2022年の新車販売で日本を抜いて世界3位になったインド市場で、最大シェアを誇るのがマルチ・スズキ。2023年1月に開催されたインドのモーターショーではジムニー5ドアを発表したことでも話題だが、どんな自動車メーカーなのか? そして、インドで圧倒的に売れている理由や人気のあるクルマは何なのか?
※本稿は2023年2月のものです
文/ベストカー編集部、写真/ベストカー編集部、スズキ
初出:『ベストカー』2023年3月10日号
スズキ版レクサスもある!? インドシェア4割超え!! なんでインドはスズキがバカ売れするの!?
■インド市場を席巻するマルチ・スズキとは?
マルチ・スズキは輸出も行っており、2021年2月には累計輸出台数200万台を達成している
ついに、日本がインドに抜かれてしまった。国別の2022年自動車販売台数で、日本の420万台に対してインドが472万台に達し、これで中国、アメリカに次いでインドは世界第3位の自動車大国の座を初めて獲得した。
そのインドの乗用車市場で4割強のシェアを誇るのが、マルチ・スズキだ。
同社の始まりは現在から41年前の1982年4月、インドの国営企業のマルチ・ウドヨグとスズキが四輪車の合弁生産で基本合意したところから始まる。
当時、社長就任から4年弱だった鈴木修社長とスズキの経営陣の大英断とも言われた。なぜならば、当時のインドと日本との関係は限定的で、一般の人にとってインドは観光地としてまだマイナーな存在であり、また進出している日本企業も少なかったからだ。
当然、日本の自動車メーカーとしては実質的に初のインドでの生産となった。
ようするに、マルチ・スズキはインド政府公認のスズキのインド事業会社なのである。
こうしてマルチ・スズキは始動したのだが、日本国内での軽自動車をベースとしたクルマをインド市場に適合させることから事業を積み上げていく。
当時、インドの市場規模はまだ数十万台レベルであり、たとえ軽自動車がベースとはいえ、インドの庶民にとって乗用車は“高嶺の花”だった時代である。
スズキとしては「インドでスズキ車の販売台数が伸びればいい」という商売第一という姿勢ではなく、「インドの人たちの生活が、クルマによって豊かになるには、どうすればいいのか?」という社会を見渡すという、公的な立場としてインド社会に対する重い責任があったと言えるだろう。
また、インド国内で新車を高い品質で製造するための技術の伝承についても、文化の違いを含めてさまざまなハードルがあったものと推測できる。
見方を変えると、これまでマルチ・スズキに直接関わった人たちだけではなく、マルチ・スズキのクルマが世の中に徐々に広まっていくなかで、ユーザーが「自分たちの生活を支えてくれる大事な存在」としてマルチ・スズキを尊重するような社会の雰囲気が広がっていったと言えるのではないだろうか。
■スズキの関連企業というより自国の企業というイメージ
ニューデリーにあるマルチ・スズキ本社。マルチ・スズキは1983年にマルチ800の生産・販売を開始し、2023年1月9日にはインド国内累計販売2500万台を達成。約3500店の新車販売店を持つ
そのため、実際にインド各地を巡ってみると、マルチ・スズキが日本から来たスズキの関連会社というイメージではなく、あくまでもインドのメーカーという意識を持っているユーザーがとても多いことに気づく。
これこそが、マルチ・スズキとほかの自動車メーカーとの大きな違いである。インド地場メーカーで鉄鋼などさまざまな事業を展開する大手グループであるタタや、マヒンドラ&マヒンドラと比べても、インドのユーザーのマルチ・スズキに対する信頼度はそれらと同等、またはそれ以上と言えるのではないだろうか。
このように、マルチ・スズキは、インド自動車業界と同調して成長し、いまやスズキ四輪事業全体282.2万台の59%を占める165.9万台をインドで生産するに至っている。
■インドで売れている人気のマルチ・スズキ車は?
