音響にこだわり持ったダイヤトーンナビなど、熱狂的なファンもいる三菱電機のナビ。最近はスバルのディーラーオプションに採用されるなど堅調なイメージであったが年内に撤退する模様。自動運転など未来を見越しての判断というが、もしやこれ他のメーカーにも波及するか?! 日本のナビメーカーはこれならどうなる??
文:会田肇/写真:ベストカーWeb編集部
GPSナビの先駆者が撤退!! 三菱電機自慢のダイヤトーンナビも終了へ……他のナビメーカーは大丈夫か?
■老舗もキツイ時代……選択と集中で三菱電機がカーオーディオから撤退へ
先代XVやフォレスターなどスバル車をはじめダイヤトーンナビは純正オプションとして多くの車種に設定されていたのに……
三菱電機は4月24日、自動車機器事業を今後1年以内に分社化し、カーナビを含むカーマルチメディア事業を終息させると発表した。
今後は電動化やADAS(先進運転支援システム)については技術シナジーが見込めるパートナーと協業を模索し、電動パワーステアリングシステムなど強みを活かせる事業にリソースを集中させる。
ディールラボが公開した2021年の自動車部品業界における三菱電機の市場シェアランキングはグローバルで26位。幅広い自動車機器を扱うサプライヤーとして決して高いシェアではない。
しかも、その事業運営は決して平坦なものではなく、2025年度を最終年度とする中期経営計画における売上げ目標も、2022年5月に9000億円から8000億円へと下方修正したほどだ。
赤字を生み出していたとされるマルチメディア事業を終息させ、より強みを活かせる事業などにリソースを集中させる判断をしたのはやむを得なかったとも言えるだろう。
■GPSカーナビは三菱が初だった!? 音にこだわったダイアトーンナビも終了に
今や当たり前のGPSナビを作ったのは三菱電機であった。ダイヤトーンナビなどファンも多いだけにかなり大きなニュースなのだ……
ただ、今回の発表で個人的にも残念だったのはカーナビ事業を終息させるとの発表だ。三菱電機と言えば、日本にカーナビを広めた立役者として知られる。
今から33年前の1990年に、世界初のGPカーナビがユーノスコスモに搭載されたが、この開発を行ったのが実は三菱電機だったというのは有名な話だ。
そもそも三菱電機がGPSカーナビの開発をスタートさせたのは、1980年代にGPS技術が南極の資源探査に使われていたことに着目したことだった。
これをカーナビに転用できないか早くから模索し、課題として立ちはだかった地図データもゼンリンの協力を得ることで解決。世界初のGPSカーナビの搭載をユーノスコスモで成功させることにつながった。
それ以降、三菱電機は日本国内でカーナビ事業を進める一方で、海外ではインフォテイメントシステム事業を積極的に展開し、日本に輸入される車両にも同社のシステムが搭載することは珍しくなかった。
また、音の良さを訴求した「ダイヤトーン」ナビも一定の評価を獲得し、これが功を奏して自動車メーカー純正ナビにも幅広く採用されることができた。
その意味で、三菱電機製カーナビは市販でこそシェアはそれほど高くなかったものの、OEMでは着実に知名度を上げてきていたはずだった。しかし、現実はそれが利益には貢献していなかったことが今回の発表からも読み取れる。
■カーナビは日本が異様に需要高い!? スマホナビ台頭で海外で厳しい戦いに
どうして三菱電機はカーマルチメディア事業で成功させることができなかったのだろうか。
一つはカーナビを含むマルチメディア事業は、投資コストが高く、それを回収できるまでの需要を生み出せなかったのではないか。
もともとカーナビはストリート名がきちんと整備されている欧米ではそれほど需要が高いものではなかった。
欧米では進行方向を矢印で示す「ターンbyターン」方式のカーナビが古くから定着しており、ルート案内するにしてもスマホのカーナビで十分足りてしまうレベルにあったからだ。
