2019年に30台限定で発表されたS60 T8 ポールスターエンジニアードは、発売初日に完売している。その人気モデルが2020年、S60(15台)に加え、V60(20台)、XC60(30台)に車種展開を広げて日本へ導入された。今回もまたすでに完売しているのだが、ここではXC60とV60版に試乗する幸運に恵まれた。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2021年1月号より)
電動車専門ブランドとして高性能車を開発するポールスター
ボルボのレーシングコンストラクターとして1996年にスタートし、その後ロムチューンやコンプリートカーの開発など市販モデルにも活躍の場を広げて行ったポールスター。そうした活動を見る限り、ガソリンの匂いがムンムンする高性能サブブランドといったイメージが強かったのだが、2017年、ボルボは今後の電動化戦略に則って、ポールスターを電動車専門ブランドとして独立させた。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
それももちろん高性能車が中心で、トリプルモーターで600psという大パワーを実現したPHEVのポールスター1や、前後2モーターで408psを発生するBEVのポールスター2を海外ですでに発表している。これらはいずれもボルボの量産モデルとは異なる専用ボディを有しているのも大きな特徴で、今後もSUVのポールスター3や、4ドアコンセプトの「プリセプト」に見られるように、独自の未来的なスタイリングを展開していくものと期待されている。
しかしその一方でポールスターは、ボルボに総合的にチューニングを施したモデルも供給する。高性能電動車ブランドとして独立した後の最初の1台が、日本には2019年末に30台限定で導入され即日完売となったS60 T8 ポールスターエンジニアード。T8の名前からもわかるように、当時ツインエンジンと呼ばれていた(現在はリチャージプラグインハイブリッド)PHEVをベースとしているのが、電動車ブランドとしての矜恃というわけである。
フロントとリアにそれぞれ電気モーターを搭載
今回試したのは、その2021年モデルと表現するのがもっともわかりやすい。なぜならポールスターが手を加えた部分は、2019年のS60をほぼ踏襲しているからだ。もっとも大きな相違点は、2019年はセダンのS60だけだったのに対し、今回はワゴンのV60とSUVのXC60もラインナップに加わったこと。そこで今回はその2台のT8 ポールスターエンジニアードを連ねて試乗に出てみた。
ICE(内燃機関)のみから電動化パワーユニットへの置き換え作業が完了したボルボだが、その流れの中でモデルラインナップにも若干の変化が起きている。たとえばV60では、以前設定されていたT8がドロップし、リチャージプラグインハイブリッドはT6のみとなった。またS60も最上位グレードは同じ呼び方のリチャージプラグインハイブリッド T6だ。いずれにせよ、S60とV60には現在、T8と呼ばれるパワーユニットは設定がないのである。
一方XC60は、重量のあるSUVということを考慮し、リチャージプラグインハイブリッドは当初からT8のみの展開である。T6とT8は、ともにターボとスーパーチャージャーを備えた2L直4エンジンを搭載するが、T6は253ps/350Nm、T8は318ps/400Nmと出力に差を持たせている。ポールスターエンジニアードのベースとは後者のT8だが、エンジンマネジメントはどちらとも異なる特別プログラムで、333ps/430Nmまでパワーアップされた。
プラグインハイブリッドシステムは、34kW(46ps)/160Nmのフロントモーターがエンジンと協調して前輪を駆動し、65kW(87ps)/240Nmのリアモーターが後輪を駆動する。いわゆる電気式AWDだが、モーターやバッテリーのスペックは全車共通。それでもエンジンの出力向上によりポールスターエンジニアードのシステム総合出力はT8から15ps増しの420psに達した。数値にしてしまうと差はわずかだが、いずれにせよ各モデルの最強力版がT8 ポールスターエンジニアードというわけである。
車種によってキメ細かい仕様設定を行うのも特徴
もちろん、このモデルが特別なのは出力だけではない。むしろ話題はシャシまわりの方が多いのだ。まずサスペンション、フロントのコイルスプリング、リアの横置き樹脂製リーフスプリングともバネレートを上げている上に、スタビライザーも強化している。ダンパーはマニュアル操作で減衰力を22段階に調節できるオーリンズDFVを装着。フロントは鋳造アルミの専用ストラットタワーバーが装着されているが、そのトップに突き出ているゴールドのダイヤルがダンピングの調節ノブだ。
