ジュネーブモーターショーでフォーミュラEマシンを初公開するなど「EVシフト」の波に乗る日産自動車は、新型リーフの開発担当者による開発秘話を公開した。「自動運転技術」「シャシー制御」「パワートレイン」「空力/燃費性能」という4つのテーマに“技術うんちく”というエッセンスを加えた、熱のこもった、とてもユニークな内容だった。
走るのが楽しくて、静かで快適! 新型リーフのテクノロジーに迫る
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日産自動車は、新型リーフの開発担当者が一堂に会し“技術うんちく”を情報発信する社内イベントを開催してきた。いわば、技術を分かりやすく発表する場であり、社員全員がアンバサダーとなるような取り組みなのだという。
今回は、こうした“技術うんちく”の発表を報道関係者やジャーナリストにまで広げ、新型リーフの魅力を「自動運転技術」「シャシー制御」「パワートレイン」「空力/燃費性能」という4つのテーマで、それぞれの開発担当者がプレゼンテーションを行った。
ちなみに“うんちく”とは、「ある分野について蓄えた知識」を意味するもので、分かりやすく言うならば、その知識を聞いた人が「へぇ」とか「なるほど」という納得感が得られるものを指す。つまり、カタログやスペックでは分からない、開発担当者だからこそ知り得る“リーフのテクノロジー”の秘密が明らかにされるワケである。
本題に入る前に、新型リーフについて少しおさらいしておこう。
2017年9月に発表、翌10月に発売された新型リーフは、新開発40kWhバッテリーを採用するなど第二世代モデルとして大きく進化を遂げ、JC08モードで400kmの航続距離を実現。最大出力110kW、最大トルク320Nmを発生し、電気自動車ならではの胸のすく加速性能が味わえるのも魅力だ。
実際に新型リーフのステアリングを握ると、エンジン車やハイブリッドカーでは味わうことができない、静かで快適な乗り味に魅了される。e-Pedalと呼ばれる「ワンペダル」でのドライビングもクセになる。
こうした高い商品力で累計受注台数は1万8000台を突破し、グレード比率は最上級の「G」が63%で最も多く、「X」32%、「S」5%と続く。2018年度分のCEV(クリーン・エネルギー・ビークル)補助金は1月に終了したものの、「高い商品力によって受注は堅調」(日産関係者)だという。
また、新型リーフのオーナーアンケート調査によると、初代リーフからの乗り換えが36%、ガソリンまたはハイブリッド車からの乗り換えが62%を占めるという。なかでも、自宅に充電設備を持たないオーナー比率が25%という数字には少し驚かされたが、これは各地の充電インフラが充実してきていることも影響しているのだろう。
ということで、新型リーフ開発担当者による「リーフの開発秘話」に迫っていこう。
なお、4つのプレゼンテーションについては「記者が感じた“技術うんちく”度」として、5点満点で評価した。皆さんの感じた評価との違いを楽しんでほしい。
その1 「駐車を楽しく! カメラと超音波センサーのフュージョン技術」
まず、自動運転技術の開発担当者による「駐車を楽しく! カメラと超音波センサーのフュージョン技術」というプレゼンテーションを紹介しよう。
リーフに搭載されている「プロパイロットパーキング」は、カメラ4個、超音波センサー12個を組み合わせることで、より正確で安全な自動駐車が可能となった。加えて、ステアリング、ブレーキ・アクセル、シフト、電動パーキングブレーキのすべての操作を自動化することで、新型リーフは『国産車初の本格的自動駐車』搭載モデルという勲章を得たのである。
複数のカメラやセンサーで得た情報を、より正確な解析・制御を行うことを「フュージョン技術」と呼ぶ。そう、このフュージョン技術こそが、プロパイロットパーキングの“技術うんちく”なのである。
リーフに搭載された自動駐車システム「プロパイロットパーキング」は、最新鋭の画像認識システムによって、わずか3つの操作で自車と駐車スペースの位置関係をリアルタイムで高速演算し、経路を補正しながら正確に目標位置へ向かう。
