進まぬライドシェア導入の障壁
日本版ライドシェアの導入が全国の自治体で進んでいるが、その実現には大きな課題がある。それは「高齢者はアプリを使わない」ということだ。
【調査結果を見る】「日本版ライドシェア」の理解度はわずか34.9%、新たな「海外型ライドシェア」には6割が不安!さらに、8割が海外へのデータ送信に懸念!
高齢者がスマートフォンを持っていないわけではなく、実際には持っていることも多い。しかし、タクシーを呼ぶ際にはアプリではなく、電話を使う習慣が根付いている。
この問題は、国土交通省の当初の方針にも影響を与えているようだ。若年層と高齢者ではライフスタイルが大きく異なり、省庁が推進する事業は基本的にユニバーサルサービスを前提としている。そのため、
「特定の世代に向けた交通サービス」
を展開するのは難しいという現実がある。
本稿では、日本版ライドシェアが直面している「高齢者とアプリ」の問題について掘り下げていく。
地方のライドシェア導入障壁
筆者(上原寛、フリーライター)が常連客として訪れる静岡市のある温泉施設のレジカウンターには、
「地元タクシー会社と直接つながる電話」
が設置されている。この温泉施設の前には、しずてつジャストラインのバス停もあるが、静岡市の路線バスは市中心部を経由するルートが基本となっている。そのため、直接自宅と温泉施設を往復したい場合、利用者は自家用車かタクシーを選ぶことが多い。
近年、静岡市のタクシー会社は配車アプリとの連携を強化しており、DiDiが主流となっている。しかし、この温泉施設周辺では、アプリを使ってタクシーを呼ぶ人はほとんど見受けられない。理由は、前述のとおり、直通電話が設置されているからだ。このように、日本では「タクシー直通電話」がひとつのインフラとして定着している。
「日本版ライドシェアはタクシーの補完」
という表現は、筆者の知る限り朝日新聞が最初に用いたものであり、国土交通省の懸念は、果たしてアプリを使って日本版ライドシェアの車両を呼ぶ人がどれほどいるのかという点に集約されている。
アプリ普及進展の地域差
スマートフォンを使えない人はどのようにライドシェア車両を呼ぶのか、という課題は、以前から国土交通省内で議論されてきた。
2024年2月に開催された令和5年度第1回自動車部会で使用された資料「地域交通における「担い手」「移動の足」不足への対応方策について」には、この問題に関する内容が盛り込まれている。
資料によれば、配車アプリの導入が進んでいる地域では、タクシーが不足している時間帯や期間がデータとして明確に示されている。一方、アプリが普及していない地域では、どのように対応するかが課題となっている。具体的には、次のような対策が提案されている。
・まずは、無線配車の状況、関係者ヒアリング等により、不足状況を分析し、その不足分について、地域の自家用車・ドライバーを活用
・今後、アプリ導入を促進し、デジタルデータでタクシーの状況を見える化
特に注目すべきは、
「今後、アプリ導入を促進し」
という部分だ。利用者がアプリを利用することで、そのデータが蓄積され、最終的にはビッグデータとなる。これにより、日時ごとの利用パターンが明確に可視化される。アプリの普及が進んでいない地域では、アプリが浸透するまで従来の配車方法を基にデータを収集することが予想される。つまり、タクシーの無線配車は最終的にアプリに置き換わるという前提があった。
しかし、2024年後半になって、この前提に変化が見られるようになった。
9月の大きな変化
国土交通省の物流・自動車局旅客課長は、2024年9月10日付で、各地方運輸局自動車交通部長および沖縄総合事務局運輸部長宛に「配車アプリを使用しない自家用車活用事業の導入について」という事務連絡資料を発表した。
「自家用車活用事業(以下、「日本版ライドシェア」という。)は、運送の引受け時に発地及び着地が確定している運送であることが必要なほか、事前確定運賃に準じた運賃・料金であることが必要なため、これまで、配車アプリを使用した日本版ライドシェアが展開されてきた。他方、十分に配車アプリが普及していない地域においても、タクシー不足を補完して「移動の足」を確保していくため、タクシー事業者や自治体から日本版ライドシェアに取り組む意向が示されているところである。このため、配車アプリを使用しない日本版ライドシェアの導入に当たっての具体的な手順等について、下記のとおり明らかにする。また、別添のとおり、ガイドラインも作成したので、管内のタクシー事業者に周知されたい」
以下、同様に引用する。
1.配車依頼への対応について
(1)利用者から配車アプリ以外の手段で配車依頼があった場合において、日本版ライドシェアによる運送サービスを提供する際には、タクシー事業者は、利用者から事前に承諾を得ること。
(2)タクシー事業者は、利用者から乗車地点及び降車地点を聞き取ったうえで、電子地図(一般的に流通しており、地図情報が定期的に更新される仕組みを持ったものに限る。以下同じ。)を用いて、合理的なルート(最短距離のルート等)及び運賃・料金を提示し、利用者の同意を得ること。
(3)運賃・料金については、電子地図を用いて算出したルートの距離制運賃(時間距離併用制運賃を除く。)に、地方運輸局長等が定めた係数(係数が定められていない営業区域については、人口規模別のみなし係数)を乗じて算出すること(1円単位を四捨五入して算定するものであること。ただし、100m単位の表示となる地図を使用する場合は、100m単位で判断すること)。
