自動車のテクノロジーは日進月歩で進化しているが、どれだけ進化しているのか、なかなか目の当たりにする機会は少ない。
5月中旬に開催された「人とくるまのテクノロジー展」に見て回ったら、目からウロコと言っても過言ではない、驚きのハイテク技術があったという。
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それはいったいどんな技術なのか? 自動車テクノロジーライター、高根氏も驚いたハイテク技術とは?
文&写真/高根英幸 (自動車テクノロジーライター)
目からウロコの自動車新技術!
「人とくるまのテクノロジー展(以下、人テク展)」は、パーツサプライヤーの団体、自動車技術会が毎年開催しているもので、新旧問わずクルマのメカニズムに興味がある筆者にとってはある意味、東京モーターショーよりも見応えのある自動車系展示会といえる。
マツダは新型マツダ3と、開発中のエンジン「SKYACTIV-X」を展示していたし、スバルは日本未発売のクロストレックハイブリッドとトヨタのHEV技術THSを応用した縦置きハイブリッドCVT、TH2Aを披露していた。
今年はじっくりと会場を歩ける時間が取れたので、これまで手薄だった計測や検査技術のブースも見て回れた。そこで気付かされた工程と驚きの技術を紹介しよう。
クルマのデザインはまだアナログの技だった!
原製作所のブースに展示されていた原寸大のマスタングをスキャンしている作業風景のパネル。ボディ後部は測定データを表現したもので、CGで使われるポリゴンのように三角形を貼り合わせたSTLという形式のデータ。ここから3D CAD用に変換される
クルマの設計は、コンピュータによる3D CADを用いて行なわれているのはご存じだろう。しかしボディ全体の造形はそんなデジタルな世界の前にアナログな技で仕立てられる。
まず、最初に生み出されるのは、デザイナーが描くイメージスケッチだ。そこから量産車としての細かな修正を加えて、現実的なスタイリングができあがっていく。
この時にはグラフィックソフトを使うので、ある意味デジタルな世界なのだが、数値としてはアバウトな状態だ。それを具体的に形にしていくのがクレイモデルの存在。
モデラーが造形用のクレイ(粘土)を盛っては削りを繰り返してアウタースキンを作り上げていくのだ。
クレイの状態で削り出されたシェイプは、表面にフィルムを貼るとまるで塗装されたボディそのものようになる。
全長や全幅、全高、ホイールベースといったスペックは商品企画を立てる時に決まっている場合も多いが、それ以外のボディラインはこの状態で決まる。それをデジタルデータに変換するのが3Dスキャナーだ。
そう、デザイナーの感性と商業面での制限が融合された現実的なフォルムがデジタルデータ化されるのは、まさにこの時なのだ。
ボディパネルの設計は3D CADを用いて行なわれるが、設計者がゼロから数値や形状を入力していくのではなく、クレイモデルを計測した数値をベースに設計されていくのである。
この工程、あまり紹介されたことがないので筆者も意識していなかったのだが、今回の人テク展で計測技術に触れて、改めて面白いと思ったのだ。
クルマのスタイリングは結局いまだに、モデラーという職人の技によって実現しているのだから。
そのボディパネルを生産できないとスタイリングも実現できないから、最終的には生産技術とのすり合わせになるのだが、それはまた次の機会に譲ろう。
参考までに992型の新型ポルシェ911のデザイン開発現場の動画も見てほしい。クレイモデルがいまだに使われているのが見てとれる。
3Dスキャナーの高性能ぶりにビックリ!
丸紅情報システムのブースに展示されていたgom社の3Dスキャナーの新製品ATOS 5。原製作所や自動車メーカーが持っているのは、先代モデルだが、それでも十分に高性能だ
さて、3Dスキャナーにも計測のメカニズムに種類があるが、自動車メーカーが開発中の新型車のボディ計測に採用しているのがドイツ、gom社の光学式3Dスキャナー。
人テク展では、gom社の日本代理店である丸紅情報システムズが最新の3Dスキャナーや工業用X線CTなどを展示していた。
gom社の光学式3Dスキャナーは、ステレオカメラの中心にレーザー光線によるプロジェクターを配し、対象物の表面に模様を投射して、それをステレオカメラでキャプチャーすることにより三次元の座標を得る仕組み。
カーナビのGPSなどと同じく根本的には三角法で位置情報を算出している 。凄いのはそのスピードと正確さだ。最高機種では1秒間に1200万点もの座標を測定することができる。
そのうえ、精度も物凄い。対象物の大きさや距離によって変わってくるが、エンジン部品などの金型の精度を非接触で測定できるのだから、1レベルの精度があることは想像するだけで分かる。
実際に使っている原製作所に話を聞くことができた。こちらはフォードマスタングを1台まるごとスキャンしている模様を原寸大のパネルにしてブースの壁面として展示。
そのインパクトの大きさと、実際の作業の雰囲気、そして計測データの状態などが良く分かる内容に仕上げられていた。
同社では、小さな精密部品から航空機までさまざまなモノを計測しているが、クルマの車体をまるごと計測することも多く、なかにはレンタカーなど車両を用意するところから依頼されるケースもあるそうだ。
依頼の目的はレーシングゲーム用のデータ取得から、ライバルメーカーの車体分析と思われるものなど、いろいろあるようだ。
ちなみにクルマ1台を3Dスキャンしてもらう場合、期間は1カ月ほどで費用はおよそ100万円、データを3D CADで使えるモノに変換する場合、3カ月ほど掛かり、費用も300万~400万円ほどになるそうだ。
原製作所の3Dスキャンは飛燕の復活プロジェクトに活用された。ということは、ハコスカGT-Rやトヨタ2000GT-Rなどの台数が少なく高騰している名車を3Dスキャンすれば、部品はもちろん、まるごとクルマ一台も量産できるのではないだろうか
海外で走っているクルマの情報、映像をクラウドで遠隔監視
アプトポッドのintdash Automotive Pro。モニター上に映し出されるこの情報が、世界中のどこで走行していても(携帯電話の電波が届く範囲だが)、クラウドで共有して見ることができる。リアルタイムで遅延が少ないのも特徴。これを使えば海外での走行テスト中に問題点が生じても、開発エンジニアが研究所ですぐに対応策を考えることができるようになるのだ
もう一つ、目からウロコだったのは、自動車メーカーが新型車の開発に使っている、クラウドを使った走行データのロギングサービスだ。
デジタルタコグラフ(トラックなどの走行履歴を管理)の一種かと思ったら、それよりもはるかに高度な内容だった。
F1マシンなどが車体の情報をピットのスタッフに送るテレメトリーシステムは、リアルタイムで本社の研究所も共有しているといわれているが、アレに近いシステムだ。
しかも車体のCAN情報のほか追加したセンサーやドライブレコーダーの映像も確認できる分、より高度なモノといえるだろう。
自動車メーカーは世界中で開発中のクルマを実際に走らせてテストしているが、今や車体側で走行データをロギングして、持ち帰って分析、検討するようなやり方から、テスト走行中のデータを常にクラウドで収集して解析することでスピード化を果たしているのである。
このintdash Automotive Proを開発、提供しているのはアプトポッドという企業。クルマ以外にも様々な産業の遠隔操作やデータ収集、データの可視化のソリューションを提供しているそうだ。
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