もしも障害物にぶつかりそうになった時は、超音波センサーでキャッチして自動ブレーキをかけて止まる。駐車場には白線が必要で、立体駐車場のパレットには非対応など、一部に条件や制約はあるものの、駐車枠の検出だけではなく、移動可能スペースも認識する。また、切り返しが必要な場合は、途中の切り返しも自動で行う。とても賢い自動駐車システムだ。
5km/hほどのクリープ走行と巧みなステアリングワークでスルスルと駐車していくその様は、まさに未来カーの象徴でもある。
「“バイ・ワイヤ”化されているリーフだから可能な技術でした」
「プロパイロットパーキングは、ステアリング、アクセル、ブレーキ、パーキングブレーキのすべてが“バイ・ワイヤ”化されているリーフだから可能になったシステムです。カメラやセンサーは、アラウンドビューモニター、クリアランスソナーといった他の装備と兼ねることで、ある意味でムダのないシステムになっています。最新鋭の画像認識システムは、リアルタイムで高速演算処理し、自車と駐車スペースの位置関係を割り出して補正することで、ズレのない自動駐車が可能となりました」
(日産自動車株式会社 電子技術・システム技術開発本部 ADAS&AD開発部 プロジェクト開発グループ 浅見 陽氏)
記者が感じた“技術うんちく”度=★★★
カメラと超音波センサーを組み合わせることで、移動可能スペースの認識、障害物の位置把握することで最適な経路を計算して走行することが可能となった。超音波センサーは、歩行者も検知し、衝突の恐れがある場合はブレーキをかけて止まる。プロパイロットパーキングは、前記した理由により、現時点では新型リーフだけに搭載されている。
その2 「高級車の静粛性とストレスフリーな加速性能」
続いて、パワートレインの開発担当者が「高級車の静粛性とストレスフリーな加速性能」というテーマで、新型リーフの魅力と”技術うんちく”を掘り下げた。
高遮音ボディを採用する新型リーフは、EVならではの「静けさ」に対して多くのテクノロジーを投入しているが、パワートレイン単体でも「静けさ」を追求している。
目指した方向性は、「静かで、すっきりとした音質」だというが、さて「静かで、すっきりとした音質」とは、どういうモノなのだろうか?
2kHz周辺の低音域ではインバーターの剛性アップやユニットの構造見直しで対応。5~6kHzの高音域ではインバーターの上にウレタン製の遮音材や樹脂製のカバーを追加することで低減。これによって、先代モデルよりも静かで心地よい音になり、高級車のプレミアムセダン並の静粛性を手に入れたという。
「ストレスフリーな加速性能」については、あらゆるシーンで心地よい加速を実現すべく、出力&トルクアップを目指した。その結果、先代モデル比で0-100km/hが−15%、中間加速の60-100km/hが−30%へと進化した。これによって、力強い発進加速とストレスのない高速合流が可能となった。
ストレスのない高速合流については、インバーターのハード&ソフトの変更によって実現した。
従来モデルでは80kWだった最大出力を110kWまで引き上げたうえ、電流制御と電圧位相制御のふたつの電流制御方法を2/10000秒でシームレスに切り換えるテクノロジーを新たに投入。これによって、0-100km/h加速のような中間加速時に必要とされるパワーゾーンの引き上げに成功しつつ、トルク段差がなくシームレスな加速が実現した。
「処理速度が2倍の高速CPUで、バッテリーの性能を引き出しました」
「静粛性については、黒板を爪で引っ掻くような不快な音域などをカットすることで、静かですっきりとした音とを実現しています。また、加速性能を高めたインバーターにはバッテリーに電流を流すパワーモジュールを備えており、ここを効果的に冷やすために、新たに冷却水路を設置しました。直接冷却することで冷却性能が高まり、最大トルクの向上につながっています。高電圧の電気回路や部品は水にとても弱いので、しっかりと濡れないようにする必要があります。シール部分を工夫し、長寿命で防水性の高い冷却が実現して問題を解決しました。さらに、出力アップには電流制御を行っており、インバーターの電圧の波形を固定して位相を制御することで電圧利用率を向上させた結果、バッテリーの電圧をフルに使える領域まで広がりました。処理速度が2倍の高速CPUを採用し、大容量化したバッテリーの性能を引き出しているのもポイントです」
