1990年代から2000年前半にかけて登場した日本車のなかでも、ユニークなコンセプトを持つ5台を小川フミオが選んだ。
日本車がなつかしくみえる1980年代から1990年代にかけて、“多品種少量生産”なんていうビジネス・スキームがあった。いってみれば、アイディア勝負。ニッチ(すきま)商品も多く出た。もちろん、なかには、いまも魅力的に思えるモデルがある。
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いまでも“いいなぁ”と、思える当時の日本車は、広告代理店の担当者らが、頼まれて、むりやりアイディアをひねりだしたものではない。自動車メーカーのなかのクルマ好きが、こういうクルマに乗りたい! という願望をもとに作り出したコンセプトが多い。
なかには、世界中のメーカーがいちどは挑戦する”小さな高級車”や2つの車型のいいとこどりをめざしたクロスオーバーも含まれる。
問題があるとしたら、メーカーじしんが、いまひとつ、それらの商品に自信をもてなかったのか、それともセールスの数字を短期的に追いすぎていたことだ。
そのため、このセグメントでもうすこし経験を積んで、コンセプトを熟成させていったらいいクルマになりそう、と思えたものでも、1代きりで姿を消してしまうこともめずらしくなかった。
(1)トヨタ「プログレ」
1998年に登場したトヨタ「プログレ」(と姉妹車「プレビス」)は、外寸はコンパクトで、内装は豪華、という”ちいさな高級車”をコンセプトに開発されたセダンだ。4500mmの全長のボディは、当時のマークII(4760mm)よりぐっと凝縮感があった。
いっぽう、ホイールベースはマークIIが2730mmのところ、プログレは2780mm。トヨタ自動車が真剣に新しい世代の高級車づくりにチャレンジしたことがわかるではないか。
エンジンは直列6気筒で、後輪駆動。排気量2997ccの「NC300」と、2491ccの「NC250」が用意された。走りもそこそこパワフルだったし、乗り心地も快適だった記憶がある。
気合いが入っていたのはインテリアの仕上げだ。シート表皮は、1980年代までの米国車を思わせる、ひだがたっぷり入ったソフトなレザーか、高級なジャカード織りが選べた。
「ワールドプレステージクラス」をうたった「ウィンダム」などを思わせるデザインのダッシュボードには、本物のウッドがふんだんに張られ、ステアリング・ホイールもレザーとウッドのコンビネーションという凝りかた。
そもそもはクラウンに乗る夫婦の“奥様”のために開発したコンセプトだったとか。市場での評価は(開発陣の狙いどおり)高く、トヨタ店からも同種の商品の要望があったため、2001年に「プレビス」という姉妹車が開発されたほど。
このままこのセグメントは定着するかという見方もあったそうだ。しかし、あいにくトヨタのなかではレクサスの日本展開の青写真が出来上がったため、プログレで開発した市場はレクサスでカバーする、ということになったと聞く。
クルマのサイズが大きくなりすぎた感のあるいま、プログレのようなコンセプトこそ日本に合っているように思える。「iQ」(2008年)とともに、トヨタにまた挑戦してほしいエバーグリーンの魅力をそなえている。
(2)日産「プリメーラ」(2代目)
英国製の日産車として話題になった「プリメーラ」。1990年に初代が登場し、1995年にフルモデルチェンジを受けた。全長4430mmと比較的コンパクトな外寸ながら、室内は広く、前輪駆動ながら1988年の「シルビア」などで”名を馳せた”元気のいいSR20DEエンジンによる動力性能も印象的なモデルである。
専用のスポーツサスペンションをそなえた「2.0Te」の設定など、走りも気持ちがいい、という当時の日産のクルマづくりの王道をいくモデルだった。
同時に、「プリメーラUK」なるテールゲートをそなえた4ドアファストバックモデルが、初代につづいで2代目にももうけられた。1997年に追加設定されたこのモデルは、スコットランドに近いイングランド北東部サンダーランド市に日産が設立した英国工場で生産された。英国をはじめ欧州がメイン市場だった。
初代のセールスの成績がよかったため、この2代目では「プリメーラカミノ」の名で、もうひとつの販売系列用のモデルが開発されている。プリメーラが「ウインググリル」であるのに対して、プリメーラカミノはちょっととってつけたような細かい縦バーグリルを採用した。これは似合わなかった。
細部がおろそかになるのは、デザインの力、いや商品開発力そのものが衰えた証拠ではないか、と(よけいなことながら)私も危惧したものだ。じっさい、このあと販売面でトヨタに大きく水を空けられるようになり、2000年からはいわゆる「ゴーン体制」下に入ったのである。
(3)ホンダ「アヴァンシア」
乗用車にはさまざまなかたちがあってもいいじゃないかとばかりに、ホンダが1999年に送り出したのが「アヴァンシア」だ。なによりユニークだったのは、ワゴンでなくあくまでも乗用車、というコンセプトを裏書きするような、パッケージだ。
