ホンダは2024年2月1日、協調人工知能「CI」を搭載したCIマイクロモビリティの一般向け自動走行技術の実証実験を茨城県常総市のアグリサイエンスバレー常総で開始した。事前にメディア体験会が開催されたのでレポートしよう。
文/ベストカーWeb編集部・渡邊龍生、写真/ベストカーWeb編集部、ベストカー編集部、ホンダ
2030年の「クルマ社会」が見えてきた!? ホンダ独自の人口知能「CI」搭載の電動モビリティ2台を体感! 自動走行技術実証実験がスタート!!
■官民連携まちづくりモデル「アグリサイエンスバレー常総」が舞台
2023年5月にオープンしたばかりのまちづくりのモデルケースである茨城県常総市の「アグリサイエンスバレー常総」が試乗会の舞台に
ホンダの研究開発子会社、本田技術研究所は独自のAIである人口知能「HONDA CI」(Cooperative Intelligence)を搭載したCIマイクロモビリティの技術実証実験の一環として、一般向けの自動走行技術実証実験を開始。
その舞台となっているのは2023年5月にオープンした茨城県常総市の「アグリサイエンスバレー常総」。ここは官民が連携したまちづくりのモデル的な施設で、「道の駅常総」をはじめ、TSUTAYA BOOKSTORE常総IC、ボーネルンドの監修した子どもの遊び場である「kusu-guru kids park」、地元の素材を使ったスイーツショップなどが入り、にぎわっている。
この施設内には、本田技術研究所のテスト用基地にもなっている「HONDA ASV-Lav.」も入っている。今回の実証実験の場所としてアグリサイエンスバレー常総が選ばれたのも2022年11月から同市内で行われている技術実証実験の一環だ。
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■サイコマとワポチの2台を実際に試乗体験!
4人乗り仕様のマイクロモビリティ「Cikoma」(サイコマ、写真左)と、マイクロモビリティロボット「WaPOCHI」(ワポチ、写真右)
具体的には同施設内の移動用に自動走行する搭乗型のマイクロモビリティ「Cikoma」(サイコマ)と、マイクロモビリティロボット「WaPOCHI」(ワポチ)の2台がメディア体験用として用意された。
ちなみにこの2台のネーミングの由来は、サイコマが「小さい仔馬」で、ワポチが「ウォーキングサポート」+犬を意味する「ポチ」を足した造語なのだという。ワポチについては今後、派生モデルについても検討されているのだとか。
サイコマはひとり~数人までの乗員数を想定した登場型マイクロモビリティ。今回、試乗できたのは4人乗り仕様で必要な時にユーザーが呼び出し、任意の場所で降りることができる。マイカーを降りたあと、誰でも手軽にラストワンマイルを移動できる。
このサイコマ、搭載したカメラで360度周辺の環境を認識するメカニズムを採用。交差点やカーブなど交通環境だけでなく、歩行者や車両の進行方向などから自車位置近くにいる歩行者や自転車などの状態を把握し、その行動と潜在的なリスクを予測する。
ちなみに自動運転に有効とされる「高精度地図」については採用していない。サイコマに搭載されたセンサーやカメラだけで適切な走行速度や走行可能な領域を判断し、歩行者や自転車が入り混じったシーンでも自動で移動することが可能だという。
茨城県常総市では2023年10月より、安全監視員が同乗しながら自動走行についての技術検証を行っており、「歩車共存エリア」での自動走行や一般車両との譲り合いによる一般道との交差点の自動通過を行っている。
■まるで自分の相棒と会話しながら自動で移動?
手を振って合図を送るとサイコマは停止してくれる
サイコマはステレオカメラと単眼カメラを組み合わせることで高精度地図がなくても、そして複雑な障害物があるような未知の場所でも走行できるのがウリ。そこで、実際に体験試乗会では、サイコマとのコミュニケーションを専用アプリ搭載のリスト型スマホで実施した。
まず、スマホの専用アプリでお迎えを依頼して「ブックカフェまで迎えに来て」というと、すかさずスマホ上でこちら側の意図を確認するように「お迎え先はブックカフェでいいですか?」と聞いてくる。まるで人間同士で会話しているかのようなのだ。
ガジェット感のあるサイコマ専用アプリを搭載したスマホ
実際にサイコマが迎えにきたので、指示された位置まで歩み寄り、サイコマに手を振って合図を送るとその姿からユーザーを認識する。こいつはめちゃくちゃ賢いじゃないか!
