自動車メーカー直系チューニングブランドであるTRD(トヨタ)、NISMO(日産)、STI(スバル)、無限(ホンダ)の4社で構成される「ワークスチューニンググループ」。主戦場のモータースポーツではしのぎを削るライバルだが、“サーキットの外”アフターマーケットでは、互いに競合しない立場にある。そこで、各社が情報交換をしながらそれぞれのブランドのレベルアップと商品開発の効率化を目指している。また、モータースポーツやスポーツドライビングの振興を目的に、毎年各地でサーキット試乗会などの活動を合同で行っている。
その活動の一環としてメディア向けの合同試乗会を実施。各社こだわりのアイテムを装着したマシンを一気に試せる機会を設けている。2019年は、前回まで2年連続で開催された群馬サイクルスポーツセンターから「ツインリンクもてぎ」の北ショートコースに場所を代えての開催となった。
【試乗】第二世代GT-Rをリファインする 2019ワークスチューニンググループ合同試乗会-NISMO編-
その活動の一環としてメディア向けの合同試乗会を実施。各社こだわりのアイテムを装着したマシンを一気に試せる機会を設けている。2019年は、前回まで2年連続で開催された群馬サイクルスポーツセンターから「ツインリンクもてぎ」の北ショートコースに場所を代えての開催となった。
TRD編
スープラをエアロと足でキメる
TRDの注目はGRスープラ。SZ-Rはサスペンションがノーマル、エアロパーツとタイヤホイールを装着したドレスアップ仕様、RZはエアロとタイヤ・ホイールに加えてヤマハの新技術「TRAS」を搭載したサスペンションキット、パフォーマンスダンパーを装着したライトチューニング仕様で、上質でしなやかなハンドリングを追求している。
「TRAS」は「REAS」の進化版
スープラのテーマは「上質でしなやかなハンドリング」。その要となるのが、ヤマハが開発したショックアブソーバー、TRAS(トラス)とパフォーマンスダンパー。ヤマハとスープラの関係で記憶に新しいのが、「REAS(Relative Absorber System)」である。先代A80型の1997年のマイナーチェンジでトップグレードのRZに搭載された相互連携ショックアブソーバーシステムだ。左右輪のショックアブソーバーの間に介在するREASバルブで走行中のクルマの左右の揺れをしなやかに抑える機能を発生させながら、タイヤの接地性を大幅に向上させることで、快適な乗り心地と優れた操縦安定性を両立させる機構として注目された。現在ではトヨタが北米で販売している4ランナーの一部グレードに「X-REAS」が搭載されている。リアスはREASバルブ、ガス室、フリーピストンで構成されるセンターユニットと、左右ショックアブソーバーを連携・連結させるオイル流路が必要で、コストや工数が増えることから、これに代わるシンプルな機構としてトラスが開発された。ちなみにTRASとは(Through Rod Advanced Shock Absorber)の略称だ。
ロッドを引き戻す力で制御する
トラスはリアスの進化版という位置付け。通常の単筒ガス式ショックアブソーバーはピストンの片側(オイル室側)のみにロッドが設けられ、ガス圧をかけるとオイルにガス圧が乗り、ピストンロッドを上に押し出そうとする力(プラス反力)がかかるが、トラスではガス室側に主ロッドより大径の副ロッドを設けて、2つのロッドの受圧面積の差を利用してマイナス方向に反力を生み出す仕組み。ガス圧をかけるとロッドが引き込まれることから「スルーロッドタイプ」と呼ばれ、フォーミュラマシンなどに使われている。
トラスで着目したのがコーナリングでの内輪の使われ方。ピストンロッドにプラス反力が出ていると外輪側のショックが縮む(=タイヤが沈み)、内輪側はショックが伸びる(=タイヤが浮く)。旋回性を高めるうえで内輪の浮きは好ましくないので、トラスの開発過程ではゼロ反力からマイナス反力でさまざまな状態を再現。結果、マイナス反力にすると内輪の浮きが抑制され、旋回中の接地感が高まることが判明。路面に吸い付くような安定感のあるハンドリングが得られ、滑らかな乗り心地が体感できるという。
スープラはフロントが倒立タイプの単筒式、リヤも単筒式でストロークとオイル量を確保するために別タンクを設けた。