ひとつには、ロングルーフを採用したボディ。テールゲートをそなえているものの、ルーフの後端までゲートがまわり込み、そこにはガラスがはまっている。あくまで後席乗員を意識しての、ユニークなグラスルーフの変形デザインなのだ。
後席乗員重視といえば、前後席ウォークスルー化のパッケージも同様である。シフトレバーはダッシュボードにわざわざ移されて、前席のセンターコンソールをほぼ廃止。2765mmの前輪駆動というパッケージを活かした広い室内空間内での移動を可能にしたのもセリングポイントだった。
そんなに室内で移動したいのか、そこはよくわからないものの、ファミリー向けとしたら、たとえば現在のマツダ「CX-9」のパッケージの先取りともいえる。
おそらく発売前から大きなセールスを期待していなかったのではないかと思われる独自コンセプトのアヴァンシア。あえて世に出したのは、高級車(レジェンド)もSUV(CR-V)もスポーツカー(S2000)も軽自動車(ライフやZ)も、と広範囲のラインナップを敷いていた当時のホンダのイケイケぶりのおかげだろう。
私は当時からアヴァンシアのコンセプトはおもしろいと思っていた。ルノーあたりが好きそうなデザインで(じっさいにルノーのデザイナーは「好きです」と言っていた)、フロントまわりをはじめ、もうすこし洗練の度合いを深めていけば、もっともっといいクルマになった可能性を感じる。でも、2003年には早々と生産中止。判断の早さが残念だ。
(4)ユーノス「800」
スタイリングは品よくエレガント、内容は斬新。クルマづくりに凝るマツダらしい1台が、1993年に登場したユーノス800だ。ユーノスは「マツダ5チャンネル計画」に従って作られたブランドで、ロードスターも最初はここから発売された。
なにより特徴的なのは、パワーユニット。前輪を駆動するV型6気筒エンジンには、通常の「吸気−圧縮−燃焼−排気」のサイクルをもつ「オットーサイクル」でなく、吸気バルブの閉じるタイミングを最適制御して過給器(ターボを含むスーパーチャージャー)つきのエンジンでも圧縮比を下げず、熱効率の高さを追求できる「ミラーサイクル」が搭載されたのが画期的だった。
世界初のミラーサイクルエンジン搭載車として開発された800は、「リショルムコンプレッサー」(ねじれたローターを組み合わせたスーパーチャージャー)を装着。それでも、圧縮比は10.0対1とかなり高かった。
全長4825mmとけっこう大きなサイズで、ホイールベースも2745mmもあった。後席も重視したパッケージである。いっぽう、リアウィンドウは少し寝かせて、かつリアクオーターピラーに窓を設けないなど、あくまでドライバーズカーとしてのキャラクターを追究。ちょっと中途半端感があったのも事実だ。
2000年にはコストがかかるのに販売が思わしくないミラーサイクル搭載モデルは廃止。当時トヨタ「アリスト」が500万円に近づく価格だったので、300万円少々の価格は高すぎることはなかったことを考えても、残念。もうすこしふんばってほしい、と思ったのは私だけではなかったはずだ。
(5)スズキ「ツイン」
ニッチ(すきま)市場が得意なスズキが、2003年に発売した「ツイン」は、全長2735mmと、通常の軽自動車(3395mm)よりうんとコンパクト。日本版スマートともいえる完全2人乗りのパッケージが最大の特徴だ。
もうひとつ、ユニークな点は、658ccの直列3気筒エンジンと変速機のあいだにモーターが入れられたパラレル式ハイブリッドシステムを採用したこと。楽観的な燃費がでる「10・15モード」ではあるものの、メーカー公表の燃費はリッターあたり34kmだった。
ただし、生産は2005年で打ち切られた。当時、東京の路上ではキュートなツインを見かける機会も多く、シティラナバウトのあたらしいカタチとして注目していた。
それだけに、短い期間での生産打ち切りは残念だった。メルセデス・ベンツはスマートにこだわり、いまではEV化して次世代向け商品に”進化”させている。そこを参考にしてほしかった。
ツインで惜しいのはスタイリングだ(個人的意見)。日本でも一時期販売された欧州フォードの2ドアハッチバック「Ka」(1996年)を彷彿させるバンパーとフェンダーまわりや、フィアットの初代「パンダ」のような5本スリットといったディテール処理……。
スズキは“どこかで見たデザイン”から離れられない。そこをもっと真剣に詰めて、日本の街の足として長いモデルライフを与えてほしかった。好きだったので、あえて苦言。
文・小川フミオ
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みんなのコメント
せっかく高い金を払うのなら大きく広いほうがいい、特にセダンなら尚更だ、それが日本の高級車として築いてきたステータスなのだからしょうがない。