現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第6回】フェラーリの「改善」とマセラティの「再建」

ここから本文です

フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第6回】フェラーリの「改善」とマセラティの「再建」

掲載
フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第6回】フェラーリの「改善」とマセラティの「再建」

クオリティ向上に邁進

text:Shinichi Ekko(越湖信一)

モンテゼモーロ、フェラーリを去る

photo: Ferrari S.p.A.、Maserati S.p.A前述したように、モンテゼーモロが描いていたフェラーリ復活へ向けての最重要事項が品質向上であった。フェラーリは自社工場の規模拡大へはあまり積極的ではなく、必要なコンポーネンツに関してはイタリアのモーターバレーたるモデナ・エリアの協力工場からの供給で賄うという方向性だった。

フェラーリを称して、「フェラーリ学校」と呼ぶことがしばしばある。つまり、薄給でフェラーリに働くということは、半ば学校に通っているのと同じで、然るべきタイミングで独立し、ある作業に特化した協力工場として稼ぎなさいという意味が秘められている。今でこそ状況は大きく変わったが、当時はまさにそういった様相であった。

工業製品として、品質を向上させるもっとも簡単な方法は、生産ロットを拡大することである。作れば作るほど、品質が安定していく。フェラーリをはじめとするイタリア車が、この時代まで壊れるクルマの代名詞のように語られた理由のひとつは、コンポーネンツのクオリティが安定しなかったことにあった。

世界最高のイタリア車を作ると宣言

多くのノウハウを持つ世界的メーカーのボッシュやZFなどのメジャー・サプライヤーは、そもそも数量が少ないこれらイタリア車専用部品の発注をなかなか受けなかった。そのためにイタリア車メーカーは、国内のローカル・サプライヤーに発注せざるを得なかった。残念なことにそれらの品質は安定せず、納期も気まぐれであった。

厳しい状況を一新するために「世界最高の技術を活用して、世界最高のイタリア車を作る」とモンテゼーモロは宣言した。生産台数を増やす様々な試みを実施し、結果的に世界各国の優秀なサプライヤーから高品質のコンポーネンツの供給を実現していった。

その中にはもちろん日本製も多く含まれた。この時期、日本車が高品質を武器として世界のマーケットへ躍進したのも、このクオリティの高さからである。そう、モンテゼーモロは生産性を高め、フェラーリの品質は飛躍的に改善されたのだ。

フェラーリのもっとも重要なセールスポイントであるエンジン本体に関しての改善は顕著であった。フェラーリのエンジンは独特の味付けがされた高回転型だが、反面、調子に乗って回しているとあっという間に寿命がやって来た。また、独自の技術が投入された専門家の評価も高いエンジンではあったが、決して万人受けするものでもなかった。

突出した部分もあり、そのために他の部分を犠牲にするという割り切ったコンセプトが特徴であったが、360モデナやF430あたりから大きく変わった。材質や精度が画期的に向上し、耐久性も一般のエンジンと比べて遜色のないレベルになり、エンジン特性もスポーツカーとして文句ないのはもちろん、常用域での御しやすい仕立てとされた。

マセラティを傘下に

しかし、生産台数を増やすといってもそう簡単なことではない。品質向上や商品力アップとの間で、鶏と卵のような関係ではないか。ましてや短期間に大きく増やすことなど現実的には不可能である。モンテゼーモロはいったいどのような魔法を使ったのであろうか。

そう、その生産台数急拡大の鍵は、マセラティを傘下に入れたことにある。1997年に突如フェラーリが、かつてのライバルであるマセラティを傘下に入れたというニュースが飛び込んできた。

水面下では様々な駆け引きが行われたようだが、マセラティを任せることが出来るのはモンテゼーモロしか存在しないという究極の判断で、マセラティ再建指令がフィアットのボスであるジャンニ・アニエッリより出されたのだ。

1993年にマセラティのマネージメントを行っていたアレッサンドロ・デ・トマソが病魔に襲われたことでデ・トマソ・グループは崩壊し、フィアットがその株式を引き受ける。ところが、フィアット・グループの一員となったものの、そこには少量生産ハイパフォーマンス・モデルの開発・販売の具体的な方法論は存在せず、人材もなかった。

