■アジアで支持される「APV」 質素なバンは日本でも求められるか
スズキ「APV」は2004年の登場以来、20年間発売が続いているコンパクトミニバンです。
インドネシアで生まれたAPVは、今ではアジアを中心にロングセラーモデルとなっていますが、一体どのようなクルマなのでしょうか。
【画像】超カッコイイ! これが「スズキのコンパクトミニバン」です! 画像で見る(30枚)
インドネシアやベトナムといった経済発展が著しい新興国では、小さな車体ながら広い室内を持ち、多くの荷物の積載・多人数乗車を可能とする利便性と、優れた経済性を備える小型多目的車(MPV:Multi Purpose Vehicle)の販売が主流です。
そこで、スズキのインドネシア子会社 スズキ・インドモービル・モーター(SIM)でも、3列シート7人乗りの乗用MPV(いわゆるミニバン)の「エルティガ」、そして商用モデルを兼ねるAPVをラインナップしています。
車名のAPVは「All Purpose Vehicle」の頭文字で、まさにMPVと同意語。近年アジア諸国でも増えてきたスタイリッシュな乗用MPVとは異なり、見るからに積載性が高そうな背が高い箱型スタイルが特徴です。
小さなボンネットを備えた車体は全長4155mm、全幅1655mmというコンパクトサイズ。
しかし車内は広く、3列シートの8人乗りを実現しており、いっぽうで荷室の積載性を重視した商用バンも設定。APVをベースにしたトラックも「メガキャリイ」として販売されました。
このAPVは、スズキがインドネシアのみならずマレーシアなどのアセアン諸国、中近東、アフリカ、南米といった世界中で販売する“世界戦略車”として開発されたモデルです。
そのため、道路整備が遅れている国でも使用できるよう、最低地上高175mm以上を確保したほか、エアインテークも101cmという高い位置に置かれており、ある程度の水かさがあっても走行できるよう設計されています。
さらに、気温が高いエリアの使用を想定し、エンジンの冷却、エアコンの性能もアップしていました。
駆動方式は後輪駆動(FR)で、エンジンは1.5リッター直列4気筒(G15A型)と1.6リッター直列4気筒(G16A型)が用意され、エリアによって使い分けられています。
8人乗りの乗用版でも内装はボディカラーの鉄板むき出し・ビニール張りのトリムでとてもシンプル。装備も少なく、実際には“ミニバス”という趣です。
その後2007年に、「APVアリーナ」が追加されています。
APVアリーナはAPVの上級仕様モデルと呼べる存在で、内装全体にパネルが貼られ、シートの生地も高級仕立てになっています。
GL、GX、SGXの3グレードを展開し、最上位のSGXでは2列目にキャプテンシートを設けていました。
デビュー時のリアサスペンションは貨物の積載に適した板バネ式でしたが、APVアリーナではコイルスプリングが与えられ、乗り心地も向上しています。
さらに、2009年になって、より豪華に、より派手な装いを持つ「APVアリーナ ラグジュアリー」が登場。
日本のエアロ系ミニバンのような大きなグリルとエアロパーツを装着し、ホイールは17インチを選ぶことも可能です。しかし最低地上高は175mmを堅守しているのは興味深いところです。
2024年5月現在、スズキグローバルサイトとインドネシアのサイトを見る限りでは、このAPVアリーナ ラグジュアリーは掲載されておらず、現在は販売を終えてしまったようです。
しかしそれ以外のAPVとAPVアリーナはいまだ健在。シンプルで飽きのこないデザイン、簡素な設計、経済性の高さ、価格の安さなどによって、登場20年を経た今もなお、インドネシアでは根強い人気を誇っています。
インドネシアにおけるAPVの車両価格を見ると、車体後部の窓がない「APVブラインドバン」が1億8230万ルピア(日本円換算で約173万円)、最上位の「APVアリーナ SGX」が2億4740万ルピア(約235万円)です。
参考までに同国で販売される「イグニス」の最安値は1億1380万ルピア(約203万円)なので、これと比較しても、APVは依然安価でコスパの良いモデルとして、スズキのラインナップを支えていることがわかります。
日本でも近年は、新型車が高騰していることからこうしたシンプルなモデルを好むユーザーも増えているため、もしAPVが発売されれば、ひそかに注目を集めるかもしれません。
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