(4)各種割増及び割引を適用すること。ただし、通常時間帯と割増時間帯をまたぐ可能性のある場合においては、配車時にそれぞれの時間帯の比率を確定し、割増時間帯に割増運賃を適用できることとする。
(5)各種料金は事前確定運賃とは区分して適用すること。
(6)運送途中で利用者の都合によって走行予定ルートや目的地を変更する場合は、自家用ドライバーは営業所に連絡し、変更地点を経由地として、新しい目的地までの距離を算出し、その総距離に応じて運賃を算出すること。
(7)利用者による対価の支払いは、現金でも可能である。
(配車アプリを使用しない自家用車活用事業の導入について-国交省)
上記の流れを分かりやすく図解した資料もあり、これはフリー素材サイト「いらすとや」で配信されているイラストを組み合わせて作成されたものだ。
これらの連絡指示と図解入りガイドラインは、令和5年度第1回自動車部会で使用された資料の文言とは一致していない。
「今後、アプリ導入を促進し、デジタルデータでタクシーの状況を見える化」
という方針は撤回され、今後も電話を利用したタクシーおよび日本版ライドシェアの配車が認められるとの解釈が可能だ。これにより、一時的な措置が長期的な方針として確立されたといえるだろう。
「高くないアプリ利用率」についての指摘
タクシー配車におけるアプリの利用率は高くないという点は、2023年から有識者の間で指摘されてきた。特に、2023年10月に神奈川県で開催された第1回神奈川版ライドシェア検討会議では、八木達也氏(いづみタクシー代表取締役)が次のように発言している。
「あとドライブレコーダーや配車アプリということですけれど、三浦市の弊社のですね、GOをアプリ入れております。それとタクシー無線を入れておりますけれども、全迎車の95%が電話のタクシー無線です。GOアプリは何と5%以下。これは先月の数字です。ほとんどアプリ使いません三浦市民。夜アプリを限定しようということで、もしかしたら飲み客とかもうちょっと進んでる可能性ありますけれども。これが倍の10%になるとも考えられず、なかなかアプリのその敷居が高いのが三浦市民ですので、ここありきということが一番考えやすいんでしょうけど、ちょっとそこのところを認識された方がいいかなというところです」(第1回神奈川版ライドシェア検討会議議事録12ページ)
八木氏は、流しのタクシーを除き、現在のタクシーを呼ぶ手段として電話が依然として主流であることを示唆している。
実際、筆者が通う温泉施設にも、タクシー会社直通の電話がカウンターに設置されており、地方都市でも同様のケースは珍しくない。このような状況では、アプリの普及には時間を要する現実がある。
電話配車の強みとアプリの課題
予見していた配車プラットフォームもある。
電脳交通(徳島県徳島市)は、2021年に日本初の電話注文による事前確定運賃サービス機能を開発し、実際にサービスを提供している。
2024年9月4日、国交省が日本版ライドシェアの電話配車対応をタクシー事業者に求めたが、それから3年も前に電脳交通は事前確定運賃を前提とした電話配車を実施していた。今後予想されるのは、
「アプリも用意しているのに、誰も使わない」
という現象だ。日本では、電話でタクシーを呼ぶ習慣が根強く、アプリの利用が広がりにくいのが現実である。このため、配車サービス提供者は
・あまり使われないアプリ
・高齢者を中心に多く利用される電話サービス
の両立に苦しむ可能性が高い。
7ヶ月での方針転換と高齢者重視
日本版ライドシェアの配車アプリに関する国交省の方針は、わずか7か月で大きく変更された。当初は高齢者にも配車アプリを使ってもらおうという方針が検討されていたが、最終的には、高齢者に使いやすい電話配車を引き続き提供するという方向に転換された。
省庁が推進する事業はユニバーサルサービスが基本という観点から考えると、誰にとっても使いやすいプラットフォームを目指す場合、その結果として高齢者向けのサービスが優先されることになる。
これは配車アプリに限った話ではなく、若者は年長者のライフスタイルやファッションを真似しないため、同じような事例が見受けられる。
たとえば、50代の父親が着ている普段着を10代の息子に勧めても、ほとんどの場合、息子はその服を選ばないだろう。実際、海外ではライドシェアが
「若者のライフスタイルの一部」
として広がった経緯がある。そのため、日本版ライドシェアが官公庁主導の事業である以上、そのプラットフォームが高齢者向けになるのは、自然な流れともいえる。
「印象」が成功の鍵
新しいテクノロジーやその活用に関する事業では、印象が極めて重要だ。ところが、日本版ライドシェアはこれまで説明されてきた施策にもかかわらず、日本経済新聞で
「アナログ・ライドシェア」
と表現された。しかし、この表現が
「日本版ライドシェアは旧態依然としている」
といった印象を与えかねない点は、事業にとって大きな足枷となる可能性がある。
日本版ライドシェアが成功するための鍵は、若者層が凄いと感じるような技術や仕組みを優先的に整備し、それを積極的に披露することだ。
もちろん、高齢者向けの配慮も重要だが、時代をけん引するのは若者であり、彼らが新しい文化を広める力を持っていることを国交省は認識すべきだろう。
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みんなのコメント
電話の向こうに待機している社員が常時いればいいのだがね。
この少子高齢化で労働人口が激減している昨今、このアナログシステムがいつまで続けられるのか。