クルマに必要十分なものだけで作った「引き算の美学」
素うどん。これは有名な話で、筆者自身も当時、開発主査のMさんがそう仰るのを取材後の会食の席で聞いたことがあったが、初代デミオの開発のいわば裏コンセプトが「素うどん」だった。
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かき揚げも玉子も入れない素うどんかぁ……と、感慨深く受け止めた記憶がある。初代デミオが市場投入されたのは1996年8月のことで、経緯でいうとマツダは「5チャンネル化」がうまくいったとはいえず(サラッと書けば)何かと大変な時期だった。そのなかで、この小さなデミオは大ヒット作となり、マツダの業績回復にも貢献したのだった。
直球勝負の「フツーのクルマ」、それが受けた
いわく「小さく見えて、大きく乗れる。」「自由に使えて、楽しさ広がる。」「どこでも誰でも、キビキビ走れる。」……初代のカタログのページをめくると「さあ自由型ワゴン」とあり、さらにページをめくると、前のようなヘッドコピーが次々と現れる。当時はあまり意識しなかったが、今見返すと、デミオのボディを大写しで見開きで扱ったレイアウトがなかなかのインパクトだ。5チャンネル化に際しては、何かと情感に訴えるようなクルマが多かったが、その反動か直球勝負で、とくに実用性の高さをアピールしての登場だった。
ちなみにフォード・チャネル用の兄弟車として「フェスティバ・ミニワゴン」も用意され、そちらとはフロントグリル、ボディ色、シート表皮(メイン部分のファブリック)などで差別化されていた。
プチ欧州車的な味わいもあった
実車は全長3800mm×全幅1670mm×全高1535mm(ルーフレールなし車は1500mm)と、言い訳の要らないコンパクトさだった。全高はタワーパーキングの入庫が可能な設定。後席座面は前席より40mm高く、アップライトに座ることで見晴らし感を実現し、さらに160mmストロークのスライドとリクライニング機構付き。さらに、座面をチップアップさせてラゲッジスペースを最大限に活用することもでき、人が乗るにも荷物を載せるにも、まさに自在な使い勝手を実現していた。
それとベーシックカーながら、内装色がブラックではなく明るめのグレー/ベージュ系で統一されていた点も、ルーミーな室内空間づくりに貢献していた。ただし、靴でドアトリムを擦ったりするとその跡が目立つといった特性も見受けられたが……。明るいといえば、前後530mmと大開口のガラスサンルーフも、いかにも開けがいがあって、機能重視のデミオらしいものだった。
搭載エンジンは1.5Lと1.3Lの2機種で、いずれもAT(1.5Lは4速、1.3Lは3速)で過不足ない動力性能を発揮。足まわりは初代「フェスティバ」の血をひいた、小気味よい、プチ欧州車的な味わいだったと記憶している。
道具感への割り切りは潔いほど
それにしても、いま思い返すと、つくづく「道具感あふれるシンプルさ」が、当時も今も日本車としては極めて貴重な存在だった。分類上はBセグメントの小型ハッチバックだったが、背を高くすることで室内空間を取り、反対にバックドアは低くバンパーレベルから開くようにしてあり、かさばる荷物や重たい荷物の載せ下ろしも楽にしていた。
デビュー時の「GOLD CARトップ」で書いた試乗レポートを引っ張り出してみたら「なんといっても開口部は縦に845mmもあり、わが家にあるマッキントッシュ・パフォーマ575の梱包(高さが610mmもある)であっても楽に載せられ、かつインナーミラーが使い物になる」といったレポートを筆者は寄せている。
その一方で、割り切りも大胆だった。たとえばバックドアは、今なら手をかけてロックを外す方式のドアハンドルがあるのは当たり前だが、当初のデミオは、外からバックドアを開けるにはキーシリンダーにキーを差し込んでロックを開ける必要があった。直後にキーシリンダー部分をボタン式にし、キーを使わなくても指で押せばロック解除ができるように改良されている。
時代を越える実用車の名作だった
ところでデミオはマツダ自身は「マルチパーパスコンパクト」と呼び、ワゴンやミニバンなどの既成概念にはとらわれないクルマだとしていた。そのことは26年経った現在のほうがむしろ、聞かされて納得がいく。飾り気のないシンプルなスタイルは、いまでも通用すると思うし、(当時は思い至ることができなかった。デミオを担当され、少し前までデザイン本部長の職にあったM・Iさん、ごめんなさい)デザイン耐久性が高かったことは時間が証明した。
だとすると、まさに和製「ルノー4(キャトル)」が初代デミオなのだった……という思いが、(当時も薄々思ってはいたが)いまになってヒシヒシと込み上げてきた。
翻って現行マツダ車のラインアップでいうと、コンパクト系では2ボックスの「マツダ2」やSUV風味の「CX−3」があるにはあるものの、初代デミオのような機知にあふれた純道具系モデルは姿を消して久しい。だが、軽自動車でスーパーハイト/ハイト系ワゴンがもてはやされているくらいだから、ことによるともう一度復活させたら、イケてるクルマになるのではないだろうか? パワートレインはどうであれ、ユニバーサルデザインの観点からも、コンパクトで運転しやすく便利な「素うどん」のようなクルマはいつの時代も必要なはずだ。
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みんなのコメント
全く売れなかったらレビューの低床を生かして今じゃ当たり前の家族4人の小型車を成立させたパッケージングは素晴らしく、ドイツでもそこそこ走っていたのを見たくらい。
二代目くらいまでは先進性があったけど、三代目のコストダウン、今のはディーゼルを積むための別物で残念ながら当時の設計思想は残っていない。