ドイツの首都ベルリンはドイツの中でも北側、しかもかなり東側に位置しています。そうした地理的な理由もあって、ベルリンではオペルのクルマを見かけることが非常に多いです。ベルリンの警察車両はオペルなので、文字通りオペルを見かけない日はありません。筆者が今回ご紹介するクルマに出会った時の第一印象も「あれ?オペル・モンツァにオープンモデルなんてあったかな?」という軽いものでした。ところが…
生産数144台の希少なコンバーチブル
夕日に佇むかつての旧西ドイツ・ナンバー1のベストセラー車、オペル・カデットB
近付いてよく見てみると、目立つところにオペルのマークは付いていません(リアウインドウにオペルのステッカーが貼られていましたが)。代わりにKeinath(ドイツ語読みでカイナス)KC5という、モデル名らしきエンブレムが確認できました。全体的にはオペル・モンツァのデザインなのですが、クローム仕上げのマフラーといい、黒のレザーシートといい、ただならぬ雰囲気を醸し出しています。
「これはちょっと調べねば…」ということで写真を撮り、調べた結果判明した車名は「オペル・モンツァ・カイナスKC5」。オペル・モンツァの特別仕様車で、たった144台のみしか作られなかったコンバーチブルモデルだったのです。
オペル・モンツァは、1978年から1986年にかけて生産されたラグジュアリークーぺです。2013年のフランクフルトショーで公開されたコンセプトモデル「モンツァ・コンセプト」の由来も、もちろんこの初代モデル。モンツァは大きく分けて1982年までに生産された前期型A1と、後期型A2に分けられます。今回ご紹介するカイナスKC5は、後期型A2をベースに製作されました。
カイナス社が架装を担当
コンバーチブル化を担当した会社は、モデル名にも名を残すカイナスという会社です。1990年代後半にカイナスGT/R、2000年代初頭にカイナスGT/Cという、オペルのV6エンジンを使用したオリジナルのスポーツカーを開発するようになりますが、2003年には会社自体が倒産してしまい、現在は存在しません。
モンツァ・カイナスKC5のベースになったモデルは、モンツァの最高級グレードであるGSEでした。3リッターの直列6気筒エンジンは180馬力を発生。欧州車で初めてデジタル液晶ディスプレイを装備するなど、当時最先端のモデルでした。ここにカイナスが手を加え、油圧と電気で作動する幌を取り付け、高級レザーでシートやステアリング、内装を仕上げました。全長4720mm、全幅1728mm、車重1410kgのゆったりとしたボディを205km/hまで引っ張る、エレガントな4座コンバーチブルを作り上げたのです。
VWにおけるカルマンに近い存在?
オペルをベースとするチューニングやコンプリートカーの会社というと、日本ではイルムシャーが有名でしょうか。オペルと関係が深かったGMグループつながりで、いすゞのジェミニ、ビッグホーン、ピッツァなどにも名前を残していました。イルムシャーに比べると、カイナスはどちらかというとカルマンなどに近いスタンスでコーチワークを担当していた、と言った方が正しいのかもしれません。
どこかアメリカ車を思わせる、ゆったりとした優美なスタイリングに、懐かしいデザインのメッシュホイール。
雨上がりだったので多少泥跳ねはありますが、幌の状態も含め全体的に良いコンディションで、オーナーが大事に乗っている様子が伝わってきます。効率重視の空力デザインが幅を利かせる現代、こうした直線的デザインのクルマが登場するのは想像しにくく、そうした意味でも貴重なモデルと言えそうです。
現在ドイツは冬の真っ最中。一日中晴れている日はほとんどなく、曇りがちで朝夕は雨、という天気が続いています。まだまだ寒い時期が続きますが、その間このモンツァ・カイナスKC5は幌を閉めてひっそりと過ごすのでしょう。
春になって気持ちよくオープンで走るモンツァ・カイナスKC5を見てみたいと思うのですが、たった144台しか生産されていないこのクルマにもう一度会うのは、なかなか難しいかもしれませんね。
[ライター・カメラ/守屋健]
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