(日産自動車株式会社 パワートレイン技術開発本部 パワートレインプロジェクト部 電動パワートレインプロジェクトグループ アシスタントマネージャー 丸山 渉氏)
記者が感じた“技術うんちく”度=★★★★★
力強い発進加速を実現したのは、インバーターの冷却性能アップによって制御をさらに高度化することができ、電流性能を引き出したこと。さらに、ふたつの電流制御方法によって中間加速を高めており、このふたつのテクノロジーが加速性能の“技術うんちく”だ。先代モデルに対し、トルクが25%アップ、質量25%減となり、最大トルクは従来モデルの254Nm対して320Nmまで高めた。モーターの出力アップは、主にインバーターの性能向上で対応したことが分かる。
その3 「アクセルで止まる? 回生ブレーキと摩擦ブレーキのバトンリレー」
シャシー制御の開発担当者は、「アクセルで止まる? 回生ブレーキと摩擦ブレーキのバトンリレー」について解説した。
開発のポイントは「EVを楽しく運転する」というものである。具体的には、走っていて気持ちの良い加速と減速をドライバーの支配下に置くこと。そして、街中を走っていてもアクセルペダルだけで思い通りの走りができるものを目指した。それを実現したのが、『e-Pedal』である。
e-Pedalはアクセル操作に対してクルマがリニアに反応することで、まさに「意のままの走り」を実現した。ノートe-Powerとの違いは、通常の摩擦ブレーキと回生ブレーキを組み合わせたところにある。
数値的には、ノートe-Power の0.15Gに対して、0.2Gという強い回生ブレーキを持つが、では摩擦ブレーキは、どのようなところで活用されているのか?
まずひとつは、止まる直前に摩擦ブレーキが介入して、回生ブレーキから自然にバトンが渡される。ドライバーはブレーキを踏むことなく停止状態を維持でき、再びアクセルを踏んで発進できる。
もうひとつは、滑りやすい路面で真価を発揮する。回生ブレーキだけでは前輪のみの減速となるが、車両の挙動を監視し、摩擦ブレーキとの組み合わせることによって、四輪で安定した制動が実現できたのだ。
こうした「回生と摩擦」の自然なやり取りこそが、新型リーフに搭載されたe-Pedalの“技術うんちく”なのである。
ちなみに、ブレーキランプが点灯するタイミングは法規で定められており、100%回生ブレーキの場合は0.02Gで点灯するが、リーフは摩擦ブレーキとの組み合わせなので0.07Gに設定されている。
「四輪で制動力を発揮することで、安定したブレーキ特性を実現します」
「もっとEVを楽しく運転するには、どういうクルマを作れば良いか? ということを考えていました。操作に対してリニアに動くことで、それが意のままの操作になり、ずっと運転したいという気持ちにつながります。これが結果としてe-Pedalが生まれるきっかけとなったのです。初代リーフは力強いモーターで加速に関しては申し分ありませんでしたが、ちょっと頑張って走ったときには、加速から減速への流れがスムーズではありませんでした。アクセルを戻してブレーキを踏み替えるときに空走感が出てしまう。それをアクセルだけでコントロールしよう、というのがe-Pedalです。例えばワインディングでコントロール性が上がり、コーナーの手前で一瞬アクセルを戻してフロントに荷重移動してコーナーを抜けて加速していくという加速と減速が一連の動きになります。データを見るとプロの走り以上の走りができます。雪上や氷上のような滑りやすい路面であっても、e-Pedalは真価を発揮します。e-Pedalは回生ブレーキと摩擦ブレーキを最適に配分し、後輪を含めた四輪で制動力を発揮することで安定したブレーキ特性を実現します。これはモーターによる回生ブレーキだけでは実現できないことなのです」