バレーノやイグニスはスズキ版レクサスともいえる高級ブランド「ネクサ」で販売中。じつはコレ憧れの的なのだ
インドでの直近、2022年12月の人気乗用車ランキングで見ると、第1位が「バレーノ」。バレーノと言えば、マルチ・スズキから2010年代後半に日本に輸出され国内販売されていたが、日本の市場には上手くマッチできずに姿を消している。
2022年に登場した最新型は、マルチ・スズキがプレミアムハッチバックと表現しているが、コンパクトな1.2LクロスオーバーSUVといったイメージがある。
スマホ連携を筆頭に通信によるコネクティビティを充実させていることも、インドの若い世代から支持を得ている理由であろう。
インドで2番目に売れているのがコンパクト3列シートミニバンのエルティガ。現行型は2代目で、1.5Lマイルドハイブリッドエンジンなどを搭載
続く第2位「エルティガ」は、経済新興国での人気が高い小型3列7人乗りミニバンのMPV(マルチ・パーパス・ヴィークル)だ。全長4395mm×全幅1735mm×全高1690mmで、ホイールベースは2740mm。主力エンジンは1.5Lマイルドハイブリッドを積む。
第3位は日本でもお馴染みの「スイフト」である。インド市場では、スポーティでスタイリッシュなボディデザインが根強い人気。
エンジンは1.2Lで、スイフトの真骨頂であるキビキビした乗り味は、インドの広い世代から「走りやすい」と高い支持を得ている。
■現在は軽ベースではなく小型ハッチやSUVが人気
2008年に誕生したディザイア。スイフトのセダン版で、現行型は2017年発売。1.2Lエンジンなど搭載
第4位のインド地場タタのコンパクトSUV「ネクソン」を挟んで、第5位もマルチ・スズキで「ディザイア」だ。
こちらはコンパクトな4ドアセダンで、全長3995mm×全幅1735mm×全高1515mmで、ホイールベースは2450mm。主力エンジンは1.2Lである。
近年は市場トレンドがセダンからSUVにシフトしている印象があるが、ディザイアは広い世代に売れている。
2022年6月に一新したコンパクトSUVのブレッツァ。1.5Lマイルドハイブリッド搭載
そして、第6位は「ブレッツァ」。こちらは、2016年に発売した「ビターラ ブレッツァ」の後継モデルとして2022年にデビュー。全長3995mm×全幅1790mm×全高1685mmのボディサイズで、1.5Lマイルドハイブリッド車となる。
マルチ・スズキの資料には都会派SUVとあるが、ボディデザインはオフロード系のイメージも強い。
このように、以前のような軽自動車ベース車はなく、日本国内でも充分通用しそうな最新モデルがインドで並ぶ。
■マルチ・スズキの持つ今の問題点と今後の期待とは?
2023年1月のインドのオートエキスポ2023で公開されたスズキのEVコンセプト「eVX」。写真左はスズキの鈴木俊宏社長、右はマルチ・スズキの竹内寿志社長
インドの人口は14億人を超え、早ければ今年には中国を抜いて世界トップに立つ可能性もある。
また、年齢分布で中国より全体的に若い人が多いため、今後も自動車の購買力は力強いだろう。
そんなインド市場だが、韓国のヒョンデとキアの猛追を受けているマルチ・スズキはうかうかしていられない。そうしたなかで注目されるのがEV市場への本格参入だ。
今年1月にニューデリーで開催されたオートエキスポ2023で「eVX」を発表。2025年までに量産予定で、スズキにとって初となる世界戦略EV第一弾のコンセプトモデルである。
ボディサイズは、ざっと「エルティガ」級で電池容量は60kWh、航続距離は550km。インド西部のグラジャート州にEV専用工場も建設する。EV開発ではトヨタとも協業する。
となると、EVではインド発で日本向けのEV市場拡充を狙うのかもしれない……。
今後もマルチ・スズキから目が離せない。
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みんなのコメント
ホンダ推しやけど中国なんてバカな国を市場にしとるホンダは先見の明がなかったんやろなあ
修の存在は偉大やったな