トラスはフラットな路面を走っているときには、すでにショックアブソーバーが「縮もう」とする準備ができている(従来のショックアブソーバーは伸びきった状態から縮むので応答遅れが出る)ので、突起や段差の乗り越しでスムーズに縮んでくれる。コーナーでは入力が小さな状態から外輪側が縮み、内輪側は浮きを抑える力が作用する。開発スタッフによると、こうしたトラスの特性を生かして旋回初期から外輪が沈む「沈みロール」の姿勢を狙ってセッティングを施したという。沈みロールの逆現象が「浮きロール」で、旋回時に内輪側が浮き上がる現象を指す。浮きロールは自重がかかったときの反力で車体を押し戻そうとする力がステアリングに伝えられ、操舵が重く、フリクションも大きく感じられる。対して、沈みロールは旋回中の車体姿勢・操舵感ともに素直なフィーリングが得られるというわけだ。
常用域でもTRASの効果は十分に感じられる
スープラRZの試乗コースは一般道を想定してツインリンクもてぎの外周路が指定された。まずは目視でも起伏がハッキリわかる大きな段差(左輪は凹み、右輪は凸になっている)を乗り越してみる。すると、左右輪の動きがバラつかず同じタイミングで動くことに驚かされる。ボディが上下に揺すられないので乗り心地がよく、ミニバンやSUVに装着したら(ヤマハではこれらの車種にも実装して検証中)同乗者のクルマ酔いを防げそうだ。
コーナリングではトラスが狙ったとおり、イン側の接地感の高さが際立った。旋回スピードを上げていってもアウト側が沈んでイン側が浮く(インリフト)の兆しはまったく見せない。スープラのような大パワーのFR(後輪駆動)でキモとなる後輪は、イン側のショックアブソーバーとばねがタイヤを路面に押えつけ、しっかり接地感を保っているので、まるでレールの上をトレースしているかのような安定感のある走りを堪能できた。ちなみに、リヤサスは減衰力を上げていくと「突っ張り」やすくフリクションが目立つ傾向にあったので、パフォーマンスダンパーで程よく「いなし」を効かせることで路面への追従性を高めている。価格・販売時期などは未定だが、スープラを皮切りに86やプレミアム系のミニバン、SUVなど他車種への展開も期待したい。
アウトドアに映えるRAV4カスタマイズ
「RAV4フィールドモンスター」は、アジアクロスカントリーラリーなどのオフロードレースにも参戦するTRDの知見を生かし、ベース車の持つタフな世界観を軸にスタイリングで強調したデモカー。ノーマルとの「代わり映え」感をしっかり表現しつつ、アプローチアングルなどのアウトドアユースにも考慮したデザインになっている。サイドタフプレート(試作品)はRAV4の持つSUVらしい力強さを強調するアイテムで、乗降性を高めるステップの役割を果たす。
空力とドレスアップ効果両立
「プリウスアグレッシブスタイル」は、TRDのノウハウを注ぎ込んだ空力効果でレベルアップした走りと、ドレスアップ性を両立したスタイリングに注目。TRDのエアロパーツは車種を問わず前後バランスや、車両とのバランス、そして整流を重視して開発している。ボディ補強パーツも同様に、ボディという「ばね」全体の剛性をアップさせるという考え方で開発。ボディの変形をゼロにはできないので、車両全体が均一に変形するように弱い部分をパーツで補強。操舵に対しシャープで素直なクルマの動きを目指した。
アルミテープで効果的に整流
TRDではエアロパーツの裏側にアルミテープを装着しているものがある。その目的は前後バンパーにアルミテープを貼ることでボディのプラス帯電を取り除き、ボディサイドの空気の流れをスムーズな状態に戻すことで、直進安定性や操舵安定性を改善させること。たとえば、RAV4の「ストリートモンスター」では、ロールしたときにフロントのイン側が浮き上がりやすくなることから、フロントスポイラーのカナード面のダウンフォース(車体を路面に押さえつける力)を高めるためにカナードの裏面に片側2枚ずつ、左右計4枚のアルミテープを貼ってダウンフォースを増やした。それに合わせてリヤスポイラーはディフューザー面に左右1枚ずつアルミテープを貼って接地性を向上。開発スタッフによるとテープを貼る位置や枚数は実走しながら定めているそうで、RAV4の場合は前後バランスとロール姿勢にこだわってチューニングしたという。
<文=湯目由明 写真=山内潤也>
TRD(トヨタレーシングディベロップメント)
https://www.trdparts.jp
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