まるで生粋のスポーツカーを運転している感覚になる。クルマの動きがシャープで機敏だし、エンジンが奏でる音やコツン、コツンとショックを伝えてくる変速時の演出が気分を高揚させてくれる。
あえて苦言を呈するとすれば、音なのか、力の出具合なのか、プレチャンバーならではの何かを感じられないこと。ただ単に、パワフルで刺激的なエンジンという印象である(燃費のことは気にしてはいけない)。しかし、世界で唯一の量産PCIエンジンを体感できることに変わりはなく、大変貴重な存在だ。
■マツダMX-30ロータリーEV
■ 「ロータリー好きを満足させる絶妙な仕立てになっているEV」
エンジン好きなのがバレてしまうが(別に隠しているわけではないが)、2012年の『RX-8』の生産終了以来、11年ぶりにロータリーエンジンが復活する意味で、『マツダMX-30ロータリーEV』は2023年に大注目した1台だった。
『MX-30ロータリーEV』は、『MX-30』のEVモデルが搭載しているバッテリーを半分にした(35.5kWh→17.8kWh)。それでは当然、電気自動車としての航続距離は短くなるので、航続距離を確保するために、発電専用の8C型ロータリーエンジンと50リッターの容量を持つ燃料タンクを搭載。
バッテリーに残ったエネルギーが少なくなると(EV走行換算距離は107km)エンジンが始動。発電機を回して電気をつくり、その電気でモーターを駆動して走る。つまり、エンジンは黒子的な存在で、本来目立ってはいけない。EVとしての静かで快適な走りを邪魔するので、エンジン起因の音や振動は可能な限り乗員に気づかせたくない。
しかし、ロータリーファンとしては、エンジンの存在を(振動はともかく)音として感じたい。EVとしての機能を拡大した乗り物と認識するのか、ロータリーエンジンが載ったクルマと認識するかで、このクルマの捉え方は変わってくる。
とりあえず筆者は、後者寄りの視点を持って『MX-30ロータリーEV』に乗り込み、エンジンが掛かった際に音がどう聞こえるかを意識しながら試乗した。意識すれば、エンジンの音は感じられる。
車速によって回転数は変動するが、そもそもが発電のための運転なので、ドライバーのアクセル操作と完全にシンクロはせず、どちらかといえば単調だ。しかし、「シングルローターのロータリーエンジンが動いているときの音はこうなのかぁ」という感慨はある。
このクルマの素性をまったく知らせていない(EV走行が主体のクルマとも認識していないし、エンジンが運転と停止を繰り返しながら走っていることも知らない。ひょっとすると、ずっとエンジンで走っていると思っているかもしれない)人を助手席に載せて半日走ってみたが、エンジンに関してネガティブな感想は聞かれなかった。
『MX-30ロータリーEV』は、ロータリーエンジンに関心のある人にだけ、ロータリーエンジンを積んでいることを意識させる絶妙な仕立てになっていると判断しても良さそうだ。
自宅ガレージに充電設備があり、日常のほとんどはEV走行で済ませ、遠出をする際はエンジンで発電して電欠の心配なく走ってもらうのが、マツダが考える『MX-30ロータリーEV』の理想的な使い方ではある。だが、ロータリーエンジンに関心のある層をも満足させる出来映えであると感じた。
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