さらに、移動中にユーザーがほかの場所に行きたくなったらその意図を理解するだけでなく、実際の交通シーン、つまり停車場所にこちらが指定したところがちょっと危険な場所だった場合には適切な停止位置を再度依頼するようにこちらに伝えてくる。
なんというか、クルマに乗らされているというよりも自分の相棒的なロボットと会話しながら移動を楽しんでいるかのような感触。人と人同士による会話のキャッチボールがAIである「CI」によって実現しているのだ。
後ろからランナーが近づいてきた場合、その距離が近い場合にはきちんと認識して停止するサイコマ
また、後ろからランナーが来たり、ほかの歩行者がいる場合、サイコマはシーンによって停止したり、安全だと認識した場合は安全な速度で走行したり、あたかも人間のような判断を下す。
サイコマの開発を担当した本田技術研究所の松永秀樹氏
サイコマの開発を担当した本田技術研究所の松永秀樹氏によれば「6km/h以下の低速自動運転ではほかの歩行者の距離に対していかに周りに不安感を与えないようにするのが開発上で苦労したポイント」と話していた。
■高齢者は買い物をする際の荷物の重さがネックでクルマを使ってしまう
こちらがワポチ。ユーザーの荷物を載せて先導してくれたり、あとからついてきてくれたりするけなげなロボット型モビリティだ
続いてはマイクロモビリティロボットのワポチを体験。こちらはユーザーの服の色や髪の色、背格好などをCIが抽象化することで記憶して認証するシステムを採用。30kgまでの荷物を荷台に載せることが可能で、ユーザーは手ぶらでこのワポチに人込みを先導してくれたり、追尾してくれたりする3輪ロボットだ。
本田技術研究所が常総市でアンケートを取った調査によれば、特に高齢者は買い物の時に買った荷物が多いと重くて持ちきれないため、しかたなくクルマで出かけることが多いのだという。
しかし、これが続くと歩かないことで健康寿命が低くなり、事故リスクが高まってしまう。本当は健康のために歩いて買い物に出かけたいのに、荷物の重さがネックとなってクルマを使ってしまうのが買い物をする際の困りごととしてわかった。
そこで本田技術研究所は歩行サポートによる暮らしの質を向上させるためにワポチを開発。ワポチに荷物を載せて追尾してもらうことで手ぶらで楽々街中を移動でき、高齢者の場合にはワポチに先導してもらうことで歩くスペースを確保できるのがメリットとなる。
先導モードの場合、ワポチはおおむね写真のように自分の右前側をキープしながら先導してくれる
このワポチも実際に体験してみたところ、まずは先導モードの場合は自分の右少し前に位置して先導してくれる。前からほかの歩行者が歩いてきたり、道端の側溝が近づいてきたりするとたくみによけて先導してくれるのには感心した。
後からついてくる追尾モードの場合、歩く速度に注意しないとワポチが対象のユーザーを見失ってしまうことも
ただし、こちら側があまり歩くスピードが速すぎるとワポチは対象ユーザーを見失ってしまう。このあたりは常識的な歩行速度を対象としているためのようだ。
ワポチの開発を担当した本田技術研究所の小室美紗氏
ワポチの開発を担当した本田技術研究所の小室美紗氏によれば、「監視カメラを新規開発してユーザーを特定していますが、やはり人込みの中を走行するワポチの動きをどのようにしたらスムーズにできるのかに苦心しています」とのことだった。
ワポチについて、「階段や段差など歩行者へのバリアについてはどのように想定していますか?」と質問したところ、小室氏は「まだまだ第1段階でして、今後そういったバリアに対してのAIロボットの形が見えてくると思います。その際には現在のワポチに使われている脳みそがそのまま進化したボディに採用されることになります」と見通しについて語った。
■未来の電動モビリティの形が見えてきた!
本田技術研究所知能化領域の安井裕司エグゼクティブチーフエンジニアとふたり乗り4輪電動モビリティの「Honda Ci-MEV」
最後に、このプロジェクトを統括する本田技術研究所知能化領域の安井裕司エグゼクティブチーフエンジニアによれば、今回のサイコマは2024年中に遠隔監視システムを確立させ、関係省庁との認可交渉を経て2025年中の無人自動走行の実現を目指すとのこと。
また、ジャパンモビリティショー2023でも出展され、サイコマの技術を搭載したふたり乗り4輪電動モビリティの「Honda Ci-MEV」を2024年夏、常総市内での技術実験に投入予定であることも合わせて発表された。
ホンダはサイコマやワポチなどの実用化によって「交通事故ゼロ社会」と「移動と暮らしの進化」を2030年代に実現させることをロードマップに掲げているが、今回のデモンストレーションでその一端を垣間見ることで、未来へのワクワク感が湧いてきた!
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