(日産自動車株式会社 電子技術・システム技術開発本部 シャシー開発部 シャシー制御システム開発グループ 新藤郁真氏)
記者が感じた“技術うんちく”度=★★★
日産社内のテストデータでは、e-Pedalをオフにした状態と、e-Pedalをオンにした状態で比較したところ、ブレーキ操作回数は90%減少したという。このデータは8人社員が通勤時に行ったもので、ドライバーの負担軽減にも貢献しているのは間違いない。それは、実際にリーフを試乗してe-Pedalを経験してみると納得できるものだ。
その4 「横風を味方に!“リアルワールド”でのこだわり」
4つ目のプレゼンテーションは、空力/燃費性能の開発担当者による「横風を味方に!“リアルワールド”でのこだわり」というテーマだ。
高速道路を走行するEVは、ガソリン車との比較で、航続距離低下の要因として空気抵抗が占める割合が多い。これは効率の高いEVは熱エネルギー損失が少ないためだ。
日産自動車の研究データによると、高速道路での空気抵抗によるエネルギー損失量の割合は、エンジン車13.3%に対し、EVは59.3%という結果だという。じつに六割が、空気抵抗による損失なのである。
そこで新型リーフの開発にあたり、航続距離アップを目指した空力特性開発にこだわった。新形状のアンダーカバーや空力デバイスの形状最適化などを採用した結果、先代モデル比で約4%の改善を実現した。これはクラストップレベルの空力性能だという。
このように、空気抵抗を低減する必要性は分かった。しかし、開発担当者がとくにこだわったのが「横風を受けたときの空気抵抗の検討を加えること」だった。要するに、横風に関するデータを考慮して風洞実験を繰り返したのである。
その結果、新型リーフでとくに顕著に表れたのが、リヤのサイドスポイラー形状だったという。横風を考慮することによって、リヤのサイドスポイラーで風の流れを調整し、ボディ後方に流れる空気をきれいな渦にすることができたのだ。これは、自然界の風向きを徹底的に研究して導き出した「ある数字」がとても重要だったのだ。
……これこそが新型リーフにおける、空力の”技術うんちく”である。
「実用巡航距離は、横風の対応だけで2.5kmの向上に成功しました」
「実用航続距離を伸ばすため、横風空気抵抗を徹底的に研究しました。新型リーフ94台分の走行車速データや全275地点の気象データなどを分析した結果、実験では風向きに対して4度傾いた状態での空力性能を評価することを決めました。このデータを基に設計したリヤサイドスポイラー形状によって、実用巡航距離を横風のみで2.5km向上したのです。今後、こうした横風の研究結果は、技術屋の思いとして日産の新しいEVに生かしていく可能性があります」
(日産自動車株式会社 Nissan PV第一製品開発本部 Nissan PV第一製品開発部 空気流性能グループ 髙木 敦氏)
記者が感じた“技術うんちく”度=★★★★
自然のなかを走るクルマだから、“風”という要素を取り入れた。解析の結果、傾き4度で開発したところが、この技術うんちくである。また、リヤのサイドスポイラーやボディ下面に新形状のアンダーカバーは、長時間に及ぶ風洞実験によって最適な形状を導き出すことに成功したのである。
「EVこそ、次の主流」という戦略を持つ日産と開発担当者の熱い思い
以上が、開発担当者が解き明かした新型リーフの4つの開発秘話である。
自動運転技術、シャシー制御、パワートレイン、空力/燃費性能……開発担当者による新たなる挑戦や数々の試行錯誤によって生まれた数々のEVテクノロジーは、今後の日産製EVのラインナップ拡大に大きく役立つものだろう。
日産は、電気自動車のイメージを一新すべく、これまでの「環境に良い・経済的」から「先進的・ワクワク」にスイッチする取り組みに真剣だ。
「EVこそ、次の主流」という戦略を持つ日産と、リーフ開発担当者の熱い思いがひしひしと伝わってくる4つのプレゼンテーションだった。
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