一方で日本はストリート名がほとんど整備されて来なかったことや、大字地域では番地が不揃いだったりして、分岐点ではカーナビに頼る機会が多かった。
とくに都市部の複雑な道路では、高低差の自動認識や地下駐車場での高精度な動きが重宝され、それらがカーナビを支えてきた側面があった。
つまり、スマホによるカーナビが台頭する中で、日本のような高精度なカーナビが欧米で求められることはほとんどなく、カーナビ事業が展開できたのは日本だけという状況にあったのだ。
■ディスプレイオーディオ台頭もデカかった
スマホナビを表示させるディスプレイオーディオ。つねに最新の地図データ、使い慣れたUIなど据え置きナビよりも手軽なことも人気の理由
しかも自動車メーカー自身も、コスト低減を目的としてカーナビ機能をスマホに任せることをグローバルで展開することとなり、そのためのディスプレイオーディオ機能を搭載したIVI(In-Vehicle Infotainment)の受注競争も激しさを増していた。
さらに日本で音が良いカーナビとして知られた「ダイヤトーン」ナビにしても、パナソニックやパイオニアのような数で勝負できる状況にはない。こうした事情を踏まえ、三菱電機はカーナビを含むマルチメディア事業の撤退を決めたのだ。
■他のメーカーの撤退は早々ない!? 支えるのは中古車市場
中古車の場合、2DINスペースがある車種が多いため買ったタイミングでナビ交換するユーザーが多いのも事実。コロナ禍で中古車市場が盛り上がりを見せたため、カーナビ事業は好調かに見えたが……
では、こうした状況は他のカーナビメーカーにも波及するのだろうか。現状を見ればカーナビを取り巻く環境は厳しいように見える。
電動化の流れもあり、新車にはエアコンの操作や車両設定までが行えるIVIが普及し、ディスプレイオーディオの普及も確実に進んでいる状況にあるからだ。
だが、実際はそうとは言い切れない背景がある。日本には巨大な中古車市場があり、加えてカーナビ需要は大画面志向へと向かっている。こうした需要が市販カーナビ市場をしっかりと支えているというわけだ。
電子情報技術産業協会(JEITA)が2月に公表した資料「AV&IT機器世界需要動向~2027年までの世界需要展望~」によれば、日本のカーナビ需要は2019年の604万台をピークに減少傾向にあり、22年にはなんと約200万台減の404万台にまで落ち込んでしまった。
その最大の要因がコロナ禍による影響だ。折しも19年10月に実施された消費税増税からマイナス基調が続いていた中で、各販売店への来店者数が激減。
加えて自動車の生産台数を減らしたことに伴う販促活動の自粛とも相まって、一気に需要減速が起きたのだ。
しかし、JEITAの今後の需要動向を見ると、2023年には455万台となり、27年には508万台へと需要が回復することを見込んでいる。この中にはIVIが含まれているので、市販カーナビの需要拡大を意味するものではない。
それでも現時点で全体の約半分が後付けカーナビ需要であり、27年でも約4割程度を占めると見込まれている。
これは前述したように日本には巨大な中古車市場があり、同時に運転アシスト機能の普及に伴い車内で少しでも快適に過ごしたいとの想いが大画面カーナビのニーズを生み出しているからだ。
一部ではディスプレイオーディオの需要拡大も見られるが、高精度かつ高機能なカーナビに慣れた人がスマホによるカーナビ用アプリを使えば能力的に不満が残るのは間違いない。
もちろん一定の需要は生まれると思うが、海外ほど日本ではディスプレイオーディオへの転換は生まれず、カーナビ需要は今後も根強く続いていく。
一方でIVIの普及によっていずれは中古車市場でもその対応が迫られていくのは確実だ。そんな時に、市販カーナビがIVIにどう対応するか。そこにこそ市販カーナビが今後も生き残っていく術があるのだと思う。
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