そこで同じモデナ・エリアに君臨するフェラーリのトップであるモンテゼーモロに白羽の矢が立ったというワケだ。フェラーリのリソースを有効活用するという点では理にかなってはいるが、かつてのライバルにその再建を委ねるという、誰もがあっと驚くような奇策が採られたのだ。

モンテゼーモロによる大改革

ここにマセラティ・フェラーリ・グループのオペレーションが始まった。マセラティのファクトリーを大改装すると共に、フェラーリ本社のマラネッロでは、マセラティ、フェラーリ両社を合計した生産規模に対応するエンジン製造棟とボディのペイント棟が新設された。

オートメーション化を進めた工場施設の大規模なリノベーションも同時に行われ、エンジンブロックの鋳造から、最終組み付け、テストまでを外注なしに、社内で一貫して行えるようにされた。

今までは手作業や多くの外注業者によるパーツを使って組み上げていたエンジンだが、最新のツールにより、クオリティを上げながらも必要充分な数を組み上げることが可能となり、ペイントのクオリティももちろん大きく改善された。

両社はスケールメリットを享受

主旨としてはマセラティ再建の為ための投資であることは間違いない。しかし、この「合併劇」のためにフィアット・グループから潤沢な資金がフェラーリに流れ、懸案の生産台数拡大が、大きなスケールで一気に達成されることとなった。

1998年のフェラーリ年間生産台数は3637台。そしてマセラティはフェラーリの元でゼロから開発が行われたクアトロポルテVがマーケットに出るころには6000台あまりの生産が行われていたから、両社合わせて1万台クラスの規模になった。量産メーカーとしては小さな数字に見えるが、この手のラグジュアリー・スポーツカーとしてはかなりの規模となった。

果たしてフェラーリとマセラティの生産台数が足し算されることとなり、生産、部品調達、あらゆる点で両者はスケールメリットを享受することとなった。これはフェラーリにとっても望外のメリットであり、ブランド躍進の大きな原動力となったのだ。

続きは2024年5月25日(土)公開予定の「【第7回】エンツォ・フェラーリ誕生秘話」にて。

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油7円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