時計回りに最後まで締め込んだところがもっとも強い=硬い状態で、1クリックずつ左に回していくと徐々に柔らかくなっていく。リアダンパーにも同様の調節ノブがあるが、リフトアップしないと調整できない。ちなみにV60では19インチ、XC60では21インチとなるポリッシュド/ブラックのホイールも専用パーツである。
このホイールから覗くブレーキディスクとゴールドの6ポッドキャリパーも専用部品だ。V60はブレンボ製で、重量のあるXC60はより大容量なアケボノ製を採用。さらに、回生ブレーキの使用率を高めた最新世代のブレーキバイワイヤシステムを採用し、強化型のブレーキホースと相まってペダルフィールの向上を図っているのも特徴となっている。
内外装はRデザインに準じているが、XC60は高い重心高を考慮してトレッドを拡大。その関係からフェンダーアーチモールが追加され車幅は40mm広がり1940mmとなった。このように展開車種に応じてきめ細かい仕様設定を行うのもまた、ポールスターエンジニアードの特徴のひとつである。
走行モードは、常時4輪駆動となる「コンスタントAWD」、EV走行を最優先させる「ピュア」、モーターとエンジンが協調し効率が最も高い「ハイブリッド」、個別のセッティングが選べる「インディビデュアル」の4ポジションに加えて、標準モデルでのパワーモードが「ポールスターエンジニアード」となって設定される。このモードはアイドリングストップやEV走行を行わず、駆動もAWDが主体となってエンジンとモーターの力を出し切る。もちろんアクセルやシフトのレスポンスも鋭くなる。今回はその特性を知るため、主にこのポジションで走った。
とは言っても荒々しさはない。低速からトルクがしっかり出ているのはスーパーチャージャーの立ち上がりの良さと、モーターのアシストの賜物だろう、そのおかげでアクセルペダル操作に対してクルマがとてもリニアかつシャープ反応してくれる。またモーターがエンジンの鼓動をマスキングするのか、パワーフィールがとても滑らかなのにも感心させられた。
V60に対しXC60は110kgほど重いのだが、動きに鈍さをまったく感じさせなかったことでもトルクの豊かさが証明されている。高速の中間加速からワインディング路でのコーナー立ち上がりまで、どんなシーンでも電光石火の反応の鋭さが楽しめるのがこのパワーユニットの最大の魅力である。
スポーティなPHEVもプレミアムなボルボらしい
加えて操縦性も極めて軽快だ。引き締まったサスペンションとタイヤへの負担を4輪に分散させるAWDのおかげでグリップ感が非常に強い。トラクションの掛かり方も強力で、重心の高いXC60であっても不安感なくグイグイと曲げていくことができた。
ただ、前6戻し、後9戻しのワインディングロード推奨セッティングでは、荒れた路面での突き上げも相応に大きく感じられる。そこでフロントだけだがさらに戻してみると、なるほど当たりは格段にマイルドになった。コンフォート性を優先させる推奨セットは前12戻し、後15戻しあたりとのこと。
一方、サーキット走行も視野に入れたハードセットではこれが前2、後6となる。このように調整幅が非常に大きいのはオーリンズDFVの大きな魅力。ポールスターは以前からこのマニュアル調整式を好んで採用してきたのだ。
このように魅力満載のT8 ポールスターエンジニアードなのだが、今回も導入は数量限定で、S60の15台、V60の20台、XC60の35台はすでに完売と言う。1000万円近い高額車種ながらしっかり顧客を掴んでいる点にボルボのプレミアム性を感じるが、それだけに今後供給量を増やしていくのも重要なテーマとなりそうだ。(文:石川芳雄/写真:永元秀和)
■ボルボ XC60 T8 ポールスターエンジニアード 主要諸元
●全長×全幅×全高:4690×1940×1660mm
●ホイールベース:2865mm
●車両重量:2160kg
●エンジン:直4 DOHCターボ+スーパーチャージャー+モーター×2
●総排気量:1968cc
●エンジン最高出力:245kW(333ps)/6000rpm
●エンジン最大トルク:430Nm/4500rpm
●モーター最高出力(前+後):34kW/2500rpm+65kW/7000rpm
●モーター最大トルク(前+後):160Nm/0−2500rpm+240Nm/0-3000rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:フロント横置き4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・70L
●WLTCモード燃費:13.2km/L
●タイヤサイズ:255/40R21
●車両価格(税込):1024万円
[ アルバム : ボルボ XC60 T8 ポールスターエンジニアード はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
加減速やコーナリング凄そうだな
一代前のポールスターS60運転させてもらったけど、全く別物だったからね。