18年ぶりに復活を遂げたトヨタ新型「クラウン・エステート」“待望”の発売! SUVの魅力をプラスした「新発想ワゴン」は635万円から
18年ぶりに復活を遂げたトヨタ新型「クラウン・エステート」“待望”の発売! SUVの魅力をプラスした「新発想ワゴン」は635万円から
VAGUE
ヒョンデ、『インスター』4月導入でEV普及を加速…新拠点開設やパートナーとの連携強化へ
ヒョンデ、『インスター』4月導入でEV普及を加速…新拠点開設やパートナーとの連携強化へ
レスポンス
軽自動車にこそEVがピッタリです。ル・ボラン編集部が選ぶ! 「EVアワード」日産サクラ
軽自動車にこそEVがピッタリです。ル・ボラン編集部が選ぶ! 「EVアワード」日産サクラ
LE VOLANT CARSMEET WEB
18年ぶり復活のトヨタ新型「クラウン“エステート”」! 「ワゴンとSUVの融合」実現した“デザイン”に込められた“想い”とは
18年ぶり復活のトヨタ新型「クラウン“エステート”」! 「ワゴンとSUVの融合」実現した“デザイン”に込められた“想い”とは
くるまのニュース
トヨタ「クラウンエステート」登場! “シリーズ第4”のモデルはなぜ「SUV×ワゴン」融合した? 伝統の「エステート」名称“復活”にかけた開発の想いとは【開発者インタビュー】
トヨタ「クラウンエステート」登場! “シリーズ第4”のモデルはなぜ「SUV×ワゴン」融合した? 伝統の「エステート」名称“復活”にかけた開発の想いとは【開発者インタビュー】
くるまのニュース
56年前の「ランボルギーニ」がオークションに登場 名スーパーカー「カウンタック」以前の“4人乗りランボ”とは
56年前の「ランボルギーニ」がオークションに登場 名スーパーカー「カウンタック」以前の“4人乗りランボ”とは
VAGUE
マルティン、MotoGP第3戦アメリカズGPも欠場へ。第4戦カタールでの復帰も不透明「思うように回復できず、本当に苦労している」
マルティン、MotoGP第3戦アメリカズGPも欠場へ。第4戦カタールでの復帰も不透明「思うように回復できず、本当に苦労している」
motorsport.com 日本版
レクサス [LS]2013年モデルが想像以上に良すぎる件!! マイナーチェンジってウソだろ!?
レクサス [LS]2013年モデルが想像以上に良すぎる件!! マイナーチェンジってウソだろ!?
ベストカーWeb
新車購入で後悔したくないなら徹底チェック! 購入前にディーラーの実車で穴が空くほどガン見して確認すべき項目とは
新車購入で後悔したくないなら徹底チェック! 購入前にディーラーの実車で穴が空くほどガン見して確認すべき項目とは
WEB CARTOP
トヨタ新型「クラウンエステート」発表! “ワゴン×SUV”を「よりメッキきらめくスタイル」に! スタイリッシュなモデリスタパーツを設定、KINTOでも取り扱い開始!
トヨタ新型「クラウンエステート」発表! “ワゴン×SUV”を「よりメッキきらめくスタイル」に! スタイリッシュなモデリスタパーツを設定、KINTOでも取り扱い開始!
くるまのニュース
レーシングブルズとエクソンモービルが燃料パートナー契約を締結。レッドブルファミリー全体との提携が強化
レーシングブルズとエクソンモービルが燃料パートナー契約を締結。レッドブルファミリー全体との提携が強化
AUTOSPORT web
動かす前に何をすべき!? 冬の間に乗らなかったバイクのメンテナンス
動かす前に何をすべき!? 冬の間に乗らなかったバイクのメンテナンス
バイクのニュース
ワゴン×SUV!? トヨタ新型「クラウンエステート」18年ぶりに復活! 完成された16代目クラウン独自の「乗り味」とは【試乗記】
ワゴン×SUV!? トヨタ新型「クラウンエステート」18年ぶりに復活! 完成された16代目クラウン独自の「乗り味」とは【試乗記】
くるまのニュース
高速道路に「人が運転していない」トラックが出現…なぜ? 一般車の自動運転と何が違うのか
高速道路に「人が運転していない」トラックが出現…なぜ? 一般車の自動運転と何が違うのか
乗りものニュース
トヨタ新型「クラウンエステート」正式発表! ワゴン×SUVとして18年ぶり復活の理由は? ブランド70周年で4モデル揃う!エステートが担う役割とは 635万円から設定
トヨタ新型「クラウンエステート」正式発表! ワゴン×SUVとして18年ぶり復活の理由は? ブランド70周年で4モデル揃う!エステートが担う役割とは 635万円から設定
くるまのニュース
スバル新「クロストレック」発表! 鮮烈な「オレンジ」ボディ採用した“サンブレイズ仕様”に大注目! 同時に「インプレッサ」と「レヴォーグ」特別仕様車も公開!
スバル新「クロストレック」発表! 鮮烈な「オレンジ」ボディ採用した“サンブレイズ仕様”に大注目! 同時に「インプレッサ」と「レヴォーグ」特別仕様車も公開!
くるまのニュース
「アントネッリ圧倒は必須とは思っていない」先輩ジョージ・ラッセル、”速いヤツは最初から速い”理論を提唱
「アントネッリ圧倒は必須とは思っていない」先輩ジョージ・ラッセル、”速いヤツは最初から速い”理論を提唱
motorsport.com 日本版
ホンダ『ZR-V』のゴツゴツ感を低減、スタビリティも向上させるテインの車高調「フレックスZ」発売
ホンダ『ZR-V』のゴツゴツ感を低減、スタビリティも向上させるテインの車高調「フレックスZ」発売
レスポンス

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1515 . 0万円 2569 . 0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

79 . 0万円 2002 . 6万円

中古車を検索
マセラティ クアトロポルテの買取価格・査定相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1515 . 0万円 2569 . 0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

79 . 0万円 2002 . 6万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村